表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/30

恋バナ見聞録

今回も文字数の関係上、茶番と本編を分けて載せることにします。

「ところでミーニャよ。お主たち親子はいつ、どうやって、なぜ人間界へやって来たのじゃ?」


 ドラゴニアのスフレがそう聞いた。

 ミーニャが転身を見せてくれてから、ひとしきりみんなでしゃべって遊んだあとの事である。


「えっと、私達が来たのは数ヶ月くらい前です。でも来たくて来たんじゃなくて、お父さんと歩いていたら突然光に包まれて、気が付いたらこっちの世界にいたんです……にゃ」


 一同がざわついた。それは、スフレがこの世界に来た現象と同じだったからだ。


「スライムよ、お主はどうじゃ? もしかして同じか?」

「はい! 実は私も同じですラ! なんだか変な神殿を見つけて、中に入ったらいつの間にかこの世界に飛ばされていたんですラ」

「そりゃ異界の門じゃ馬鹿者! お主は普通にゲートをくぐって来ただけじゃ!」

「ス、スラ~……」


 ションボリする水野を、ミルティナがナデナデと慰めていた。


「ミーニャよ。実は儂も空を飛んでいたらいきなりこっちに飛ばされた。これは儂の憶測じゃが、人間界に転送する魔法を習得したものが現れて、自分にとって邪魔だと思う者を消そうとしておるのではないだろうか? お主ら、誰かに恨まれるような事はしておらんか?」

「えぇ!? ええっと……お父さんが浮気して、お母さんに捨てられたり……とか?」

「そんな内輪揉うちわもめではないわ! 儂と共通して恨まれるような事じゃ!」

「そ、そんなこと急に言われても……スフレさんは心当たりないんですか……?」


 逆に問われて、スフレは少しの間考えていた。だが――


「わからん。というよりも恨まれる事が多すぎて覚えておらん。サイクロプスとの抗争で思い切り放ったメテオブレスで湖を蒸発させ、そこが水妖の住処だったり、同じくコメットを消し炭にしようと放ったメテオブレスで山を一つ消し飛ばし、そこがイフリートの住処だったり……」

「極悪じゃない!!」


 コメットが思いきりツッコんだ。


「ええいうるさい! 魔界じゃよくあることじゃ! やっぱり儂よりもミーニャが恨まれておる事から考えた方が早いわ……」

「えぇ~っと……魚を捕ろうとして、尻尾を掴んで空へ放り投げたらそれがマーマンさんだった事がありました……うみゅ……」

「それは……軽率じゃったな。けど儂はマーマンに恨まれるような事はしておらん。違うな」

「同胞と岩の投げ合いで遊んでいたら、近くにいたユニコーンさんにぶつかって角を折ってしまった事もあります……ふみゅ……」

「ユニコーンの角は再生すると言われておる。そこまで怒ってはおらんじゃろ」

「う~ん、あ! そうです! 私、とんでもないものを見たんです!」

「な、なんじゃ!? 何を見たんじゃ!」


 スフレは身を乗り出すほどに興奮いている。それに伴い、周囲の期待も高まっていった。


「森の中で、メデューサさんとサラマンドラさんがデートをしていたんです!! 絶対に誰にも言うなって言われたんですけど、もしかして私、口封じのために飛ばされたのかも!?」

「だあああ!! んな訳あるかあああ!! 他人の恋なんぞどうでもいいわあああ!!」


 ギャオーンと竜の咆哮を轟かせるように、スフレが喚き散らした。

 しかしそんな時、コメットが急に真面目な声でスフレを止めた。


「ちょっと待ってスフレ! 今の話、すごく大事なことを見逃してるわ!」

「な、なぬ!? なにか気付いたことがあるのかコメットよ!?」


 スフレに冷静さが戻り、周囲の期待も高まっていった。


「メデューサは興奮すると相手を石化してしまうけれど、サラマンドラには石化耐性はない。逆にサラマンドラは興奮すると相手を燃やしてしまうけれどメデューサには炎耐性はない。つまりこれは決して実る事のない茨の恋ってことよ!!」

「んがああああ!! だからそれは今話すべきことではないじゃろうがあああ!!」


 ギャオーン!

 再びスフレの咆哮がこだまする。


「あ、でもそういう決して結ばれない恋の話、私は興味あるかも」 と美羽小さく手を挙げていた。

「ですよね! なんだか応援してあげたくなってしまいますラ」 とスライムも乗り気だ。

「ミーニャ。その二人のデートはどうなったの!?」 とミルティナも真剣だった。

「はい。二人は近すぎず、遠すぎず、一定の距離で肩を並べて愛を語っていましたにゃ」


 完全にこの場は恋バナの雰囲気になっていた。


「お、お前ら……まじめに考えんかーーーー!!」


 ついにスフレがキレた……


「あ、恋バナと言えば、人間界に飛ばされる少し前、私をお嫁さんにくれって訊ねてきた男の人がいたみたいですにゃ。けど、それは関係ないですよね……?」


 ふと思い出したかのように、ミーニャが切り出した。

 またしても周りの女子はキャアキャアと盛り上がり始める。


「ふむ、お見合いか……いや待て、それじゃ!! その男、『ザード』という名前ではなかったか!?」

「ふえ!? わ、私はその時いなくて、お父さんが怒って追い返したらしいので顔も名前も知らないんです」

「恐らく間違いないじゃろう。儂もあやつから誘われたんじゃ。まぁ一蹴してやったがの。……なるほど奴ならそういう魔法を使ってもおかしくないわ」


 スフレが一人で納得がいったようにうなずいていた。

 だが周りはピンと来ていない。なので美羽が詳しく聞いてみる事にした。


「そのザードさんってどんな人なんですか?」

「種族はサタン。魔王の異名を持つ、魔界最強と言われる最上位種族の一人じゃ。奴の使う魔法は大地を割り、時間を止め、空間さえも捻じ曲げると言われておる。おおかたフラれた相手を腹いせに人間界へ飛ばしておるんじゃろ。殺す訳にもいかんしな」

「は~。すごい人もいるんですね。けどスフレさんが断るのは意外です。強い人が好きそうなイメージがあったんですけど」

「儂は13歳。ミーニャは12歳じゃぞ! 完全なロリコンじゃ! そんな奴の所に嫁ぎたくないわ!」


 なるほど、と、苦笑いを浮かべる面々であった。

 そして、美羽はさらに掘り下げてみる事にした。


「ところでコメットさん。その魔界最強の最上位種族って、他にはどんな種族がいるんですか?」

「えぇ!? それを私に聞く!? えっと確か……自分の事を『リヴァイです』って名乗る奴とか、『ハーさん』ってあだ名みたいな奴とかいたような……」

「それを言うなら『リヴァイアサン』と『ハーデス』じゃろ! ごちゃ混ぜにするでないわドアホウ!」


 今度はスフレが思いきりツッコみ、コメットはなぜか照れ笑いを浮かべていた。

 すると意外にも、ミルティナが解説を始めた。


「魔界最強の最上位種族は五人いるの。『魔王サタン』。『海神リヴァイアサン』。『死神ハーデス』。『毒の化身ヨルムンガンド』。そして『破壊神バルバロッサ』。コメットは勉強不足なの」

「へぇ~。ティナちゃんは賢いですね。この五人は優劣が着けがたいんですか?」

「ううん。暗黙の了解で、この五人は誰が本当に最強なのか決めちゃいけないの」

「どうしてですか?」

「本気を出すと、魔界が消滅するから」


 淡々と語るミルティナの口調は、むしろ説得力があった。

 確かに、ドラゴニアが暴れると山や湖が消し飛ぶらしい。そのさらに上の種族が本気で戦えば、魔界そのものが消滅しかねないのだろう。


「さ、謎も解けたしもういいじゃろ。あとはお主らで恋バナでもなんでも進めてくれ」


 そう言って、スフレはお菓子に手を伸ばしながら横になった。


「あれ? もうこの話はいいんですか?」 と美羽が訪ねた。

「うむ。結局向こうからこちらへ飛ばしてくるのじゃ。儂らにはどうしようもない」


 そう。人間界こちら側からではどうにも対策のしようがないのは事実だ。


「ちょっと待って。私、とんでもない事に気が付いちゃった……」


 またコメットが真面目な表情でそう呟いた。


「そのロリコン魔王は、お見合いを断った相手を腹いせにこちらへ飛ばしてくるのよね? って事は、こっちには美少女がわんさか送られてくるって事じゃない! すごいわ! ここに私のハーレムを築けるかもしれない!!」


 ……コメットは真剣だ。

 輝く瞳。力強く握られた拳。熱い口調。

 その全てが、彼女を本気にさせて奮い立たせている事が分かる要素を含んでいた。


「へぇ~。ハーレムですか。それは壮大な夢ですね~」


 しかしここで冷風!

 突如冷たい空気が流れ込んでくる。その根本となるのが美羽だった。


「コメットさんは美少女が大好きですもんね? 可愛ければ誰でもいいんですよね?」

「あ、あれ? ミウ怒ってる……?」

「いえいえ怒ってませんよ? なんで私が怒るんですか? 意味わかりませんけど?」


 そしてコメットは気付く。美羽の瞳から光が消えている事に……


「覚醒してるぅ~!? この流れで!?」

「コメットさんこの前言ってましたもんね。メロンばかり食べてるとバナナが食べたくなるんでしたっけ? どうぞどうぞ、そのクソみたいな欲望を存分に満たして下さい」

「だめ~! 女の子がクソとか言っちゃだめだから! っていうかごめんなさい! 私にとって一番はミウとティナだから! だからその覚醒顔やめて!」


 コメットは、美羽のその無表情で思考が読めない瞳に身震いしていた……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ