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ヴァルキリー見聞録

前回に続いて、今回もスフレ背後霊型視点です。

「妙な天気じゃな……」


 真夜中の0時。スフレは部屋からベランダに出て空を見上げていた。

 ゴロゴロと雷が鳴っているのに雨は降っていない。よく見ると、真っ黒な雷雲はこの街の頭上にだけ広がっていて、遠くの空は晴れていた。


「なるほど、これがミウの言っていたギズモの警告か」


 ギズモ。ガス生命体で魔界の上位種族である奴等は、どうやらこの街の雲に擬態して生息しているらしい。

 ミウの話ではこれまでに二度、その姿を現した。

 一度目は、ミウとコメットがケンカして仲直りしたという日にUFO型で。

 二度目は、スフレの企画で保育園で出し物を演じていた時に幽霊型で。

 そんな茶目っ気のある彼女(?)だが、スフレがこの街に現れた時にもこのような雷雲が轟いていたという。


「この街に上位種族が現れた時、このような形で警告を出しておるのか……」


 この街を見渡す事が出来る彼女だからこそ、大きな力を持つ者が現れた時、人知れずこうして合図を出していたのだろう。

 実を言うと二日ほど前にも似たような天気が訪れた事があった。

 その時には何者がこの街に現れたのかはわからなかったのだが――


「クンクン……魔界の瘴気と溢れる魔力。それと獣の臭いがする。しかも複数じゃ」


 鼻を動かしながら周りを見渡すが、九階のこの部屋からでは下の様子はよく見えない。

 それでもスフレの勘が警鐘を鳴らしていた。この街で何かが起こる。何か、とんでもない事態が迫ってきていると……


「仕方がない。明日になったら街を調査してみるかの……」


 そう呟いて、スフレは部屋の中へと戻っていく。

 明日は何が何でも上位種族を見つけようと心に決めていた。

「頼む、信じてくれ! この街が危ないんだ! いや、この世界の危機と言ってもいい!」


 次の日の昼過ぎ、昨日の雷雲が嘘のような見事な青空が広がる街中を調査していたスフレは、さっそく珍妙な人物を見つけることが出来た。

 頭には羽飾りのついた兜、軽装ではあるが鎧を身にまとい、腕には手甲をはめている。軽装の下には布地のシャツと、割と短いスカートをはいていた。


「お嬢さん、ちょっと落ち着いてくれないか? 全然言っている事がわからんぞ?」

「これが落ち着いていられるか!? モタモタしていたらこの世界が魔王に滅ぼされるぞ」


 ここは交番という場所で、この街の安全を守っている人物が滞在するのだとミウに教わった。だが、魔界で言うガーディアン達は顔を見合わせて笑っているだけで、その女性を相手にはしていない。

 尚も必死に力説する彼女に、スフレは近付いてその腕を取った。


「すみません。儂の知り合いなんです。迷惑をかけました~」


 ユウに教えてもらった敬語を頑張って使いながら、女性の腕を引く。

 その女性は「え? え?」っと困惑していた。


「お主は魔界から来たのであろう? 話は儂が聞く」


 その女性にだけ聞こえるように小さく呟きながら、ここは合せろという意味合いで鋭い視線を送ると、彼女はハッとしたようにおとなしくなった。

 ガーディアン達に軽くお辞儀をして、スフレは女性と交番を後にした。


「儂の名はスフレ。種族はドラゴニアじゃ。お主は?」

「私はエルメラ。種族はヴァルキリーだ。こんな所でドラゴニアに会えるとはなんたる幸運!」


 この街をこんな所と言われた事に対して、少し引っ掛かるものを感じたスフレだが、彼女に悪気はない。そこは流す事にした。

 それにしてもヴァルキリーか、とスフレはため息を漏らす。

 ヴァルキリーと言えば魔界じゃ内輪揉めで周りを巻き込む常習犯だ。また何か自分達の問題でややこしい事に巻き込まれるのではないかと想像するのは容易であった。

 スフレのため息の意味を察する事が出来ず、小首を傾げるエルメラだったが、よほど自分の想いを伝えたいのかついに切り出して来た。


「それでスフレ殿、私の話を聞いてもらいたいのだが――」

「ちょっと待て。仲間がいるからそこで話してもらう。ん~……お主はここで待っておれ」


 そう言って、スフレは細い裏路地に入っていき、一応周りに人がいないかを確認して思い切り跳躍した。地を蹴り、壁を蹴り、あっという間に三階建ての屋上に上ったスフレは、空を見上げ思い切り息を吸い込んだ。

 体内にエネルギーを集め、それを空に向かって一気に放出すると、高く上がった魔弾は空中で炸裂して大きな音が広がった。

 ――メテオブレス。

 ドラゴニアの必殺技で、本気を出せば湖を蒸発させ、山一つ消し飛ばす事ができる威力を持つが、今回はこの人間界にある花火というものに似せて放った。


「今のは……合図だろうか?」


 すでに後ろには待てと言っておいたはずのエルメラが佇んでおり、空を見上げていた。

 まぁ、着いて来ても特に問題はないし、ヴァルキリーも上位種族。ここまで簡単に上ってきたとしてもおかしくはないので驚きもしない。


「うむ。仲間に緊急招集の合図を出した。お主にはそこで全てを説明してもらう」


 そうしてスフレは、エルメラを引きつれて白雪マンションへと向かった。

 ――ピンポーン。

 五階のミウの部屋の前まで来たスフレはチャイムを鳴らす。すると中からはドタバタと慌てたような足音が近付いてきてドアが開かれた。

 出てきたのはコメットだ。


「ちょっとスフレ、さっきの合図なに!? 激レアゲリライベントかと思ってログインしたけどそんな事もないし」

「ゲームで合図なんぞ使うかドアホウ! 普通に緊急事態なんじゃ! みんなは集まっとるか?」

「うん。今日はガッコウが休みだからミーニャもすっ飛んで来たよ。ミウはガッコウの友達と遊ぶとかで出かけてるけど」

「そうか……まぁ、魔界の事は儂らだけで解決した方がよいな。上がらせてもらうぞ」


 エルメラと一緒に部屋の中へと入り、いつもみんなと騒ぐリビングへ足を踏み入れる。メンバーはミウ以外は揃っていた。

 ミルティナ、スライム、ミーニャがすでにテーブルを囲んで座っており、一斉にエルメラに視線が集まった。


「まずはお互いに自己紹介から始めた方がいいじゃろう」


 スフレがそう言って、一人ずづ種族と名前を明かしていく。続いてエルメラも同じように軽く紹介が済んだところで、本題へと入る事になった。


「ではエルメラよ。何が起こったのか説明してくれ」

「わかった。しかし何から話してよいものか……とりあえず、みんなはヴァルキリーという種族についてどこまで知っているだろうか?」


 エルメラが全員の顔を見渡した。

 その中でコメットは腕を組み、難しい顔をしながらこう答えた。


「ヴァルキリーかぁ。私達下位には無縁の存在だからねぇ。なんか二股かけたり、浮気したりする種族でしょ?」

「そんな訳あるか! どういう認識だ!!」


 ショックを受けたように必死で否定するエルメラ。

 そこへミルティナがコメットのために解説を始めた。


「コメットの言っている事はあながち間違いじゃないの。ヴァルキリーは自分のあるじとなる人物を見つけ、その相手にずっと付き従う珍しい種族。どういう基準で主を選ぶかは個人によって変わるけど、基本的には強い者に従う事が多いらしいの。だから私達下位の者にはあまり縁がない」


 コメットがウンウンと頷いている横で、ミルティナはさらに続ける。


「けど、ヴァルキリーは自分の理想と主の理想が食い違った時、別の主へと乗り換えたり、場合によっては元の主に敵対する事もあるって教わったの。だからヴァルキリーが揉め事を持ち込んで来るときは大抵が内輪揉め……もしかしたらエルメラもそうなんじゃないの……?」


 ミルティナの幼く、クリクリとしたつぶらな瞳がエルメラをジッと見つめる。そんな視線に当のヴァルキリーはたじろいでいた。


「うっ、それは……ミルティナ殿の言う通り、これは私と主で解決すべき問題で、それをこっちの人間界に持ち込んでしまった事は本当に申し訳ないと思っている……けれど、こうなってしまってはもはや私だけで解決する事が出来ないのだ。だから頼む、私の話を最後まで聞いてほしい」


 エルメラが深く頭を下げる。そんな彼女に、一同は顔を見合わせて小さく頷いていた。


「ま、そんなこったろうと思ったわ。最初から話は最後まで聞くつもりで連れてきたんじゃから、とりあえずは何があったかを話してみぃ」


 スフレの言葉に頭を上げたエルメラは、ホッとしたように話し始めた。


「実は先日、魔界で新しいアーティファクトが見つかったのだ。その名も『魔限まげんの腕輪』」


 ――アーティファクト。

 それは魔界に眠る秘宝のようなものだ。誰が、いつ、どうやって作ったのかはわからない。けれどその効果は絶大で、使う者によっては魔界の頂点にもなれるという……


「それは、どういう物なんですラ?」 とスライムが聞いた。

「ああ。その名の通り、装備した者に無限の魔力を与えるという腕輪だ。魔法を使える者がこれを装備すれば、魔力が枯渇する事無く魔法を使い続ける事ができる。……そして我が主は魔法の使い手。このアーティファクトの力に魅入られた主は、自分が魔界の支配者になれると考えたのだ。もちろん私はそれに反対した! いくら魔界が実力主義であっても、魔界を支配しようなどという考えはただの争いを生むだけ! 抵抗するものが手を組み、長い戦争が始まり、魔界が地獄と化す……だから私は、必死で主を止めた! どうかそれだけは考え直してほしいと! ……けれど、強い者こそが魔界を生きるにふさわしいと考える主に、私の言葉は届かなかった……」


 そこで一度話を区切った。

 ミルティナとミーニャが冷たい麦茶を運んできてテーブルに並べる。それをエルメラは、一言お礼を言ってから一気に飲み干して、再び話に入るのだった。


「私は主を止めるために自分の命を使う事を決め、こっそりと魔限の腕輪を盗み出した。そして主にこう言ったのだ。『私は今のあなたについていく事は出来ない。本気で魔界を支配したいのなら、まずは私を殺してからにしてもらおう』と……そうして、主が私を攻撃した時に、魔限の腕輪も一緒に破壊されるように仕向けた。……だがここで、主は予想外にも私を殺すのではなく、最近覚えた転送魔法で私を人間界へと飛ばすという行動に出たのだ」


 え? と、一同の表情が驚きに変わっていく。

 それもそのはず。つい最近、そのことについて話し合ったばかりなのだから……


「私が魔限の腕輪を持ち出した事に後から気付いたのだろう。昨晩、主は腕輪を取り戻すために複数の従者を連れてこの人間界へと自ら入り込んで来た。時は一刻を争う。主が動き出せば、腕輪を見つけるために破壊と殺戮を繰り返す恐れがある」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 スフレがエルメラの話を強引に止めた。それはそうだろう。もし一同が考える通りのことなら、それはもう、かなり最悪な事態なのだから……


「エルメラよ、お主のアルジとは誰じゃ!? まさか……」

「……名前はザードと言う。種族はサタン。魔界最強と言われる最上位種族『魔王サタン』だ……」

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