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寂しんぼ見聞録

「あ……あん! コメット……そんなに舐められたら……ひゃうぅ」

「ふふっ、ティナの反応、すごく可愛いわ。もっと見たくなっちゃう」

「や、やぁぁ……」


 周りに嬌声が響き渡る。コメットがミルティナの血を吸うために、彼女を押し倒して舌を這わせているところだった。


「ううぅ……優しくしてほしいの……」

「わかったわ。だからティナの感じてる声、もっと聞かせて」


――ダン!!

 飲料水のペットボトルを思い切り叩きつける音が鳴り、二人はビクッと体を震わせた。

 問題があるとすれば、ここは美羽の部屋で、その美羽がすぐそばにいる事だった。


「二人とも、何をやっているんですか……?」


 ピョンと跳ね起きて、一瞬で美羽のそばに正座をする二人。

 その声色で、この家の主が激怒しているという事を悟ったからだった。


「何って、その……血を吸おうかと思って……」

「へぇ~、こんな真昼間っから大声をあげてですか? この前も同じマンションの住人から言われたんですよ。『お宅の部屋から悲鳴のような声が聞こえてきたけど大丈夫なの?』って」


 正座する二人の額からタラタラと冷や汗が止めどなく流れ落ちる。

 そんな二人に、美羽は妙な苛立ちを募らせていた。


「あ、あの……」


 カタカタと震えながらミルティナが小さく手を挙げ、「なんですか?」と、美羽は見下ろしながら答えた。


「わ、私はサキュバスで、コメットはヴァンピールなの……」

「……」


「サキュバスは精気を吸わないとダメで、ヴァンピールは吸血しないとダメなの……」

「……」


「だ、だけどミウは、一週間に二回しか吸わせてくれないの……」

「……」


 無言の圧力。それはとてつもない重圧! 上から見下ろす美羽の放つプレッシャーに、もはやミルティナは涙目になっていた。


「それはつまり、事の原因は私にあると。全部私のせいだと、そう言いたい訳ですか」

「べべべ別にそんなつもりじゃないのぉ……」


 恐怖のあまり青ざめるミルティナを見下ろしながら美羽は考える。

 確かに、二人は出来る限り毎日吸引したいという願望を持っている事は知っていた。けれど美羽にとって、二人のそんな行為はかなり恥ずかしいものであり、そのために週に二回、水曜日と日曜日にだけ吸わせていた。

 そんな現状から、二人はついにお互いから吸引するようになっていた。コメットはミルティナから血を吸い、ミルティナはコメットの精気を吸収する。一見、二人でうまく循環しているようだが、それに対して美羽は面白く思っていなかった……


(なんだかすっごくムカムカします……よくわかりませんけど……)


 二人が親友なのはわかっている。お互い魔界の住人で、理解し合っているのも当然だ。けれど、そんな二人が仲睦まじげに、目の前で吸引しあっているのを見ると、胸の奥が苦しくなった。


「わかりました。もう何も言いません。二人で勝手に吸引して下さい。私もその方が助かりますし!」


 ムカムカする気持ちに流されるまま、二人に言葉をぶつけて発散させようとする。しかし、胸のモヤモヤは収まらない。それどころか、余計にひどくなる気がした。

 けれどもう、言いかけた言葉を止めるだけの冷静さは今の美羽にはない。


――「ただし、これだけは守って下さい。外に声が漏れるような大声は出さない事! それと……吸引するなら私のいない時にやって下さい。見てるだけで恥ずかしくなりますから!!」


 キュウゥっと、また胸の奥が収縮するような痛みが走る。そんな感情を悟らせないようにするために、美羽はクルリと後ろを向いて、表情を見せないようにした。


(ああもう……ムカムカと言うよりはモヤモヤします。これじゃあまるで……あれ?)


 少しだけ冷静になった頭で自分と向かい合い、美羽はこの気持ちを整理した。そしてその結果、ようやく一つの答えが見えてきた。それは……

 疎外感。

 仲の良い二人に対して、自分だけが混ざれていないという事実にハッとした。


(あれ? あれあれ? も、もしかして私、嫉妬してます!? ウソでしょ!? これじゃあまるで、私がコメットさんの事を大好きみたいじゃないですか!! そんな事って……)


 今まで意識した事が無さすぎるあまり衝撃を受けていると、トコトコとコメットが美羽の正面に回り込んできていた。そして、美羽の顔をジッと見上げるように見つめてきた。


「な、なんですか……?」

「ねぇミウ、もしかして……寂しかった?」


 ドクン!

 心臓が跳ね上がり、頭がどんどん熱くなって、目の焦点が合わせられなくなった。


「はあああああ!? な、なんで!? どうして!? 意味分かりませんけど!? どうして私が寂しくなるんですか!? ホント意味不明なんですけど!? 意味不明すぎて、ホントに意味分かりませんけど!?」


 とにかく否定しようと必死に言葉を捻り出すが、パニックを起こした頭では同じ言葉しか出てこない。


「おおお落ち着いてミウ! あのね、ティナがここに来てから、私ずっとティナに寄り添っていたような気がするの。だって、ティナは私のために魔界から全てを捨てて会いに来てくれたでしょ? それがもう嬉しくて嬉しくて……」


 そんな事を言いながら幸せそうな顔をするコメットを見ると、また胸が苦しくなる。まるで、心臓を鷲掴みにされて握りつぶされそうな感覚だった。


「でもね、私はミウの事も好きだから! ずっと一緒にいたいって思うし、もっともっとおしゃべりして、触れ合いたい!」


 フワリと、鷲掴みにされた心臓が軽くなる。


「私にとって、ミウが一番なのよ? 何よりも、どんな事よりもミウが一番大事! だって、本当にミウの事が大好きなんだもん」

「っ!?」


 顔が熱くなり、頭までのぼせたように熱くなった。いや、今は真夏かと思えるくらいに全身が熱くなり、湯気が出るんじゃないかと思えるほどに真っ赤になっていた。

 そして口元が緩み、笑みが零れそうになるのを美羽は必死に堪えていた。


(って、なんで私は喜んでるんですかぁ~!? これじゃあ本当に私、コメットさんの事が……)


 ある意味でさっき以上に混乱している美羽の手に、コメットがそっと触れる。美羽がピクンと反応するが、手を引っ込めようとしないのを確認してからそっと握った。

 さっきまでしぼんでいたいた美羽の心臓は、今ではバクバクと高鳴っていた。


「だからね……ミウも混ざろう?」

「……へ?」


 コメットの言っている意味が分からなかった。と言うよりも、理解するよりも早く美羽は床に押し倒されていた。


「三人で吸えばきっと楽しいわ。ティナもおいで」

「ん。私もミウの精気吸いたかったの」


 パタパタと飛んできたミルティナが、そのまま美羽へ馬乗りになる。

 コメットは美羽の下半身をまさぐっていた。

 美羽のスラっとした細くて綺麗な脚に挟まれるように寝そべり、その脚に指を滑らせる。


「ひゃん!」


 美羽が悲鳴をあげた。

 コメットが美羽の足首からふくらはぎにかけてゆっくりとなぞり、そのまま膝まで登っていく。まるで羽でくすぐられているかのように優しく、触れるかどうかの手つきで太ももを撫で、内股へ進んでいった。


「く、くすぐったいです。何をしているんですか!?」

「だって、ティナは口からじゃないと精気が吸えないから、私は必然的に下半身から吸血しないとダメなんだもの。どっこかっら吸っおうっかな~♪」


 内股をサワサワとくすぐられ、さらに登ってくるコメットの指に声が漏れそうになるのを必死で堪える。だが――


「よ~し、今日はここから吸う事にするわ。ペロリ……」

「ふにゃああああ!」


 コメットが舐めたのは股関節。美羽の股に顔を埋め、足の付け根を必要に舐めあげるせいで、美羽は変な声をあげていた。


「コ、コメットさんやめて下さい! どこを舐めているんですか!? そこは女の子の大切な部分が……むうぅ……」


 言い終わる前にミルティナに唇を奪われしゃべれなくなってしまった。そのまま口の中に舌を入れてくる。

 ミルティナには口を責められ、コメットには股を舐められる。同時に責められるせいで美羽の頭は沸騰寸前だった。

 せめてミルティナだけでも引き離そうと、美羽は覆いかぶさるミルティナの両肩を掴んだ。今は金縛りも使っていないため、そのまま力一杯押せば小さな少女は引き剥がせるだろう。だが、美羽にはそれが出来なかった。

 コメットを賭けてミルティナと勝負をしたあの日から、まだそれほど日にちは経っていない。にも関わらず、すでにミルティナは美羽に懐いていた。

 美羽が学校から帰ると、玄関まで走ってきて抱き付いて来る。

 美羽が座ると、膝の上に乗っかってきて一緒になってテレビ見たりする。ついでに頭を撫でると気持ちよさそうに体を預けて、そのまま寝息を立てるなんて事もあった。

 コメットの言う事しか聞かないと目つきを鋭くしていた彼女が、今ではこんなに自分を慕ってくれている。さっきはコメットとイチャイチャしていた事にジェラシーを抱いていたが、こうして甘えてくる姿を見ると、美羽にとっては可愛い妹のような存在だった。


「ミウの精気、すごく美味しいの。ちゅぱ……」


 こんなにも求めてくる少女を強引に引き剥がす事なんて出来る訳もなく、美羽はただ、耐えるだけになっていた。


「じゃあ私も……いただきまーす」


 カプリ、と足の付け根にコメットが牙を立てた。もちろん痛みは無い。あるのは快楽。血を吸われる時に流れる血流に沿って、全身を内側から舐め尽くされる感覚。さらにミルティナに精気を吸われる時の、全身の細胞や毛穴から快楽が沸き出し、体を包み込んでゾクゾクと震える感覚が混じり合う。


「んんんんああああ~っ!!」


 二人の責めに、もはや意識さえ吹っ飛びそうになる快感を超えて、ついに吸引限界が訪れる。体を弓なりに仰け反らせ、口を大きく開き、美羽は盛大に果てた。

「……私、ここは怒るところだと思うんですよ」


 満足げに一息ついている二人に、息も絶え絶えな様子で美羽はそう言った。


「ええ!? なんで!?」

「二人で攻めてくるなんて反則です……」


 口を塞がれ呼吸をする事さえままならぬ状態で、頭が真っ白になっていく感覚。それは思い返すと死に近いような気がしていた。

 多分、あのまま死んでも気持ちよく逝けるのではないだろうか……


「でも、ミウも混ぜてあげないとすぐに拗ねちゃうしなぁ」

「ちょ!? 誰が拗ねるんですか!? 別に私、拗ねてませんから!」


 コメットが悩みながらそう言うと、美羽は必死に否定した。


「ねぇティナ。明日は私が上になっていいかしら? 久しぶりにミウの首筋から吸いたいわ」

「ん……コメットが上を占拠したら、私が精気吸えなくなるの。私、口からじゃないと精気吸えないし」

「穴が開いてる所だったらどこでもいいんじゃないの? お尻から吸ってみたら?」

「わかったの。舌をねじ込んで捻り出させてやるの。精気を」


 二人はとんでもない打ち合わせをしていた。


「何でスカトロっぽい話になってるんですか!! って、明日? 明日もやるんですか!?」

「そりゃそうよ。私達、毎日吸いたいんだもの。そしてミウは混ざらないとイジけちゃうし」

「ミウは意外と寂しがり屋さんなの」


 寂しがっているという発現を否定する余裕も無く、美羽は困惑していた。さっきのような行為は、美羽にとって淫乱で恥辱。そうそう納得する事も、了承する事も出来ない行為だ。


「あの、コメットさん」

「ん? なぁに?」

「私に構わず、ティナちゃんと二人で循環してください……」


 とても二人のペースに付いていける気がしなかった。

 そんな、美羽の苦悩はまだまだ続く……

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