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彼女のトモダチの巨人。



 俺には可愛い七瀬繭という彼女がいる。小さくて、目がクリクリしていて、競争率がハンパなかった彼女。告って成功した時、人生の運を使い果たしてしまったかもとさえ思った。


 そんな彼女の友達が……小泉小春という巨人。178センチという、決して低くは無い俺を見下ろす女。彼女の友達だから仲良くしようとは思うけど……デカイ。俺、人生で女を見上げたの、初めてかもしれない。


 今日の体育の授業は、男女共にバスケ。


 入り口側のコートで男子が、ステージ側のコートに女子が、それぞれの体育教師の指導のもと、五人グループを作っていた。……が、男子の方が一つ、四人グループになってしまっている。


 どこかのグループの奴が、助っ人で入ればいい話なのに、こっちの体育教師が女子の方を見ていた。そして、女子側の体育教師に話かける。


「いいですよ、ウチも一人多いので」と女子側の体育教師は何かを承諾すると、小泉を呼び、何かを話している。


 しばらくすると、眉を顰めた小泉が、男子側のコートにやって来た。そして四人だったグループに混ざる小泉。そのグループでも、小泉が一番デカかった。


 小泉は、身長が男子並(それ以上か)に大きいばっかりに、男子の方に借り出されてしまったらしい。


「小泉がセンターな‼」と、グループの一人に『パシン』と背中を叩かれる小泉。いくら一番デカイからって、女をセンターに置くって……。小泉、女扱いされてねぇな。可哀想に。


 そして試合が始まった。小泉が加わったチームは俺がいるチームと戦う事になった。


 ゴール下に立ちはだかる巨人、小泉。小泉は身長は高いが、かなり痩せ型だ。


 それなのに、自分よりデカイ女は女とは見えていないのであろう、俺のチームの男たちは、手加減なしで小泉にぶつかって行く。簡単に吹っ飛ぶ小泉。


「小泉‼」


 敵ではあるが、小泉に手を貸そうと駆け寄る。


「ちゃんとゴール守れよ、小泉‼ 図体デカイんだからさー」  


 しかし、味方のはずの小泉のチームの男子は、「負けんじゃねーかよ」と言い捨てると、小泉を起こすことなく試合に戻って行った。


「比呂ー‼」


 向こうのコートでは、繭が可愛い笑顔で俺を応援してくれている。


 なんで誰も『大丈夫?』の一言さえも小泉に掛けてやらねぇの? 繭は小泉の友達じゃねーの? 俺を応援してくれるのは嬉しいけど、小泉、結構な勢いで身体打ち付けてたじゃん。


 みんなの態度に違和感と言うか、嫌悪感を抱きつつ、小泉に手を差し出すと、


「繭の彼氏はカッコ良くて優しいな。ありがとうね。平気だよ。私より小さい男子にぶつかられたところで、何とも無い」


 少し涙目になった小泉が、俺の手を取らずに背中を擦りながら立ち上がり、少しヨロヨロしながら走ると、試合に戻った。


 小泉は確かにデカイ。でも、見るからに男子より十キロ以上軽い。


 バスケ部でも何でもない小泉に、普通の男子のオフェンスを止められるわけがない。足だって、男子のスピードには敵わない。


「あぁ、もう‼ 小泉、まじで無駄な巨人。全然使えない」


 好きで男子グループに引っ張られたわけじゃないのに、同じチームの男に散々な言われ様の小泉。


「……ごめんね」


 それなのに、苦笑いを浮かべながら謝る小泉。小泉が不憫でならなかった。


 バスケは俺のチームの圧勝だった。授業が終わり、ボールを片している時、


「小泉って、ボール片手で持てたりする?」


 一人の男子が『当然出来るよな、デカイんだから』的なテンションで小泉に話かけた。


 小泉は、手もデカイが薄っぺらくて指も細い。多分、無理。でも、


「今、手汗かいてるから無理」


 小泉は、出来ないことを手汗のせいにした。素直に『出来ない』と返事をしたら、『巨人のくせに』等と言われるのが分かっていたのだろう。それなのに、


「じゃあさ、ボール両手で何個まで抱えて持ち運べる?」


 その男の、小泉を女とも思っていない無礼な発言は続いた。


「……んー。やってみる」


 律儀に答える小泉。小泉が、その長い腕でボールを六個抱え込んだ。でも、小泉の細い腕で六個を持ち上げるのは至難の技だ。


 小泉が、腕を震わせながら何とかボールを持ち上げ、ゆっくり体育倉庫に運ぶ。そんな小泉を見て、「さすが巨人」とみんな嘲った。……何嘲ってんだよ。


 体育倉庫で、傷ついた小泉が泣いている様な気がした。


 小泉を追って体育倉庫に行くと、小泉がしゃがみ込んで、さっきぶつけたであろう背中を擦っていた。泣いてはいない様だ。


 俺の存在に気付いていない様子の小泉は「んー。届かない」と呟いて、背中の真ん中らへんを擦ろうと一所懸命手を伸ばしていた。……小泉、身体固すぎ。


 見兼ねて小泉の背中を擦ってやると、小泉がビックリした顔で振り向いた。


「あ、香川くん。……ありがとう。でも、大丈夫だから」


 小泉が俺に笑顔を向けた。明らかに作り笑い。だって、大丈夫なわけがない。元気有り余る十八歳の男に、普通に体当たりされたら、俺だって痛い。小泉なら、尚更痛いはず。


 小泉の『大丈夫』を無視して擦り続けていると、小泉のTシャツがずれて、背中が少し見えてしまった。真っ赤に腫れている小泉の背中。


「小泉、保健室に行こう。背中、真っ赤だぞ」


「えッ⁉」


 小泉が急に身体の向きを変えて、背中をピタっと壁にくっつけた。


「……あ。巨人のくせに何恥ずかしがってんだよって感じだよね。あ……あはは」


 小泉は、俺に背中を見られた事が恥ずかしかったらしい。顔を赤くした小泉を、可愛いなと思った。『巨人のくせに』と自虐して笑う小泉を、悲しいなと思った。


「まじで保健室行こう。手当てしてもらわないと余計痛くなるぞ」  


 小泉の腕を引っ張り上げて立たせる。


「ありがとう。でも、ひとりで行ける」


 俺より身長の高い小泉は、俯いたところで下から顔が丸見えで、強がっている事は一目瞭然だった。


「一緒に行……」「大丈夫、大丈夫」


 小泉が俺の言葉を遮って「二ッ」と笑った。


 小泉からしたら、俺なんかに同情されるのはムカつく事なのかもしれない。


 でも、身長が高いってだけで女の子扱いしてもらえない小泉を、俺だけでも女の子として接してあげたいと思った。

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