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第四話 「現在もまた、壊れてゆく」


城菜のせいで俺はアテナと風呂に入れなかったが精神的にだいぶ落ち着いた。

現実時間で7時間ほど寝ただろうか、ちょうど外は明るくなっていた。


ゲーム時代はオートラン機能で走らせながら深夜アニメを見たりしていて気にならなかったが、村から村への道のりが長すぎる。

それでも今はオートランなんてないから、俺達の脚で歩いて行くしかない。


「ちょっと、あれってスカリンじゃない…? いまはもう朝だよね…?」


「夜のうちに湧いて処理されなくて残ったんじゃねえの?」


スカリンの愛称でユーザーに忌み嫌われている"スカルゴブリン"

…嫌われるのには理由がある。


「ウギギギギ…」

「ぶしゅー…」


もはや咀嚼音のような声で、とてもじゃないが全年齢対象の見た目をしていない。

話では、XiONの運営会社の他のゲームからの輸入モンスターであり、世界観にマッチしていない。

スピードもえげつなく、なにより鬱陶しい点、それは…


「くるよ!」


城菜からの警鐘とほぼ同時か、俺達の間合いにそれらは侵入していた。

俺は刀で防ぐ、城菜は杖で、アテナは遥か上空へ退避。


「うぐ…」


「城菜! 大丈夫か!?」


こいつらの一番忌み嫌われる理由。

輸入元となったゲームはHPがパーセンテージ表示の仕様らしく、なんとこいつらの攻撃はすべてスキルによって異なるが "割合" で削ってくる。

これがどういうことかというと 本来のカンストHPの約10倍の [12,076] のHPをもってしてもHPの量は関係なく、割合でHPが削られるため城菜のHPは70%削られて [3622]となった。


「こいつらの攻撃めちゃくちゃ重いね…  [8454] も削られると相当痛いよこれ…」


「当然だ、そんなに減る攻撃はたぶん存在しないしHPが多くても防御が高くても関係ない俺達にはチョーゼツ天敵だ」


「死んだらひとつ前の村に戻される…俺達にはどれほどの猶予があるのか全くわからない…戻る訳にはいかない」


『そうと決まればボクの出番かな?』




アテナはニコッと笑う、そのままスカリンを凝視。


するとスカリンは動かなくなった。


『いまなら何もしないよ』


俺たちは動かなくなったスカリンをひたすら処理していく、処理していく、処理していく。


「これおかしいぞ」


いくら処理しても減っていかないばかりか、どんどん増えている気すらしてきた。


『うーん、そうだねえ… いくら他のプレイヤーが居ないからーって夜からの湧き残りにしては量が多すぎるね』


「ちょっと俺と城菜を抱えて飛べないか?」


『ボクのこの、か弱い細い腕にそんなことができるわけ…』


「そうだよ来駕、女の子なんだよ」


『出来るよ』



そう言うと俺達を抱きしめるようにして空に浮かび上がった。

この柔らかくてふわふわして温かい物体は…もう少し顔を押し当てないとよくわからな…


「アテナン、こいつ落としていいよ」


『かしこまりました~』


「もうしわけない、つい出来心で! っと、 …ここらで止まってくれ」


『おっけー! ボクを触ってさえいれば浮いていられるからね』



大変残念だが手を繋ぐようにして浮遊を保った。

辺りを見渡すと不自然なほどにスカリンで真っ黒になるほどウジャウジャと徘徊している。

このゲームではエネミーが湧くときには固有のエフェクトがかかって、遠目からでも把握できるようになっている。

それも確認できない。


「やっぱりこれって、バグってるんじゃないか?」


『ボクもそう思う、崩壊が始まってるし何が起きても不思議ではないよ』


これはまずい、大変まずい。

次の村の "ギルクリー" は門から半径50m圏内にエネミーが居ると開門しない。

この調子だとギルクリーまで届いてしまうのも時間の問題だ。


「アテナ! このままギルクリーへ急ごう!」


『おっけー!』


二人も抱えて空を飛ぶのが難しいのか、感覚的には時速20kmも出ていないスピードだったが、村の門上空にたどり着いた。


『降ろすよ!』


そう言うと俺と城菜は手を離された。

当然落下する。

仕様上、空に飛ぶことなんてない。


「ぬうううわあああああぁぁぁあああああ~~~!!! これは落とすよって言うべきなんじゃぁぁあああ~~~!?」


ぼすんっ


ノーダメージで着地。

着地音もいつもどおり。


そもそも地上でも落差があることもなく、障害物を乗り越えるためだけのジャンプ機能だったため落下ダメージが存在しない。


「くそあせった! くそあせった! 死ぬかと思った!」


「いいから急ぐよ!」


まだ開門している。


俺たちは急いで駆けて行く。



「ぐじゅじゅじゅ…ぶうぶう…」



門は閉まり始める。

急ぐ、急ぐ、間に合え、間に合え。

門はもう閉じているのかどうかわからないほどの隙間しか開いていない。

これは間に合わないか…


『はぁぁああああ!!』


俺と城菜はありえない加速をして門をギリギリ突破した。

HPが少し減っていたためアテナになにかしらの攻撃スキルを与えられたのだろう。

その衝撃で加速をした…と。


「助かったよ、アテナ… ちょっと乱暴だったけど…」


「アテナン、入れてないんじゃないかな…」


「アテナ! アテナ!? お前は入れてないのか!?」


くそ、外にモンスターがいると他のプレイヤーが狩って門が開くのを待つか違う村にワープして自分で狩りでもしない限り開かない!


「俺、一旦リャンムにワープで戻る! 城菜は待ってろ!」


「私も戻るよ! ギルクリーにはもうワープできるから問題ないよ!」


「いや、おまえはここにいろ! アテナが入ってきたら知らせてくれ!」


そんなやりとりをしていると門が開き始める。


ギィ… とありきたりな効果音なのだが、この時はとても気味が悪く感じた。


『ボクなら大丈夫』


そこに居たのはアテナだった。

足元には炭のようなものが、ぷすぷすと泡をたてている。


『ボクのスキル、あんまり二人には見られたくないんだ』



なにをしたらこうもあっさり大量のスカリンが備長炭のようになるのか聞きたかったが、やめておいた。



- - -




NPCにも一定の感情はあるらしく、ゲームのコマンドとして話しかけるのではなく声で話しかける…難しいが城菜やアテナに話しかけるようにすると定型文以外のことも話してくれることがわかった。


ギルクリーの村長はスカリンのことを語ってくれた。


ここ一週間でスカリンが大量湧きしていること、本来は夜にしか湧かないはずのエネミーも常時湧いていること。


「これはちょっと参ったな」


「うん、スカリンむっちゃ強いもんね」


『スルーできるエネミーはスルーして進むのが得策かも』


「全くその通りなんだが、ラスボスのエリアに侵入するにはいくつかの資格が必要なんだ』


アテナはきょとんとしている。


「朝型、夜型のエネミーを各千体討伐していること、全ての村に行っていること…なんてたった2つだけなんだけどな」


『大したことないんじゃ?』


「アテナン、今日スカリンしか見なかったよね? 朝型のエネミーはどうしようかって来駕は言いたいんだと思う」


いかにも。


今日、一体たりともスカリン以外のエネミーを見ていない。

そもそもこの世界に来てからというもの、エネミーを避けてなるべく行動してきている。

全ての村に足を運んでから、弱いエネミーを討伐して条件を満たそうとしていたのが裏目に出た。


「だからチョーゼツやべえって話なんだよ」


『朝型のエネミーがスポーンすればいいって話みたいだね』


そう言うとアテナはGM専用の窓を開いてなにかを始めた。


『よし、いくよ』


そう言うと、俺の目の前に見覚えのあるエネミーが湧いた。


「ピコンだぁああー! 久しぶりに見たよお! 超カワイイ!」


レベル1固定のエネミーで、チュートリアルで倒されるためだけに存在しているようなエネミーである。

攻撃もしてはくるが、ダメージは1しか与えてこないため、かなり安全だ。


「これを千体討伐すれば…だけどこれは後にしようか」


『なんで? 全然時間かかんないと思うよ?』


「こいつを千体倒しても朝型のエネミーとしてフラグがクリアできるかわからないんだ、ラスボスのエリアに侵入しようとする時に条件を満たせていない場合はウィンドウが出て…例えば、あと200体朝型エネミーを倒して来いと教えてくれるんだ」


「あーなるほど、それでピコンを倒してあと999体だとかって数字が減っていけばピコンもフラグ判定に含まれてるとかわかるわけだね?」


『なるほど』


「そういうこったな」



俺達には、あとどれだけの猶予があるのか。

それはわからない。

俺達には、あと4つの村巡りが残されている…。

わかっていることは、ただそれだけ。





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