妹が出来うる話
けんけんぱ、けんけんぱ、西日が差して眩しいな。
花見にいい思い出なんて全くねえよ。
ビニールシートに敷き詰めた夢と希望はすべてがすべて飛んだワケではないが、風に吹かれて飛んで行ってしまうものだ、花見の席ではそれは特に顕著に表れる、俺は花見に来ていた。
きっかけは何だったか、新しく出来た妹二人との親睦会と花見を同時に行おうという話が俺の頭の中の議会にて突如電気的なひらめきとして頭の中をさらっていったのだ。出てきたのならば収穫しなければ損する事請け合いなので速攻で鎌を持ってきて近所の方にも協力を頼み、このアイデアを一斉に狩り入れ、花見だ。
生憎この季節のこの街に桜は満開に咲いておらず、どころか枯れ木に枯れ枝しか茂っていない、それもまた一興だったが「花のない花見はロックだねぇ、ロックはオレ様のモンじゃい!!」と叫ぶ通りすがりのロックンローラーが何も咲いていない木に向かって懐から出したみかんをばらまき、数秒に一度ジャイロ回転をする梅の花を咲かせた後に三輪車を必死に濃いで逃げて行ったので本当に花見だ。
「うなんだらす、あにーしゃ」
「兄様、先程からこの妹さんは南西?」
「聞いたら言ってんだ、いもみ」
いもみ、とは俺の三人目の妹の名前だ、三日後に決めた、ちなみに一番目の妹はまいち、二番目の妹はしいつ、こちらはどちらも五年前には決まっていた。そして舌足らずな呂律の怪しさで巡査に捕まる奴がまいち、俺の突然できていない妹だ。坂道と平坦な道によく似ている。
こいつはなんて言っているかわからないのに、俺にはわかる、テレパシーで意思を直接ダイレクトに送ってくるからだ、四六時中所かまわずに。
今のは「もっと酒をよこせクソ兄貴、チューしたぞ」と言ったようだ。
事実、俺の右手の甲にキスマークがついていた、汚い。まいちはにやにやしながらこちらを見ていた、俺をからかってくる奴だからしょうがない。からかい返しに俺はキスマークに自分の唇を重ねた、俗にいう間接キスだが、実質キスだ。
にやにやしていたまいちはこれをみて悔しそうな顔をした、どうだ、兄の実力だ。
「なーなも、あにーしゃかーぴぞーん」(やっぱりお兄ちゃんには敵わないぜ、クソ兄貴め、あこがれ)
「へ、そうだろうねぇ」
「兄様も妹さんも何言っているのだかさっぱり味」
はたから見れば意味の分からないやり取りに首をかしげたいもみがかしげすぎて首を落っことしたので、辺りに幸せな香りが広がった。
「兄さん、こういう時の両面テープを川に流してからきたわ、やほお!」
花見ハイテンション状態になったしいつが叫びながら気を利かせてくれる、いいヤツ。早速いもみの首と胴体を流すと元のいもみが流れてきた。死体のいもみは魚にとって有害なエサだが水はきれいにする。
「はあ、死んだかと思ったら生きてなかったぞ兄様」
「目を覚ましたような顔で俺を見やがって」
「も~いもん、せ~んがならぽお!」(生きててよかったよいもみ、キミは不死身のクソ妹!)
きれいな桜の木の下には死体が埋まっているとよく聞くので、俺たちはスコップを持って梅の木の上空まで行き、空を掘ってみたら案の定なんか出てきたような気がしたが気のせいじゃなかったような気もする。
「お~~~~~い!!!! そんな所で何しちょるん? というか飛んでるそこのお兄さん、ウチのあんちゃんやないかい! っつか飛んどるやん! 何平然と飛んでんねん! そしてそんな所でスコップ持って何掘ってんねん! 掘れるモノなんてなんもないやろ! 空か? 空掘って何になんねん!? そんでその掘り出しモンはなんや! ウチのあんちゃんはこんな奴だとは思わんかったわ~、な~んてうそうそ愛してるであんちゃん、初対面やけど愛しさしか溢れてこーへん、溢れすぎてそこの川が氾濫してもうて今町中洪水でパニックや、そんな時によく花見なんてできたなあこのドアホ! うそやうそや冗談や冗談、氾濫は本当やけどパニックなのは山梨県と福岡県だけやで、ってうちは何ゆうとんね~ん!!」
下から声が聞こえてきて見上げてみると太陽があり、きらきら輝いて素晴らしい毎日を祝福していた、今日は絶好の花見日和だと思う、しいつを見るとしいつも俺を見て微笑んだ。
「どこみとんねん!! 聞いてんのか!? って洪水や! うをええええええええええええええええ!」
下を見ると俺をあんちゃんと呼ぶ他人が流れていき、新しい赤の他人が流れてきた。
これが輪廻転生か、すげえな。
「感心してる場合か兄様! 人が流れているんだぞ! 流しそうめんをしなければ!」
「あにーしゃ、そうめん」(そうめんなんて食べてる場合じゃないよお兄ちゃん、助けなくちゃあの新しいクソ妹が流れ人間三世になっちゃう)
「あっとそうだ、そうめんがなかったな」
「流れ人間三世って何かしら、新しい赤信号?」
「ああこんいもーもん」(それは山駆けビーコンの星だよ、しいつちゃん、クソ妹、カス脳みそ)
ぼーっと突っ立っている場合じゃさっぱりなかったので情にさおさして流されない硬い精神で謎の赤の他人を水揚げして水切りしてどんぶりに入れた、茹でてないので湯気は出ない。
「はあ、死ぬかと思ったわ~、死んだけど、ありがとな、あんちゃん、チューしたろか? するわ」
「それお礼じゃなくて無礼だぞ?」
「そうか、ほんならやめとくわ、これからよろしくな、あんちゃん」
左手の甲を見るとキスマークがついていた、後で殺菌しなきゃいけないじゃねえか、と思いつつ唇を重ねる、キスだ。
「なっ何しとんねーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!」
新しい妹が顔を名状しがたい色にしてバナナを撫でながら蒸発した。
「あら、肉まんが蒸せたわ! すごい!」
しいつがその蒸気でピザまんを作ったのでその後みんなで食べた、うまかったな。
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こうして、何事もなく俺たちの花見は終わり、その後は仲良く風呂に入ってみんなで百人一首になって疲れ果てて眠った、ちなみに新しい妹の名前はです、だ、一分後につけた。さて、もう少しで血と臓物が降る季節だな、俺は深夜に一人起きだして水をコップに汲み、牛乳を食べた。
「ついに始まるのね、兄さん、わたし達の戦いが」
「そうだな」
しいつがいつの間にか俺に肩車させていて、夜の月を見上げながら俺の顔を撫でる。そうされると不思議と恐れが和らぎ、勇気が湧いてくるように感じた。さすが妹。
「これから危険に巻き込まれる、それでも俺についてくるか?」
「当たり前、だって兄さんの妹だから」
顔は見えずとも、しいつが微笑を浮かべているのが分かる、肩にかかる重さは出会った時よりもずっしりと俺の肩にのしかかる。俺は深呼吸して覚悟を固め、そして眠った、しいつも肩の上で眠った、
いもみは和室で座禅したまま眠り、ですは永眠し、まいちは俺の脳の中で寝ていた。
朝は遠い。
明日もいい日になるよきっとね。
妹たちも、お兄さんも。