第二話 「GM」
この世界…というか元はMMORPGだったゲーム "XiON" の世界に来てからどれくらいが経っただろうか。
だいぶ慣れてきたがNPCは俺達に対して不信感があるようだ。
俺たちの種族はいま [GMy] なんて表示にバグっちゃってるんだもんな…そりゃ不信感くらい抱かれる。
俺と城菜のGM固有攻撃スキルは [/Atk] [/Int] なんて味気ない名前の二つだけしか習得しておらず、相手の防御力を無視して1/3ずつ相手のHPを減らすというトンデモスキルだった。
[/Atk]なら物理依存で[/Int]なら魔法依存なのだろうが1/3減らす確定ならどうでもいいだろう。
「なあこれステータスはGMで、表示は ヒューティの "Hty" に出来ないのか?」
『それはボクにもできないなあ、そもそもボクは "GM" に書き換えたつもりだったのに "GMy" になっちゃったからなあ』
たぶん、もう元に戻すこともできないんだろう。
新しい職業ということにしてNPCからの不信感を払拭しないとまずい。
このゲームはNPCからの好感度システムを採用していて、好感度が低すぎると相手にしてもらえない。
平たく言うと、なにも買えない売れない話すらできないわけで。
「NPCからの好感度を上げないとダメじゃない? これじゃなにもできなくない?」
城菜も同じことを考えていたのだろう。
『それだったらボクの力でNPCの好感度をMAXにしてあげようか?』
「「それはなんか違うんだよね」」
二人の熱く燃え盛るゲーマー魂に対して明らかに呆れた顔をされた。
GMの固有スキル [インビジブル・ハイド] でも使ったのだろう、姿が見えなくなった。
しばらく途方にくれていた頃だった。
「そいつはひったくりよぉぉおお! ひっ捕まえてぇええ!」
毛むくじゃらのビーティがとても不似合いなピンクの可愛いカバンを持ってこちらへ走ってくる。
[Bty]盗人のジョン Lv.45 NPC
こいつはいい、俺はそう確信した。
固有スキルの試し打ちだ。
「来駕、待って一撃で潰しちゃうよ!」
このゲームの基本的なNPCは平和主義で、引ったくりくらいでターゲットを瀕死にしてしまうと逆に好感度が下がる。
まあそれもそうだろう、引ったくりを死刑にする裁判官もいないだろうし。
スキルを打ちたいという気持ちを高める…見てろよ城菜。
「スラッシュATK!」
うまく発動し、ジョンのHPは2/3になる。
ステータスのあるゲームの特質上、本来はLv.999がLv.45を普通に叩けば一撃で潰れるだろう。
あえて [/Atk] を使った。
「なるほどー!来駕やっるぅー!」
ジョンは跪いて
「ひぇーすみませんでしたー!」
そう言うと赤子のハイハイのように逃げていった。
Quest Clear!
獲得経験値:<null>
獲得好感度:100
獲得Zeel:10
これだ!
こうやって好感度をあげていけばいいんだ、ついでにこの世界での通貨のZeelまで手に入るじゃないか!
いま好感度がどれくらいなのかわからないが0以上であればNPCと会話できる。
助かったのは一つの村ごとのNPCで好感度を共有していることだった。
経験値は <null> って…これはなにも入ってないってことだな。
従来のカウンターストップレベルの10倍のレベルになっているんだし、仕方ない。
「アテナー!」
俺の声を聞いて久しぶりに姿を見せた。
なにか食べていた。
この世界では食べ物を食べるとHPが回復する。
俺たちのHPは減っていないので食事に意味はないのだが、本人が食べたいのだろう。
『どうしたの? ボクを呼んでくれて嬉しいよ! これ、食べる?』
「……友達なんだから姿を消さずにそばに居てくれ、不安だ」
純粋に不安だったからそう言ったのだが顔を真赤にして喜んでいる。
「この村の俺たちに対する好感度はどれくらいなんだ? 数値化してくれないか?」
『えーっと、そしたら数値化して来駕の視点の右上あたりに表示させておくよ』
俺は視点の右上に表示された数字を見て愕然とした。
「-9,999,900ってなんだよ…嘘だろ…」
「えぇえ!?」
さっきのクエストで100上がったのを逆算すると-10,000,000だったのか。
-10mになってしまう状況には心当たりがある。
「アテナ、俺と城菜をリグーのとこに飛ばしてくれ」
『あいあいさー!』
暖かい羽毛に包まれて空に舞う。
とても心地よいと思ったのもつかの間、到着した。
「リグーがぁぁああ!!」
城菜の叫びですべてを理解した。
このゲームではNPCに危害を加えると-1,000,000の好感度ダウン、瀕死にしてしまうと-10,000,000の好感度ダウンがあった。
NPCは瀕死にはなるが、不死属性を持っていて死にはしない。
プレイヤーキルを好むやつらがその特性を利用してNPCを盾にした戦闘が問題になって運営が好感度ダウンの措置とっていた。
『てへっ!』
瀕死になったNPCの近くにいたプレイヤーにも "NPCを守れなかった" として連帯責任で好感度ダウン。
なんてマゾいんだ。
とりあえず [ヒール] を発動。
これでリグーは元に戻るはずだ。
「ありがとう、助かったよ」
リグーは持ち場に戻り新人プレイヤーを待っているようだった。
好感度が-10,000まで持ち直した。
NPCを瀕死にさせてから24時間以内に蘇生すれば-10,000になるという運営側の救済措置だったな。
誤射でNPCを瀕死にさせたユーザーからの苦情が相次いでの救済措置だったけど、これで助かった。
好感度10,000上げるのと、好感度9,999,900上げるのでは当然労力が違う。
「で、どうするの? 10,000好感度あげるために盗人ジョンの引ったくりクエを100回やるの?」
正確な数を言われてため息をつきたくなった。
- - -
盗人ジョンの顔をもう親の顔より見たのではないかと思うほど見た。
やっと百回目の引ったくりクエだ。
城菜とアテナはなにがあったのかとても仲良くなっている。
「それでねそれでね! 来駕のパンツが脱げちゃってさー!」
『パンツは何色だった?! シロナンはパンツ見たの?!』
「アテナンも好きだねぇ~ パンツの色はねぇ~」
お気楽になんの話をしているのか…。
「スラッシュATK!」
「ひぇーすみませんでしたー!」
Quest Clear!
獲得経験値:<null>
獲得好感度:100
獲得Zeel:10
好感度:0
やっと終わった…!
「おい、終わったぞ!」
「『おつかれ~』」
なんかアテナのキャラ変わってねえか?
城菜とも打ち解けて過ごしやすくなったのか。
「村に行って話してみるぞ、装備もまともな物がほしいから買うぞ」
「『は~い』」
と…その前に。
いまZeelはどれくらい貯まったかな?
貯めてる最中は見ないで相当貯めてから見るのが好きなんだよね。
Zeel:24f47300
バグってやがる…。
とりあえず俺たちは "はじまり村" へと足を運んだ。
「ひゃー! はじ村なっつかしいー!」
城菜と俺がいつも集合するのに使っていた村だった。
"はじまりの村" というだけあって、ほとんど最初に来るだけでもう用事なんてできない村だ。
だから、人が少なく合流しやすかった。
「へいらっしゃい!」
商人NPCは喋るのは最初だけでウィンドウが出て選択したもを買える。
とりあえず安いものを買ってみて、どんな動作をするか実験だ。
「まいどあり!」
Zeel:24f47300
あれ?これってもしかして。
「まいどあり!」
「まいどあり!」
「まいどあり!」
「まいどあり!」
「そんなにたくさんわらじ買ってどうするの? わらじマニアなの?」
『わらじマニア、来駕!』
Zeel:24f47300
バグってて所持金が減らない感じか? この一番高い2,000,000,000Zeelの鎧は買えるのか?
「Zeelが足んねえみたいだぜ? 冷やかしなら帰ってくれ」
…2番目に高い500,000,000Zeelの鎧は?
「まいどあり!」
この "24f47300" っていう数字は20億以下で5億以上なんだな。
すこし額の幅が広すぎるが他に試せるアイテムが売っていない。
獲得でも支払いでもZeelに変化がないところをみると稼ぐことも資金が底に着くこともないみたいだ。
わかりやすくこれを城菜とアテナに説明した。
城菜もZeelの表記がおかしくなっているようで、俺と同じ "24f47300" となっていた。
「5億あれば大半のものが買えるが、所持金が変動しないから5億以上のものが必要になったら困るな…」
「じゃあ、5億以上のものをたくさん買って物々交換すればいいんじゃない?」
こいつを連れて来てよかった。
やっぱり賢い。
だがNPCとの物々交換にはそれなりの好感度が必要で、少し時間がかかるな。
『今日はとりあえず宿に行って休もうよ、ボクちょっと疲れた』
俺も疲れていたし城菜も疲れているだろう。
「そうだな、そうしようか」
- - -
三人で一部屋に泊まることにした。
ベッドも人数分あって、ふかふかで申し分ない。
物語を完結させないと出られないのか。
普通だったら泣きじゃくったりするんだろうが、俺はすごく楽しくなってきている。
この世界のラスボスは、まだ名前が確認出来ていない。
戦闘の演出の映像も流れるが、ステージの名前もボスの名前も "???" とされていた。
負け演出だなんて騒がれていたが運営はこれになにも回答しなかったのが俺はずっと気掛かりだった。
もし、倒せたらどうなるんだ?
というか倒さないと物語が完結しないから俺らはここに閉じ込められちまう。
『来駕? どうしたの? ニコニコしてて気持ち悪いよ?』
ひどいことを言うようになったなあ。
「ねえねえ! 大浴場あるんだって!」
『いいねぇいいねぇ!いこいこ!』
修学旅行かよ! と思ったが気分的に風呂に入りたい。
俺は案内されるままついていった。
「これはおまえ…」
「これは…そうだね…」
『混浴だねぇ~!』
仕方がない、俺は後で入るか… と思ったときだった。
スポポポーン! とアテナが服を脱ぐ。
おっぱいソムリエの俺が自然と目測する! こいつはデカいぞ! 着痩せしてたのか?!
こいつは!!
城菜にひっぱたかれた。
「また目測してたでしょ」
GMの固有スキル [インビジブル・ハイド]でも使って覗きに行こうか考えていると
体が痺れて動かなくなった。
状態異常の "パララシス" だ。
『悪いこと考えるからだよ?』
とゲーム時代のささやき機能を使ってお叱りを受けた。
本来パララシスなんて目視できる距離にいないとかけられないはずだが。
結局俺は後で入ることになったがこの世界でも風呂は気持ちよかった。




