ランダム
僕は目を開け周りを確認する。
どうやらここは森のようだった。近くに滝でもあるのか水が落ちる音がする。
僕は転生と聞き、てっきり赤ちゃんで生まれるのかと思っていたが、僕は2本の足でしっかりと地面に立っている。
「思っていた転生と違う……あれ?」
言葉は喋ることができる。しかし、自分が発した声の高さに違和感がある。元々それ程男らしい声ではなかったが、ここまで高くはなかったと思う。
「転生したんだから、声が変わって当たり前かな?」
声はもう気にしないことにして自分の姿を確認する。
服はきちんと来ていた。ワンピースのような布の服で少し汚れているし、ボロボロになっているところもある。まるで奴隷が着ている服のようだ。
手と足は白くて細い、そして髪は何故か腰まで伸びていた。髪の色は、白銀だろうか。一本一本がきめ細かくまるで女の子のような髪だった。
少し不安になってきたが、まだそうと決まったわけじゃない。しかし、此処だと顔を認できない。
「水の音がしているところに行って確認しよ」
水の音がした方に歩き出す。滝があるのならそこに水があるはずなので、水面に映る自分の顔を確認できるだろう。
川に着く間に、自分の種族が何か調べることにした。
まず、獣人族はないだろう。耳も尻尾も今の僕にはついていない。それと魚人族も違うだろう。魚人族なら水中に生まれる気がするし。
エルフはどうだろう。エルフと言ったら森のイメージもある。エルフの特徴と言ったら長い耳だ。
それを確かめるために耳を触ってみるが、そこに長い耳はない。けど、なんか普通の耳とも少し違う気がする。
自分の種族を調べながら歩いているとすぐに川に辿り着き、水面に映る自分の姿を確認してみる。
「えぇぇーーー!? うそぉ!」
覗いた瞬間僕の驚愕の声が森に響く。
水面に映った自分は女の子だったのだ。しかもかなりの美少女と思う。白い肌、細い手足、整った顔立ちに太陽の光で輝く腰まで届く長い白銀の髪、赤くルビーのような綺麗な目、年齢は十二~十三歳ぐらいだろうか。そして身長は百四十後半ぐらいかな。きっと街を歩けばほとんどの人が見惚れてしまいそうな姿だった。
最初から怪しいとは思っていたが、まさか本当に女の子になっているとは、けどまだ見た目がそういう風に見えるだけかもしれない。
ゆっくり、自分の胸に手を伸ばす。この年でも女の子なら少しは胸が膨らんでいるはずだ。
「膨らんでいるんだけど!?」
そこには、小さいが確かな柔らかい膨らみがあった。下の方にもあるべきものがない。
「本当に女の子になっているってことなの!?」
女の子になっていたことには驚いた。勝手に、男として生まれ変わると思っていたのだが、違ったみたいだ。
確かにこれは転生なのだ。生まれ変わるなら、性別も男女のどれかのランダムになってしまうだろう。
その結果、僕は女の子として生まれてしまったのだ。
「はぁ。仕方ないか文句言っても何か変わるわけではないしね」
別に「絶対男性がいい!」というわけではないのでこのまま、女の子として暮らそう。誰にも言わなければ僕が元々男性だったと知っている人もいないのだし。
気を取り直して種族を調べるために、水面に映る姿をもう一度確認する。水面の姿を見ても種族はわからない。耳が少し尖っている気もするがどうなんだろう。
確か吸血鬼は歯に牙を持っているはずだ。
それを確かめるために、口を開き牙があるかどうかを確認すると水面に映る歯には、人で言う犬歯に当たる場所に鋭い牙が見えた。
「牙がある。なら僕の種族は吸血鬼? けど、太陽の下を普通に歩けているしどうなんだろう?」
地球で語られる吸血鬼には様々な弱点があり、その中でも太陽の光は吸血鬼が最も嫌う弱点のはずだ。もし、少しでも太陽の光を浴びたら身体が灰になるほどに。
なのに、今の僕は普通に太陽の光を浴びている。
もしかしたら、アルティアでは地球みたいな弱点がないのかもしれない。ここは異世界なのだから、僕が知っている常識が当たり前ではないから、全然あり得ない話ではないだろう。
(何か近くにいる?)
種族を確認していると森のほうから誰かが見ている気配がした。どうやら、今の僕は普通の人以上に聴覚と視覚と嗅覚が敏感になっているみたいで、周りの音などがよく聞こえるようになっていた。恐らく吸血鬼の体だからだろう。
茂みの方から獣の臭いが鼻に届く。
獣は自分の場所がばれたことが分かったのか、それとも奇襲のつもりか僕に向かって茂みから飛び出してくる。
飛び出してきた獣を横に移動して避ける。襲って来ると分かっているなら、避けるのなんて簡単だ。
飛びかかってきたのは、狼の様な生き物だった。体格的には一メートル以上かな。鋭く尖った歯に爪は木を簡単に切り裂けそうなほど鋭い。
恐らく、この狼が魔物と呼ばれる生物だろう。
狼が再び襲ってくる。速度があまりないので、その攻撃は簡単に避けることができる。
この吸血鬼の身体はとても動きやすいし視力もいいので、魔物の動きがよくわかる。
狼は連続で襲ってくるが、僕には一度も当たらない。狼は疲れてきたのか攻撃が単調になってきていた。 狼の攻撃を躱しながら、隙が出来たところに狼に拳を叩き込む。すると狼は川の向こう岸まで飛んでいってしまった。
「えっ!」
力はそんなに込めていなかったので、まさかあんなに飛ぶとは思っていなかった。
むこう岸まで飛んで行った狼は、そのまま動こうとしない。
まさかこんなに強い身体に生まれ変わるとは。
それにしても転生して数十分で魔物に襲われるなんて。しかも、ここは森だから魔物が沢山いる可能性が高い。いつ、また魔物に襲われるか分からない。
「これからどうしよっかな」
この森に魔物が出る以上早めに森を抜けたいのだが、森で迷う可能性の方が高い。なら水もあるここで夜を過ごし朝から森を調べるのがいいだろう。
魔物が飛んでいった方を見てみると、魔物が立ち上がろうとしていた。しかし、ダメージが大きいようで上手く立ち上がれないでいる。
今の僕の身体能力はかなり高くなっているから、この位の幅の川ならジャンプすれば飛び越えられる気がする。足に力を込めて飛んだら、予想通り川を飛び越えることが出来た。
止めを刺すため魔物に近づく。狼と言えば群れで行動するから、このまま仲間でも呼ばれたらめんどくさいことになる。もう一度魔物を叩きつけて、完全に絶命させる。
その瞬間頭の中に文字が浮かんできた。日本語ではないよく分からない文字だ。けどその読み方は全部理解できた。
「えっと……レベルが上がりました。2レベルになりました。スキル闇魔法1、闇耐性1を手に入れました?」
名前 なし
種族 吸血鬼
レベル 2
生命力500/500 筋力/600 魔力/1000 敏捷性/400
習得スキル
鑑定Ⅷ 吸血 ブラッドアルマⅩ 時空魔法Ⅹ 回復魔法Ⅹ 闇魔法Ⅰ 闇耐性Ⅰ 魔力増加Ⅶ 魔力操作
エクストラスキル ブラッドワールド
文字の他にも自分のステータスのようなものが目の前に表示された。
「これが今の僕の強さを表しているのかな?」
このステータスがすごいのかどうかは分からないが、習得スキルが沢山ある。先ほど手に入れたスキルはレベルが低いが、元々持っていたスキルはかなりレベルの高いものまである。
ブラッドアルマや時空魔法や回復魔法はレベルMaxまで上がっているし、鑑定スキルもあるこれがあれば魔物に対して知識のない僕でも、鑑定すれば相手がどのぐらい強いか把握することができるかもしれない。
それにしても、これはとてもじゃないがレベル2でのスキルではないと思う。恐らく、ミシェリさんが言っていた付与されたスキルがこれらなのだろう。