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うたかた少女見聞録②

 その日を境に、夕はスフレの前から姿を消した。

 というよりも、夜にいつもの森に来なくなった。

 当然と言えば当然だ。そう宣告されたのだから。

 けれど、それでもスフレは毎日のように、同じ時間、同じ場所に通い続けた。

 決して来ないと分かっていても……

 そんな日が一週間ほど続いたある日、ついにスフレは一つの決断をした。

 ――ピンポーン!


「は~い!」


 扉から出てきたのは、セーラー服という学校の制服を着た美羽だった。それもそのはず、今は美羽が登校するために家を出る時間帯だったから……


「スフレさん、朝ごはん出来てますよ」


 スフレはお金を持っていない。故に、基本的に食事は美羽の家で取っている。


「ああ、すまない。けど今日は歩きながらでいい。話がしたい……」


 スフレの勧誘に、美羽は当たり前のように頷いてくれた。

 そしてバス停に付くまで、二人は話しを始めた。


「スフレさん、最近元気ないですよ? どうしたんですか?」

「う、うむ……ちょっと心残りがあってな……こんな事をミウに頼むのはお門違いなんじゃが、探してもらいたい人がいるんじゃ。急に会えなくなってしもうて……」

「はい! 私でよかったら力になりますよ!」


 美羽はいつもこうだ。他人の事になると、とにかく全力で助けようとする。それがスフレにとっては嬉しくて、頼もしくて、つい甘えたくなる。


「ユウという名前の娘なんじゃが……」

「ユウさんですか。苗字は?」

「苗字? ああ~……なんじゃったかの。すまん、忘れてしもうた。ミウと同じくらいの年齢で、こう長い髪を後ろで二つに分けて結っておって……」


 自分の手を髪留めの代わりにして、首のあたりで髪を掴んで見せた。


「なるほど。他に何か特徴は?」

「ええっと……そうじゃ! オカルトが好きな奴じゃった。命を賭けるくらい必死で……」

「オカルト好きのユウさんですね。分かりました。私なりに調べてみます」

「すまん……」


 そこまで話すと、美羽の待っていたバスが到着する。

 伝える事は伝えた。あとは待つだけだ。

 とりあえずスフレは美羽の部屋へ行き、食事にする事にした。チャイムを鳴らすと、今度はミルティナが扉を開けてくれた。


「スフレ何してたの。早く一緒にご飯食べるの」

「うむ。悪かったの」


 リビングへ入るとコメットがゲームをしていた。しかし三人が揃った事でゲームを中断し、三人でテーブルを囲んで食事になった。


「ねぇ、最近スフレ元気なくない? どったの?」


 コメットが美羽と同じような事を聞いて来る。

 プライドだろうか? この二人にはあまり知られたくはないとスフレは感じている。

 てきとうに誤魔化して、急いで食事を終えた。


「ご馳走様。儂はもう行く」

「え~!? 一緒にゲームしないの? 狩りに行こうよ」

「すまぬ。ちょっとやる事がある。また今度な」


 そう言ってスフレはさっさと部屋を出た。ただ待つのも気が引けると、彼女なりに少しでも行動したかったのだ。

 スフレは街を闊歩した。アテも考えもなく、ただ闇雲に歩き回る。

 確率が低くても構わない。運よく夕に出くわす事を期待しながら、その足を動かし続けた。

 けれど、そうそう都合よくはいかないらしい。結局何の成果もないまま、スフレは自分の部屋に戻ってきた。

 ――ピンポーン!

 チャイムがなった。美羽だろうか?

 そう思いながらドアを開けると、案の定学校帰りの美羽が立っていた。


「朝に言っていたユウさん、見つけましたよ。ウチの学校の生徒でした」

「な、何!? 本当か!? どこにいるんじゃ!?」


 たった半日で見つけてくれるとは思っておらず、美羽に飛びかかる勢いで答えを急かした。


「その前に少し確認させてください。スフレさんが探しているユウさんって、郎女いらつめ ゆうさんですか?」

「そうじゃ! そんな苗字じゃった!」

「急に会えなくなったって言っていましたけど、それまでは結構会っていたんですか?」

「うむ。と言っても、夜の間だけじゃったが……」

「夜の間だけ……なるほど、そういう事でしたか……」

「なんじゃ!? どういう事なんじゃ!? ミウ、頼むから教えてくれ!!」


 美羽の顔は神妙で、その雰囲気から何かあるとスフレは察していた。


「スフレさん。落ち着いて聞いて下さい。夕さんは……ホスピス患者だったんです」

「ホスピス? すまん、それはなんじゃ?」

「……ホスピスは、病気でもう助からない人が入る施設です。夕さんは病院から死期が近いと宣告され、それでこの街にやって来たんです」

「もう助からない……? 嘘じゃ! だってユウは、この街にはオカルトで来たと言って……」


 そこまで言って思い出した。夕は、理由は別にあると確かにそう言っていた。


「この街は病院の紹介がないと住む事が出来ません。オカルト好きの夕さんは、最後の時間をこの街で過ごそうと決めていたんです。多分、昼間はホスピスで診断を受けたりしていて、夜になってからスフレさんと会っていたんだと思います。会えなくなったのは体調が悪くなったからでしょう。学校ではオカルト研究会を作っていたようですけど、ここ最近はずっと休んでいるようでしたから……」

「ユウが……死ぬ? 絶対に助からんのか?」

「少なくとも人間には無理です。けど、魔界の知識や魔法とかならどうですか?」

「……いやダメじゃ。魔界には病気という知識がほとんどない。だから魔法も効果がない。そもそも魔法を使える住人を儂らは知らん」


 だからこそ切り替える。

 夕を諦めるという思考に切り替える……


「わかった。もうよい……」

「いいって、なにがですか……?」

「死んでいく者に興味はない。魔界ではずっとそうじゃった。人間界でもそれは変わらん!」


 そう。ドラゴニアは死んでいく者をいちいち覚えたりしない。

 魔界では実力が全て。襲ってくる者を蹴散らし、屠り、薙ぎ払う。そうやって倒した相手の名前や顔をいちいち覚えたりはしない。

 けれどそう言った瞬間、美羽に両肩を掴まれていた。


「スフレさん言ってたじゃないですか! 心残りがあるって! それはどうするんですか!?」

「……どうするも何も諦めるしかなかろう! リスクが高いんじゃ!」


 ずっと心が痛かった。夕は最後にドラゴンの姿を見たがっていて、それが叶わないと分かった時に見せたあの表情が、ずっと胸に刺さっていた。

 けど、今更本当の姿を見せるのにはリスクがある……


「……わかりました。私が全責任を取ります!」

「……なに?」

「スフレさんが動いてマズい事になった場合、その後始末は全部私がやります! だからスフレさんは今、自分のやりたい事をやって下さい! これが本当に最後なんですよ!? 間に合わなくなってからじゃ遅いんです! 今動かなかったら、スフレさんは絶対に後悔します。だから、夕さんの所へ行ってあげて下さい!」


 熱い。

 胸が熱くて、今にも弾けてしまいそうだった。

 こんな気持ちにさせてくれたのは、背中を押してくれた美羽だろう。

 グズラグズラ考えて動けなくなるなんて、ドラゴニアらしくない。スフレはいつだって豪快に生きてきた。悩む前に動いていた。問題が起きてから考えてきた。それらが正しいかと言われれば分からない。けど、危うく取り返しのつかない後悔をするところだった!


「ミウ……そうじゃな、すまなかった。ユウのいる所を教えてくれ!」

「はい!」


 夕は今、自宅で療養しているらしい。その場所を聞いたスフレは、九階の手すりに足を掛け、思い切り跳躍した!

 正確に狙いを定めた電柱の上に降り、電柱から屋根へと飛び移りながら移動していく。

 人に見られようが知った事では無い。美羽が言ってくれた。全部私に任せろと。後悔だけはするなと!

 夕と会えなくなってから一週間は過ぎた。もう間に合わないかもしれない。すでに命が尽きようとしているかもしれない。だから、一刻も早く辿り着きたかった。

 美羽に教えてもらった自宅を見つけ、スフレは近くの電柱の上で動きを止めた。

 さて、ここからどうするか。普通に夕を呼んで、連れ出せばいいのだろうか……?

 スフレは少しの間、迷っていた。すると、見張っていた自宅のドアが開き、中から車椅子に乗った夕が出てきた。それを見たスフレの心はまたしても熱くなる。

 続いて両親とおぼしき、大人の男性と女性が出てきた。男性が夕の車椅子を押している。

 両親がいる今、近寄るのは得策ではない……?

 いや、そんな事はどうでもいい。

 約束を果たそう!

 次に会った時は、本当の姿を見せると言った、あの約束を!!

 電柱のてっぺんで、犬のように座り込んでいたスフレの体が巨大化していく。肌を鱗が覆い、頭で揺れていた、夕にアホ毛だと笑われた跳ねっ毛が真上に伸び、鋭い角に変わっていく。

 巨大な赤竜は、バサリと翼を羽ばたかせ、夕の目の前に降り立った。


――「……え?」


 夕と目が合う。見上げる夕は、ポカンと口を開けたまま固まっていた。

 両親の方は酷く動揺しており、母親に至っては腰を抜かしていた。


「スフレ……さん……?」


 名前を呼ばれた。

 やはり、肝が据わっていると思った。こんな唐突な状況でも、正確に現実を見つめている。


「ああ、儂じゃ。気が変わっての、本当の姿を見せてやる事にした」


 すると夕は、徐々に笑顔になっていった。以前森で見たような、瞳を輝かせるまばゆい笑顔だ。


「凄い……凄い凄い凄い!! やっぱりスフレさんは本当にドラゴンさんだったんです! 絶対にそうだと思っていたんです! 初めて見ました! 本当に夢みたい! すごいすごい!!」


 本当に容態が良くないのかと疑うくらいに、夕のテンションは最高潮に高かった。


「散歩に行くのか? なら儂が連れて行ってやるぞ?」

「行きます! ぜひ連れて行ってください!」


 夕が車椅子から立ち上がり、ヨロヨロと必死になって歩み寄ってくる。そんな彼女を、スフレは大きな手で優しく包み込んであげた。


ゆう!!」


 未だ混乱している両親が、血相を変えて引き留める。

 当然だ。自分の子供が化け物にさらわれようとしているのだから。


「お父さん、お母さん、私行くね。これは多分、神様が私にくれた最後の贈り物なんだよ。……だから、行ってきます!!」


 同時にスフレは羽を大きく動かした。一気に真上に飛び立ち、ロケットのように大空へと舞い上がった。


「凄い凄い! 私、ドラゴンさんと一緒に空を飛んでる!」

「ドラゴンではない。正確にはドラゴニアじゃ」

「ねぇスフレさん、あの雲まで高く飛べますか?」

「……聞いておるのか!? まぁよい。どこにだって行けるわ!」


 スフレが猛スピードで雲の中へと突撃していく。


「私、雲って綿あめみたいなイメージだったんですけど、霧のようなんですね」

「あまり空を飛び続けると体が冷える。落ち着ける場所を探すぞ」


 豪快に雲の中を飛び回り、もはや天龍街を抜けただろう。下降すると周りは海に囲まれていた。ある程度飛んできた方角を記憶しながら、スフレはある島にそびえ立つ一本の大きな木の近くへやってきた。

 とんでもない巨木で、ここがどこの国なのかスフレにはわからない。けれど、海を見渡せて丁度良いと、その枝に降り立った。巨木の枝は、しっかりと太く、ドラゴンが踏んでもびくともしない。夕をしっかりと支えながら、スフレは人間の少女の姿へと戻っていった。

 静かに夕を太い枝に座らせる。

 スフレは左手で枝をしっかりと掴み体を固定し、右手では夕が落ちないように、優しく抱きかかえた。

 丁度、夕日が海に沈もうとしている時間で、それを二人で眺めていた。


「ありがとうございます。スフレさんのおかげで素敵な経験ができました」

「別によい。お主の体のことを聞いた。だから儂に出来る事をしたかっただけじゃ」

「そう……ですか。だったら、スフレさんの知っている事、全部教えて下さい。私の知らない事。スフレさんだけが知っている事、全部です!」

「わかった。お主ら人間がまだまだ気付いていない事、全部話そう」


 そうして沈む夕日を眺めながら、スフレは話し始めた。

 自分の事。魔界の事。種族の事。とにかく語り続ける。


「こうして儂は人間界に飛ばされてきたんじゃ。まったく迷惑なじゃ」

「……はい」


「だがあの街にも魔界の住人は多く住んでおる。夕の近くにも気づかないだけで、きっと人間ではないものが沢山おるぞ?」

「………はい」


「儂があの街で知り合ったのは、ヴァンピールじゃろ? サキュバスじゃろ? スライムじゃろ? それとライカンスロープじゃな」

「…………はい」


 夕の反応が次第に遅くなっていく。

 体もダラリ力が入っておらず、完全にスフレに支えられる状態だった。


「……大丈夫か? もう戻った方が――」

「いえ、もっと聞かせて下さい。スフレさんがしゃべり疲れて、もう勘弁してくれって言うまで……ずっとずっと聞いていたいんです。お願いします」

「……わかった。次は魔界の話をしてやろう。向こうは人間界ほど平和じゃない。実力が全てじゃ」

「……………はい」


 話して、話して、話して話して話し続けて、日が沈んで周りが暗くなった頃、夕はついに返事をしなくなっていた。

 それでも話す! ちゃんと聞こえるように、はっきりと語り聞かせる。


「次は……そうじゃな、種族のランクの話をしてやろう。魔界では下位、中位、上位、最上位に分かれておってな、ドラゴニアは上位種族と呼ばれておったわ」


 一から全部説明する。話す事なんてまだまだある。

 そうしてさらに話し続けていくうちに、夕はついに目を閉じた。

 カクリとうな垂れる夕を抱き寄せて、スフレはなおも話し続ける。

 まだまだしゃべり疲れてはいない。夕は望んだのだ。最後の最後まで、自分の知らない未知の存在を教えてくれと……だからスフレは口を動かし続ける。

 星がきらめき、潮風が冷たくなってきても、それでもスフレは話し続けた。

 命を賭けて、自分の知らない存在を追い求めてきた少女に敬意を払いながら。

 夕の体が冷たくなってきた。それでも話す。涙が出そうになるけれど、そんな暇はない。夕に少しでも自分の知っている事を伝えなくてはならないから……

 どれだけのことを語りつくしただろう……?

 もはや何をしゃべっていいのかわからなくなり、さすがに喉も乾いてきた。

 そしてついに、スフレは音を上げた。


「ユウよ、さすがにもう話す事が無くなってしまったぞ」

「……」

「喉も乾いてきた。もう勘弁してくれ。お主の執念には参ったわ」

「……」

「っく……さぁ、もう帰ろう……」


 優しく、そっと抱きかかえながら、スフレは再び竜の姿へと変わっていく。

 そして、元の天龍街へと静かに飛び立った。

 ――バサッバサッバサッ!

 夜の住宅街に大きな羽ばたく音が鳴り、巨大な影が舞い降りる。

 明かりの付いた家からは、夕の両親がすぐに飛び出して来た。

 スフレはすぐに人間の姿に体を変えると、お姫様抱っこで抱えていた夕を、両親に差し出した。罵倒されるか、非難されるか、何を言われても覚悟はできていた。けれど、安らかな表情の夕を見て、両親は言った。


「夕は、どうでしたか?」

「……最後の最後まで未知の情報を吐かされたわ。全く、とんでもない執念じゃったぞ」

「……ありがとうございます」


 ありがとう……? なぜお礼を言われた?

 スフレには理解できなかった。娘の死に目にも立ち会えず、何者かもわからない化け物にその場所を取られ、なぜお礼が言える?

 感謝される事なんて何もない。自分はただ、心残りがあったからそれを抱えたくなかっただけ。いわゆるただの自己満足! ただ自分勝手に連れ回しただけなのだ!

 少なくともスフレはそう思っている。責められても感謝されるいわれはない。

 なんだかとてもやるせなくて、スフレは逃げるようにその場を立ち去った!

 走って走って、体を動かす事で感情を誤魔化した!

 それでもやっぱり気持ちの整理はできなくて……スフレは美羽の部屋の前に立っていた。

 ――ピンポーン!

 チャイムを鳴らすと、中からコメットが飛び出して来た。


「スフレ! あんたニュースになってたわよ! 一体何やってたの!?」


 何も答えられず、俯く事しかできない。

 結局はみんなに迷惑をかけただけ……

 そんな中、美羽もバタバタと飛び出して来た。


「コメットさん、私とスフレさんは少し外を歩いて来ます。留守番をお願いできますか?」

「えぇ……でも……」

「ここは私に任せて下さい」

「う、うん……」


 コメットを部屋に残して、スフレと美羽は二人で外に出た。

 もう外はすっかりと暗くなっていて、歩いている人は誰もいない。

 このマンションの近くにある公園へと入り、そのベンチに二人で座ると、美羽が静かに訊ねてきた。


「夕さんの事、聞いてもいいですか?」

「ああ、ミウのおかげで心残りは消す事ができた。ありがとう」


 かなり沈んだ声に、美羽もかなり心配になった事だろう。


「ユウは儂の腕の中で静かに息を引き取ったわ。最後の最後まであやつのペースじゃったな」


 そのスフレの表情と声色から、いたたまれなくなったであろう美羽が、スフレを抱きしめてきた。小さなドラゴニアの体をギュッと抱いて、そのまま一つだけ説いた。


「スフレさん。こういう時は泣くんですよ」

「……そんなみっともない真似できるか。儂はドラゴニアじゃぞ……」

「けど、好きな人がいなくなったら、泣いてお別れをするものです。もし私が死んだときに、誰も泣いてくれる人がいなかったら、私は寂しいって思いますよ?」

「……」

「スフレさんは、夕さんの事、どう思ってたんですか?」


 迷う。けれど、素直に答えた。


「好きじゃった……」


 そう言った瞬間に、涙がどっと溢れてきた。


「治して……っう……やりたかった……」


 声に嗚咽が混じる。必死で強く保とうとしていた心が、ガラガラと崩れていった。


「笑わせてやりたかった……喜ばせてやりたかった……」


 もう涙が止まらない。

 抱きしめる美羽の腕にも力が入り、それのせいで余計に甘えたくなる。


「もっともっと……一緒にいたかった……!」


 ああそうか、確かにそうだ。と、スフレは思う。

 ――今、この場で夕のために自分がしてやれるのは、泣いてあげる事だけなんだ……


「うぅ……うわああああああぁぁぁぁああああ!!」


 夜の誰もいない公園に、少女の泣き声がこだまする。

 そんなスフレを強く抱きしめて、美羽もまた涙を流していた。


「ミウ、お主は絶対にいなくなるな。勝手にいなくなるなんて許さんぞ……」

「……はい」

「少しでも長く、出来る限り儂と共に生きるんじゃ! 頼むから、もう儂を残して逝かないでくれ……」

「……はい。私はずっとスフレさんのそばにいますから……」


 まるで儚く消えてしまう水の泡。そんな泡沫うたかたのような少女、夕との出会いは、スフレに大きな影響を与えた。

 ドラゴニアの少女、スフレ。魔界では散々暴れ回ってきた彼女は今日この日、初めて命の重みと尊さを知った……

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