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滅びた世界と逃げる者

既に名も亡き世界の荒れ果てた森、旅商人や木こりですら立ち寄りはしないであろう程に人が入るのを躊躇う情景。


そんな中をボロボロな姿で青年は駆けていた。


見た目は17程に見え、髪色は焦げ茶、目の色は濃い緑で一見には黒にも見えるほどだ。身に纏う装備品の数々はどれもこれもが一級品だったのであろうが、既に見る影もない。ただ、その腰に差す剣だけは他とは違い美しく輝いていた。


『………逃げきれないよ。諦めよう?』


不意に響く声は幼くも綺麗な声で、それに合わせるかの様に剣は明滅する。


「………ふざけんな……。」


その声に青年は絞り出す様に返事をする。


「救えないんじゃ意味が無い。助けられないなら価値が無い。……そんなの、認めてたまるか。」


今にも泣き出しそうな声で青年は言葉を吐き出す。その言葉に含まれる想いを理解しているからか、声はこれ以上何も言わなくなった。






「見つけたぞ!!」


「⁉︎……ちっ。」


更に走り続けた青年は森と平原の境目に突入しようとしたタイミングで待ち伏せていたであろう人々に出会う。その先頭に立つは青年には見知った顔だ。


「役目を果たせ、トーヤ!聖剣を捧げろ!」


見た目は筋骨隆々で髪色は濃い青で短髪、革鎧を要所に着け、両手には籠手を付けているが右手は龍の、左手は虎の顔を模して作られている。


「……黙れよ。んでもって退け。じゃないと⁉︎」


青年が腰に差す剣を抜こうと手を伸ばしたその時、何色もの光が空より青年に降り注ぐ。その光を青年は慌てて抜いた剣を振り一太刀の内に全てを掻き消した。


「相変わらずふざけた実力よのぉ?」


光を掻き消した青年は声の方向を向き、そこに浮かぶ老人を睨んだ。


「いきなりだな。不意打ちで(極光)かよ、クソジジイ。」


「名を呼ばんか、愚か者よ。」


焦立ちげな声と殺気の乗った視線を受ける老人はまるで対極の様に撫でらかな声色で返事をする。


「流石に貴様でも【大賢者】と【不動】を相手に容易く逃げられるとは思うまい!」


筋骨隆々な男の後ろから甲冑を着た男が声高らかに叫ぶ。その声に青年は苦虫を噛み潰した様な顔を浮かべた。


「ほっほ、ワシらだけではないぞ?此処に貴様がいるのは既に伝えた。じきにかつての仲間が駆け付けようぞ?会いたいであろう?」


その言葉に青年は表情を消し去り剣を構える。


「退け。手加減出来る余裕もない。」


「7の月から数えて一年、ろくに寝れぬ生活では余裕も無くなろうと言うものか。」


青年が剣を構えると同時に筋骨隆々な男【不動】は籠手を打ち合わせ鳴らし、老人【大賢者】は8本もの多種多様な杖を取り出した。


「さらばじゃ、トーヤ。世界を救い、世界を見捨てた者よ。」


その言葉と共に、幾つもの光が荒れ狂った。






平原は荒れ果て、幾つもの死体が転がる。そんな中、トーヤは剣を杖のように使い前へと進んでいた。


追加の追っ手がいつ来るかも分から無い中、等々トーヤの身体は意思とは反し、前へと倒れる。その時、剣は光り輝き姿を変え支えた。


見た目は14歳程の少女、瞳は月のような色合いで髪はプラチナブロンドを腰まで伸ばし、特に束ねてもいない。線は細く、胸元は辛うじて膨らみを確認できる程度。纏う衣装は鎖やベルトのみ。見る人に寄らず、危険な衣装だが青年はその姿を見る度に哀しい想いをしていた。


「トーヤ、もう諦めよう?時間も無いよ?セカイは大丈夫だから、ね?」


支えたままの状態でトーヤの顔を覗き込みながら少女は語った。無理をしているような、でも望んでいるような、そして諦めているような顔でセカイと名乗る剣は願う。


支えられたままの状態のトーヤはセカイの頬に手を伸ばすとそっと撫でながら返事をする。


「やだ。何度でも言うぞ、 セカイがいればそれで良い。他は要らない。」


その言葉に、トーヤとセカイは同時に涙を流した。


「なあ、我儘なんだけど……最後の時まで一緒にいないか?」


「……うん。」


お互いに先程までの辛そうな顔ではなく、心の底から嬉しそうな顔で笑い合った。


平原の所々にぽつんと存在する木の根元にまで移動したトーヤとセカイ。ボロボロなトーヤに膝枕をしながらセカイはトーヤの髪を撫でていた。


「………時間が、来たね。」


「ああ、そうだな。」


2人のその言葉と共に地面から、木々から、空からひび割れと共に紫色の光が放たれる。


誰が見てもわかる、世界の終わり。ゆっくりと2人の視界は紫色の光で埋め尽くされてゆく。


「なぁセカイ、今までありがとう。お前のお陰で頑張れた。」


「トーヤ、お礼は私が言いたいよ。私を使ってくれてありがとう。私を側に居させてくれてありがとう。私を……す、好きに、好きになってくれて……ありがとう。」


感謝の気持ちをお互いに贈り合い、微笑み合う。






そして名も亡き世界は滅びた。























「だから、トーヤは生きて?」


滅びの光の中、どこか幼くも綺麗な声が響いた。

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