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リアルRPG見聞録

「急がなくっちゃ……」


 今、美羽は住宅街を駆け抜けていた。

 今日はスフレが提案した、保育園での出し物を披露して子供達と戯れる日。だが、どんな事をするのか絶対に教えてはくれなかったので嫌な予感しかしなかった。


「ギリギリ間に合いそうですね」


 時間的には午後五時前には出し物は終了する予定であり、今はもう四時を過ぎていた。

 場所は『古鷹保育園』。昔からこの街にある保育園だった。


「お? 美羽じゃん。ちぃ~す」


 上の方から声をかけられた。見上げると、塀の上でバランスを取りながら歩いている少女が手を振っていた。

 彼女は『みお』。以前に美羽と知り合った不良少女で、本人曰く、保育園を留年しているという異端児だ。

 だがその素性は、生き別れた母親を保育園で待ち続けるという健気な性格をしている。

 今日も今日とて、保育園をサボってブラブラ散歩でもしていたのだろう。


「澪ちゃんこんばんは。そんな所を歩いていたら危ないですよ?」

「へっ! アタイは不良だからね。このくらい普通さ」


 そう言いながら、ピョンと塀から飛び降りると綺麗に着地をきめた。


「どうしたんだい? ずいぶん急いでいるみたいだけど……?」

「実は今日、保育園でコメットさん達で出し物をやるんですが、それが心配で見に来たんです。澪ちゃんは見ましたか?」

「いや、アタイはお昼寝のあたりからずっとサボってたからね。午後の内容はわからないよ」


 そうしてしゃべりながら、二人は保育園へと到着した。

 サボっていた澪だったが、美羽が心配するほどの内容が気になるようで、面白がって一緒に参加するようだ。

 保育園の校庭には子供達や先生方が待機をしていた。

 どうやらコメット達は教室内にいるようだ。


「あの、すみません。今日この時間、出し物をやってくれている者の関係者なんですけど、様子を見に来ました。どんな感じですか?」

「ああ、わざわざすみません。なんでもお化け屋敷をやるようなんですが、周りから怪獣のような声も聞こえてきて、ちょっと不安だったんです。先生は入るのが禁止で、絶対に子供達だけで来るように言われてますし……」


 背中に氷を放り込まれたような、心臓が止まりそうな衝撃を受けた。やはり中でとんでもない事をやっているに違いない。

 しかし、周りの園児達を見るとみんな興奮してはしゃいでいた。これだけ見ると出し物は大成功したように見える。


「あの、視察も兼ねて私も中に入っていいですか?」

「はい。次の一組で最後です。一緒にどうぞ。あら? 澪ちゃんも戻って来たのね」

「うぃ。あたいも一緒に入るよ。大人は入れず、美羽が心配する中の様子も気になるしね」


 そして美羽と澪、園児三人の計五名が最後に入る事になった。

 園内は暗幕は張られていて外からは見えないようになっている。

 美羽は子供達を引きつれて教室に入った。中は電気が付いていて普通に明るい。どうやら暗幕は外から見られたくないだけであって、お化け屋敷と言っても真っ暗にする訳では無いようだ。


「ふっふっふ。来たか勇者よ。この保育園は我ら魔族が占拠した。ってあれ? ミウ?」


 だが、早速ボディブローを喰らったかのように、口から空気がぶはっと抜けた。

 コメットとミルティナがその背中のコウモリのような羽でパタパタと空中を飛んでいた……


「わ~空飛んでる~。なんで~?」

「すご~い! すご~い!!」


 子供達にはウケていた……


「ちょっと美羽! 何あれ!? コメットって飛べるの!? 何者よ!?」


 しかし澪には衝撃的だったようで、初っ端っから取り乱していた。


「あれは……ほら天井からロープでぶら下がっているんですよ! 人間が飛べるわけないじゃないですか~やだな~もう」

「ミウ来てたんだ~。いらっしゃ~い」


 パタパタとコメットが美羽に近付いてきた。


「飛んでるよ!? 動いてるよ!? ぶら下がってる訳じゃないんだけど!?」

「あわわわ……ほらアレですよ! ワイヤーアクション! ステージとかでスィーって動けるヤツです!」

「ここ教室なんだけど!?」

「ココココメットさん! 何やってるんですか!?」


 近付いてきたコメットとミルティナに、掴みかかる勢いで美羽は説明を求めた。


「いや~、これ全部スフレの提案だからね~。私達に言われてもなぁ」


 ここで騒いでも仕方がない。すでに美羽達は最後の一組で、もうほとんどの園児がこの体験を終えているのだ。

 美羽はとりあえず諦めて最後まで見て回る事にした。


「……じゃあ、もう筋書き通りにやっていいですよ。見てますから……」

「オッケー! え~っと、どこまでやったっけ?」


 ミルティナと顔を見合わせると、そのミルティナが両手を振り上げて演技に入った。


「この保育園を解放してほしければ、奥にいるラスボスを倒してみるの! だけどラスボスは強い。せいぜい中にいるモンスターを倒して経験値を積み、レベルを上げてから挑むことなの!」

「そう言う事ね。んじゃバイバ~イ」


 二人はそう言って、奥の方へと飛び去っていく。


「……もうワイヤーアクションどころか、普通に廊下の方まで飛んで行ったんだけど……」


 澪が唖然としていると、コメットと入れ替わりに一人の女性が部屋に入ってきた。

 青い髪のロングヘアー。美羽と同じくらいの身長で、ニコニコと笑顔が素敵な女性。

 どこか大人びいたその人は、スライムの水野だった。


「あらあら。人間が迷い込んで来たのね。ここはもう魔族の領域よ?」

「取り返しにきたー」

「ラスボス倒すー」


 子供達はノリノリで戦闘態勢を取る。


「ふふふ。そう、取り返しに来たのね。なら私が相手になるわ。かかって来なさい!」


 そう言うと、水野の体がグニャリとうごめいた。髪も、服も、全て水になり、一塊になって固定される。その姿は人気ゲームに出てくる銀色スライムそのものだった。


「スライムだー! クエドラに出てくるやつだー」

「スライムメタルだー」


 クエドラ――クエスチョンドラゴン――という人気RPGロールプレイングゲームに、大量の経験値を持つスライムメタルというモンスターが登場する。その知名度は園児にまで知れ渡っているようだ。


「やっつけろー!」

「逃がすなー!」


 子供達が元気よく飛びかかり、戦闘が始まるが、澪はまたしても震えていた。


「ねぇ、今、人間がスライムに変わったんだけど……どういう仕掛けなの……?」

「あ~……これは小学校の理科の実験で習うスライム作りですよ。こんな大きなスライムを作るのはさぞ苦労したでしょうね~……」

「そんな訳ないでしょうが! 小学校って生命を生み出す授業とかやってんの!?」

「今の小学校は色んな授業がありますからねぇ。澪ちゃんも早く卒園して小学校に入学すれば、きっと作れるようになりますよー……」


 苦し紛れなのはわかっている。けれど、今の美羽にはそう言って突っぱねるしかない。というか、開いた口が塞がらないのは美羽も同じだった……


「勝った!」


 澪を言いくるめている間にスライムは倒されていた。フルボッコにされて体のあちこちがへこんでいるが、スライムなので問題はないだろう。


「負けたスラ~……大量の経験値を奪われたスラ~……」

「レベルは!? ねぇ何レベルになった!?」


 美羽とは正反対に、子供たちはめっちゃエンジョイしていた。

 スライムを倒し、教室から出ると矢印で道順が示してあった。その順路通りに廊下を進んでいくと、また人影が現れた。

 茶髪のショートヘア。けれど前髪は長く、目元を隠している少女。

 なぜか体操着を着たミーニャだった。


「あ、あの……あなた達は勇者ね? ここは通さない……にゃ」


 そう言って四つん這いになると、頭からケモミミが。腰からモフモフの尻尾が伸び、ブンブンと振り回し始めた。


「わ~猫娘だ~!」

「違うよ。犬だよ~」

「私、狼だから! ライカンスロープっていう種族だから!」


 子供の間違いにムキになって、普通に正体をバラしていた……


「私は強いよ……伝説のスライムを倒して経験値を稼いでいない限り、私には勝てないんだから!」

「倒した~!」

「さっきスライムメタルに勝ったもん!」

「ええ~、そ、そんな~……」


 ミーニャが怯むと、今がチャンスと子供達が飛びかかっていく。

 あくまで戦闘は子供達に任せて、美羽は澪の様子をうかがう事にした。


「ねぇ、今ニョキって耳と尻尾が生えたんだけど……あれはどういう事なの……?」

「あれはですねぇ。衣装ですよ。そういうギミックがついている衣装なんです」

「どこが!? ただの体操服じゃない!? 頭には何もつけてないし誤魔化す気あんの!?」


 もはやどうにでもなれ。と、美羽はそんな気分だった。


「みにゃ~~!! 痛い痛い! ミウさん助けて下さい!」


 子供達には耳を引っ張られ、尻尾を鷲掴みにされ、ミーニャは普通に泣き叫んでいた。

 美羽が子供達をミーニャから引きはがし、落ち着かせる事でようやく子供たちの攻撃は止まった。


「うぅ……もう許して……」


 壁にピッタリと身をくっつけて、体を小さく縮こまらせ、涙目でガタガタと震えるその姿は、少しでもドSっ気があるならば興奮していたかもしれない。


「勝ったー!」

「ねぇレベルは? 今のレベルはー?」


 子供たちのテンションはさらに上がっていく。


「うぅ……もうこんなに強くなってしまっては、ラスボスに任せるしかないわ。向こうにいるラスボスが最後の敵よ……」


 ラスボスが最後の敵というのもおかしな表現な気がするが、そこは気にしないで廊下を進む事にした。ミーニャとすれ違い様に、彼女をジト目で見つめてみると、ミーニャはオドオドとした態度でこう言った。


「こ、これはその……全部スフレさんの企画ですから……失礼しますにゃ!」


 そうしてそそくさと逃げていく。

 ラスボス……スフレの事だろうなと思いながら順路に沿って行くと、裏口から外に出るようになっていた。外へ出ると、そこは保育園の敷地の裏手。そして5mほど先にはスフレが仁王立ちで待ち構えていた。


「よくここまで来たな勇者共よ。儂がラスボスじゃ」

「子供だー」

「弱そー」


 子供達にそう言われても、スフレは不気味に笑っていた。


「弱そうか……なら、この姿を見ても弱そうだと言えるかのぅ!」

「ちょ!? スフレさん待っ――」


 止めようとしたがもう遅かった。スフレの体が膨れ上がり、真っ赤な鱗に覆われた、一本角の竜に姿を変えた。


――「ギャオオオオオオオオオオン」!!


 咆哮が周囲に響く。表にいた先生が言っていた怪獣のような声、それは紛れもなくスフレの雄叫びだ。

 二階建ての建物ほどの大きさはあるが、ある程度身を屈ませているために、建物を挟んで表にいる先生方には姿は見えていないのだろう。しかし、その迫力にさすがの子供達もすくみあがっていた。


「ド、ドラゴン……人間がドラゴンに変身したわよ!? 美羽、説明して!!」


 澪は震え声だった。いくらなんでもこれはもう誤魔化しきれない。


「あ~……ハリボテですよ? すごくいい出来ですよね~……?」

「嘘つけえええええ!! あんたどんどん誤魔化し方が雑になってるわよぉ!?」


「くっくっく。どうした勇者達よ。かかってこんのか?」


 スフレが子供達を挑発する。子供達もこればかりはどうしていいのかわからない様子だった。

 美羽に至っては、竜化しても言葉は普通に話せるんだなーっと思考がそれるほどに現実逃避をしていた……

 しかしその時――


「怯えないで! 勇気をもって戦って!」


 透き通るような声が聞こえてきた。

 なんと空中から五人の女性が舞い降りてきたかと思うと、ドラゴンの姿となったスフレにしがみつき、その巨体を抑え込んでいた。

 だが、その姿はまるで幽霊だ。色白で真っ白な着物を身にまとい、頭には三角頭巾――天冠てんかん――をつけている。


「ぬぅ!? 体が……動かん!!」

「さぁ、今のうちに攻撃を!」


 フワフワと風に飛ばされそうな彼女達だが、五人掛かりでスフレの体に纏わりついていた。


「よ、よぅし! いくぞみんなー!」


 一番元気だった園児がスフレに突撃していく。それに続くように、残った二人も後を追い、石を投げつけたり、飛び蹴りを喰らわせたりと必死に戦っていた。


「ぐわあああああ。これほどまでにレベルを上げているとは……」


 スフレの体が縮み、元の少女の姿に戻っていく。


「わ、儂の負けじゃ。もう悪さはせんから許してくれ~」

「か、勝った! ドラゴンに勝ったぞー!」

「やったー!」


 子供達が飛び跳ねて喜んでいる。そこへ、先ほどの幽霊が目の前に降りてきた。


「勇者達よありがとう。これでこの保育園も解放されます。さぁ、ゴールまで私達が案内しましょう」


 そういって手を差し伸ばす。

 子供達は少しだけためらっていた。美羽でさえためらっている。なぜなら、このような相手とは今までに面識が無かったからだ。恐らくスフレかコメットの知り合いだろう。

 幽霊のように浮いている女性に目を向けると、にこやかな笑顔で返してくれる。その表情はとてつもない美人で、着ている死装束しにしょうぞくを除けば天使か女神のような美しさがある。声はとても優しくて、母親を思わせるようだった。

 そんな彼女達に園児達は自然と心を開き、手を繋いで導かれるように着いて行く。

 少し歩くと、そこには『ゴール』と書かれた手作りのゲートがあった。どうやら、裏口から外に出て、建物をグルリと回って表のスタート地点に戻ってきたようだ。


「みんな、これで今日のお化け屋敷は終わりよ。でもね、この街には今みたいなちょっと変わった住人も暮らしているの。でも決して怯えないで。あなた達は今、色んな相手と触れ合ったのだから」

「わかったー」

「次も倒すー」

「いや、倒すのは困るんだけど……」


 少し困った表情の幽霊は、次第に薄くなっていく。


「それじゃあみんな、さようなら」


 そして、美羽と澪、園児三人と手を繋いでいた五人の幽霊は同時に消えた。

 今まで手を繋いでいた感触も、その温もりも、まるで夢だったかのように消えていた。

 唖然とする五人。だが、恐怖はない。ほのかに暖かい気持ちだけが残っていた。

「一体どういうつもりですか! ヒヤヒヤしましたよ!」


 保育園の帰り道、魔界の住人と一緒に歩く美羽はプンスカと怒っていた。


「保育園の裏には普通に家屋が並んでいます。スフレさんの姿は多くの人に目撃されているかもしれないんですよ!? 一体何を考えているんですか!!」


 も~! と、美羽の怒る姿はあまり迫力がない。


「これは全部スフレさんの企画らしいですね! ちゃんと説明して下さい!」

「あ~……まぁそんなに怒るでない。確かにこれは儂が企画したことじゃが、全員一致で決めた事でもある」


 え!? と思い、周りのみんなの反応を見ると、誰も否定する様子はなかった。


「ミウよ。儂らはお主に感謝しておる。魔界から来た人間ではない儂らを、ここまで手厚く迎え入れてくれる人間はそう多くはないじゃろう。だがな、それでもまだ足りんのじゃ」

「……足りない?」

「お主は儂らを人間として、本当の正体を隠して生活させようとしておるじゃろ? だが、そうやって隠し通そうとして、いざバレた時に相手に与えるショックは計り知れないものがある。そう、儂らはむしろ、隠すのではなく、自らバラしていかなくてはならないと思っておる。それが本当の共存というものじゃ」

「そ、それは……そうかもしれませんけど……」

「少しずつでよい。今日の出来事を子供たちは親に話すじゃろう。だが、しょせん子供の言うこと。信じる者は少なく、不思議に思いながらもそれ以上追及せん者もいる。そうやって、少しずつ儂らの存在を表に出していかなくてはならないんじゃ。隠そうとしたものがバレた時と、自らバラしていくのとではそれだけ印象が変わる」

「私は……間違っていたんですね……?」

「そうではない!」


 少しだけ悲しそうな表情をした美羽をスフレが抱きしめた。

 小さなスフレの体は、抱きしめたというよりは抱きついたというほうが正しいのかもしれない。それでも、スフレは真剣に美羽に自分達の想いを伝えようとしていた。


「ミウ、お主は一人で抱え込みすぎるのじゃ……それがみんな心配なのじゃ。……まぁ、コメットがそばにいるから色々と不安になるのもわかるんじゃが……」

「えぇ!? 私ぃ!?」

「儂はお主の使い魔になってもいいと考えておる。誰を敵に回しても、お主の味方でいるつもりじゃ。だからこそ、もっと信じて欲しかった。自分たちの事は自分達で決められると証明したかった。そのためのコミュニティじゃった。確かに相談も無しにこの企画を実行したのは悪かったと思っておる。しかし、儂らとてお主に頼ってばかりではいられない。自分達の意思で、考えで、よりよく共存できる方法を探しておる。それも見て欲しかったんじゃ」


 スフレは一度、顔を上げて美羽の顔を覗き込む。

 美羽は少し驚いたような、意外そうな表情だった。


「そうそう。ミウは私達のリーダーなんだから、デンと構えてくれればいいのよ」 と、コメットが笑いながら言った。

「細かい事は私達に任せて、ミウは普段通り過ごしてくれればいいの」 とミルティナも笑っていた。

「もし本当に困った事があったら、ちゃんと黒羽さんに相談しますラ」 と水野付け加えた。


 ああ、同じなんだな。と美羽は思う。

 美羽は決して一人で抱えようだなんて思ってはいないし、みんなを信じていない訳でもない。みんなの事がこんなにも好きになってしまったから、自分の出来る事をしたいと思っているだけだった。

 恥ずかしいからそれを口にしたりはしない。その代わり、小さなドラゴニアの頭を優しく撫でた。こんな時はスフレも子供らしく、顔を赤くして照れているのが可愛らしかった。


「そう言えば、あの幽霊はどこにいったんです? 私にも紹介して下さいよ」


 美羽はふと、あの五人で舞い降りてきた幽霊の事を思い出し、話を振ってみた。


「幽霊? なんのこと?」 とコメットは首を傾げた。

「ほら、スフレさんの動きを封じて、その間に攻撃をするように誘導する係をやってた人ですよ」

「あ~、なんかいたね。けど呼んだのは私じゃないわよ? スフレが呼んだんじゃないの?」

「なぬ? 儂は知らんぞ? てっきりコメットが土壇場で台本を変えたのかと思っておったわ」


 シーン……

 みんなが口を閉ざした。誰が、誰の知り合いで、なんのために呼んだのか。それを口に出す者が現れるのを誰もが待っていた。

 だが、誰も名乗り出ない……


「えええ~~!? 誰!? 誰が呼んだの!? ティナとか?」

「わ、私じゃないの! スライムじゃないの?」

「わ、私も知らないですラ! ミーニャちゃんとか?」

「ち、違いますにゃ! 私も気にはなってたんですが、まさか本当に幽霊!?」


 キャーキャーと、その場は軽くパニックに陥った。

 消えて行った幽霊を思い返し、美羽は空を見つめてみる。

 その時、ある一つの考えが頭をよぎり、それが閃きに変わった。


「あ、私、わかっちゃいました!」

「え!? マジで!? なになに教えて!」

「コメットさん、マジなんて言葉どこで覚えたんですか……?」


 そんな事はどうでもいいと急かすコメットが妙に面白くて、美羽はついつい意地悪をしたくなった。


「じゃあヒントだけ教えますね。コメットさんも一度だけ会ったことがありますよ」

「ええ~!? あったっけかな~……」


 仲間達から、早く思い出せと揉みくちゃにされるコメットを見て、クスクスと笑ってしまう。そして美羽は、もう一度夕暮れの空を見上げた。

 そこには、茜色に染まる大きな入道雲が浮かんでいた。

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