アーティファクト見聞録
なんか長くなりそうなんで章を分けました。
正直言って、色々と展開が強引すぎる気がする襲撃録編ですけど、あまりツッコまないでください……
「無理じゃ。相手が悪すぎる……」
スフレが頭を抱えながらそう言った。無理もない。相手はあのサタンなのだから。
――魔王サタン。
魔界で五人しかいないと言われている最上位種族。
以前の話し合いで、ミーニャやスフレにお見合いを持ち込んだが断られ、その腹いせに人間界へと飛ばす魔法を使ったという結論に至った存在だ。
ロリコン魔王と呼ばれた彼の使う魔法はどれも破格で、人間界へと転送する魔法を使える事がそれを物語っていると言える。
「とんでもない相手を連れてきたものじゃな……」
「それは……本当に申し訳ない……」
連れてきたわけではないのだが、それを言ったところで似たような状況なのは明白であり、現状が変わる訳でもない。それを理解してか、エルメラは否定する事も無く、ただションボリと肩を落としていたのだが、何か突破口はないかと自ら探りを入れてきた。
「我々だけでは難しいかもしれないが、人間に協力を求めてはどうだろうか? 人間という種族はどれほどの力を持っているのだ?」
「人間はランクで言うなら下位じゃろうな。もっとも、その頭の良さで作る武器が強力だという話は聞くが……」
そうスフレが答えると、コメットが付け加えてきた。
「ケイサツっていう人達が強力な武器を持ってるわよ。魔界で言うガーディアンのような存在なんだけど、数も多いからこの人達に動いてもらうのが一番かも。……でもこの人達って事件が起きてからじゃないと動いてくれないってミウが言ってたなぁ」
確かに、ついさっきまでエルメラはケイサツに協力を求めようとしながら、相手にされていなかった。そもそも、未だ人間は魔界の存在について認識が薄い。いきなり助けてくれと言われても、信じられないというのが現状だった。
だが、エルメラは何か決意したがのように言った。
「事件が起きなきゃ動けないというのなら、事件を起こせばいい。理由はなんでもいいから我が主の所まで連れて行けば、嫌でも何かが起こるだろう」
「ふむ、数人のガーディアンをサタンの所まで誘導して、サタンに襲わせる。それが事件となり本格的にガーディアンが動きだすという算段か。……しかしそれは、最初のガーディアンを生け贄にするという事じゃのぅ……」
いや、と、エルメラは首を振った。
「生け贄になるのは私だ。私が主の前に出て行けば今度こそ殺されるだろう。それを見ればガーディアンも応援を呼ばざる得まい」
いや、と、今度はスフレが首を振った。
「どの道その案は却下じゃな。ミウ……うちのリーダーはそういった犠牲を出すような作戦を好まぬ。仮にその作戦を使うとしても、今度はサタンとガーディアンの激しい闘いでこの街が壊滅的な被害に合うじゃろう。この街は人間界の中でもかなり特殊な街でな、儂ら魔界の住人はここでしか生活できん。……というか、ここでようやく人との共存が実現しそうなんじゃ」
しかし……と、エルメラが苦しそうな表情で言った。
「スフレ殿の気持ちはわかる。だが、これはもう何かの犠牲無しでは解決できないレベルの問題なのだ。厄介ごとを持ち込んできた私が言うのもなんだが、何かを捨てる覚悟で挑まねば、本当に世界が滅ぶ……主はそれだけの力を持っているのだ……」
頭を悩ませる面々だが、ここでミーニャが小さく手を挙げた。
「あの……いっその事、魔限の腕輪を渡してみるというのどうでしょうか……? その代わり、この街には手を出さないでほしいとか、交換条件を付けるんです……にゃ」
「ふむ……それは何ともいえないな。だが主は交換条件を全く飲まないほど頭は固くない。もしかすると条件を飲んで、この街を出て行くかもしれない。そしてどこか遠い地で人間と戦い、優劣をつけようとするだろう。まぁ、魔限の腕輪を身に付けた主に勝つのは相当難しいだろうし、この案はどこまで思い通りに進むか全くわからないな……」
すると今度はスライムが手を挙げた。
「でもやっぱり、黒羽さんはこの街が助かれば他はどうなってもいいような作戦は使わないと思いますラ。交換条件を付けるなら、こちらの指示に従って、絶対人に危害を加えないって約束させるのはどうですラ?」
いや、と、再度エルメラは首を振った。
「確かに主にとって、魔限の腕輪は喉から手が出るほど欲しい一品。ちょっとした条件なら飲むかもしれないが、誰かに従えとか、戦うなとか、そういう条件は絶対に飲まない。誰かに従うくらいなら、魔限の腕輪を破棄してでも人間界で頂点を目指すだろうな……」
小さなテーブルを囲んで面々が頭を悩ませる中、今度はミルティナが手を挙げた。
「魔限の腕輪はこちらにあるの。それを使って、サタンを倒す事は出来ない?」
ハッとしたように、みんなが顔を見合わせた。
「私は魔法の類は使えない。この中に魔法を使える者はいないのか!?」 と、エルメラが言った。
「儂も使えん。ブレスは魔力で扱っている訳ではないしのぉ。スライムも魔法が使えんのは周知じゃろう」 そうスフレが続いた。
「わ、私も、魔法は使えません……うにゃ……」 と、ミーニャも肩を落としていた。
「私はサキュバスとしてエサを取るために金縛りの魔法が使えるけど、あくまで獲物を逃がさないようにするための保険だから、魔限の腕輪を使っても大した魔法じゃないの……だから試すべきは……」
そう言って、ミルティナが視線を動かしていく。他のみんなも、その視線を追っていき、一人の人物に視線が集まった。
「へ? 私?」
コメットが一番意外そうな表情を浮かべて驚いていた。
「コメット殿は、どのような魔法を使えるのだ?」 とエルメラが期待を込めて聞いた。
「私の魔法は『強制言語』って言って、魔力を込めた言葉で相手を言ったとおりに動かせる魔法よ。けど、これもティナのと同じで大した魔法じゃないから、格上には効果がないと思うんだけど……」
「う~む、試してみる価値はあるじゃろ。エルメラよ。魔限の腕輪を貸してくれないか?」
スフレの言葉にうなずいて、エルメラは自分の胸元に手を突っ込んだ。豊満な胸から取り出したのは黄金に輝く一つの小さな指輪だった。
「これは……指輪か? 腕輪ではなかったのか?」 と、スフレが不思議そうに見つめる。
「普段はこのように小さいが、使おうとする者の魔力に反応して大きさが変化する。ではコメット殿、これを」
「うぅ……胸の格差を見せつけられた気がする……」
胸が小さい事を気にしているのか、コメットがげんなりしながら受け取ろうとした。けれど、
――ヒョイ!
受け取る寸前で、エルメラがためらうように手を引っ込めてしまった。
「あの、本当に渡しても大丈夫だろうか……? 受け取った瞬間に世界征服を狙ったりしないか?」
エルメラはこのアーティファクトを渡す事に若干の迷いがあるようだった。だがそれもそのはず、それだけのアイテムであり、それによって自分の主が豹変してしまったのだから……
「安心せい。こやつは世界になど興味は無い。ゲームで天下が取れればそれで満足するような奴じゃ」
スフレの言葉を信じてか、エルメラは再び黄金の輪っかを差し出した。
「魔力を放出してこれに纏わりつかせてくれ。そうしたら、自分の腕と一体化するようなイメージを」
「う、うん……」
エルメラから受け取った小さな輪っかを指で転がしながら、コメットは魔力を放出した。その瞬間、指輪のような輪っかがグニャリと形を変え、コメットの腕に巻き付いた。
周りからは「おお~!」っという歓声が上がる。
「わぁ~……本当に魔力が溢れてくる。何もしてないとなんだかもったいない感じ」
「よしコメットよ。儂で試してみるがいい。何か命令してみよ」
スフレが、「やれるものならやってみろ」と腰に手をあてて薄く笑う。
コメットは少し考えたあと、スフレに向かって手をかざした。
「よぉし! 『スフレ! 私の足を、皮がふやけるくらい舐め回しなさい!』」
――ギィィィィィン!
魔力を帯びたコメットの言葉が部屋中に広がる。
しかし、スフレは平然な顔をして微動だにしなかった。
「ふふん。効かんなぁ♪ ……っていうか、なんでそんな変な命令をするんじゃ……?」
予想外にも恐ろしい命令を口にしたコメットに、周りの仲間達も青ざめながら若干引いていた。
「くっ! もう一度よ! 『スフレ! 素っ裸になって引っこ抜かれたマンドラゴラのモノマネをしなさい!』」
――ギィィィィィン!
再びコメットの言葉が広がっていく。
「だからなんでそんな変な命令をするんじゃ! お主根に持っとるじゃろ! 以前、儂に殺されかけた事を未だ根に持っとるじゃろ!」
「ねぇねぇ、今気付いたんだけどさ、マンドラゴラとドラゴンってなんか似てない? 仲間だったりするのかな?」
「いや、関係ないと思うの……」
今の私怨がこもっていそうな命令をまるで無かったかのような態度で、コメットは他の仲間達と雑談を始めていた。
「ぐぬぬぬぬ! もう実験は終わりじゃ! 腕輪を返せ!」
「ちょ!? もう少し使わせてよ! 色々と試させてよ~」
スフレが腕輪を奪い取ろうとして、コメットは取られないように腕を高く上げていた。それは、言うならば子供の喧嘩。まるで子供が新しいオモチャを取り合うような光景になっていた。
「わ、私は、この者達に頼って良かったのか……?」
そんな光景を目の当たりにしたエルメラは、眉をヒクヒクと動かしながら後悔するような表情で見つめていた。そんな時――
「ただいま~」
美羽の声が玄関から聞こえてきた。
ハッとしたスフレに対して、コメットはチャンスと距離を取る。そして再び手をかざした。
「もう一度よ! 『スフレ、ミウのほっぺにチューしなさい!』」
――ギィィィィィン!
「あの、スフレさんの緊急招集の合図が見えたんですが、何かあったんですか? って、きゃあ!?」
ドアを開けて美羽が入ると同時に、スフレが美羽に飛びついて押し倒していた。
「ウワア、体ガ勝手ニ動クノジャー」
棒読みのスフレが、タコのように唇を伸ばしてキスを迫っていた。
状況がまるでわかっていない美羽は、戸惑いと混乱でどうする事も出来ずに……ただ、悲鳴を上げる事しかできなかった……
「やった! スフレに勝ったわ!」
「いや、どう見ても演技なの……」
ガッツポーズを取り勝利を噛みしめるコメットに、ミルティナがツッコむ。
他の仲間達は、美羽からスフレを引きはがそうと必死になっていた。
「ほんとに……この者達に頼ってよかったのだろうか……」
影を落としながら、エルメラは何度も同じ言葉を小さく繰り返していた……




