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第一話 「いざ、異世界へ」

神様と友達になる代わりに、願いをなんでもいつでも聞いてもらえるようになった来駕。


"ゲームの中に行きたい" という願いを思いついた。



神様と友達になってしばらくした頃だった。

大した願いもしていない。

大学生に戻してもらおうかなんて考えたりもしたが、結局は面倒で退学するところまで脳内補完で満足してしまうからだ。


「なんか退屈だな、なにか退屈しないような世界ってないのか?」


なんとなく尋ねた。


『突拍子もない、ざっくりな感じだね…』


そうだな。

仰るとおりだな。


「俺がハマってたネトゲがあるんだけどさ "その世界に行く" みたいなことは可能か?」


『大勢を巻き込んで入り込めば楽しいだろうけど、一人で行くの?』


そうだった。

俺だけがネトゲの世界へ行っても、せいぜいNPCしか話し相手が居ないじゃないか。

なんて退屈な…と思ったが案外悪くない。

この世界でもどうせ俺は一人だったじゃないか。

ただネトゲ友達だった城菜は連れて行ってもいいかもしれない。


「好きなときに帰れるのか?」


『世界線の行き来は何回でもいつでも可能だよ』


それなら都合がいい。

実際に体を動かす体感型ゲームをやってみたかった。


「城菜をここにワープさせてくれ」


ちょっとむすっとしたのがわかったが、触れると怒るだろうから気づかなかったことにする。


朝焼けのような光に包まれ、次第に目が慣れる。

そこには城菜のものと思しき影が見えた。


裸だった。


「えちょ、え、見ないでええぇえ!」


ちょうど風呂に入っていたらしく、俺は少し反省した。

アテナは "してやったり" 顔になっていた。


俺のパジャマとタオルを渡し、本題に入ろうとするときに殴られそうになったがアテナが気泡のバリアのようなものを張って守ってくれた。

風呂に入っているとわかってワープさせたあなたのせいで殴られそうになったんですけどね。

本題に入ろう、無駄なケガ人が出てしまいそうだ。


「昔やってた "XiON" ってネトゲ覚えてるか?」


打撃攻撃、魔法攻撃の二種類の攻撃しか存在しないシンプルなゲームだった。

ただ、種族が全ていわゆる大器晩成型のものしかないマゾゲーだった。

そのためか、プレイ人口もさほど多くなかった。

XiONは一番城菜とのプレイ時間が長いネトゲだった。


「あー覚えてるよ! 全ッ然面白くないやつ!」


お前の中でそういうタグで脳に保存されていたのか。


「あの世界に行けたら楽しそうだと思ってな」


「……サイゴノファンタジーとか、龍依頼オンラインとか…もっと選択肢はあったと思うけど…」


城菜が言いたいことはとてもわかる。

たしかにそのほうが面白いのは間違いないが、俺はマゾだ。

それに…


「ラスボスを誰もが、一回も倒せてないゲームってあれくらいだろ?」


MMO型オンラインゲームにおいて、レイドという戦闘方法でボスと対決するものは少なくない。

XiONはどのボスもレイドのパーティの参加上限数が設けられていて、一番大人数で参加できるものでも12人パーティが5つの60人だった。

ラスボスも当然レイドで挑むのが基本でだったが、パーティの数に制限がなく事実上何人でも参加できるものであった。

それにも関わらずラスボスの討伐は不可能とされていた。




一時間ほど説得をしただろうか。

アテナはみかんを全て平らげて、こたつで眠っている。


「わかった、わかったから! そうしたらもうXiONでいいよ!」


よし、ここまでの道のりは長かった。


「アテナ! 起きてくれ! いまからすぐにXiONの世界に飛ばしてもらうなんてことはできるのか?」


『…むーん… 別に可能だけど、ボクもついて行っていいならね?』


そこで渋るのか。


「それは構わない、確認なんだけどいつでも戻れるんだよね?」


『いつでも戻れるよ? それにボクがいる世界が正世界線になるから、それ以外の世界線は時が止まるの』


これは嬉しい誤算だ "戻ってきたら一週間経ってた…" なんてこともないんだな!


「よし、もう今飛ばしてくれ!」


「待ってよ、なんか怖くない?」


なにを今更言ってるんだ、自分の脳みその作りを神様に変えてもらうなんて大手術やっておいて。


『…この前のヒト型の木あったよね? あれ神力者って言うんだけど、二人で神力者を持って横になってくれる?』


なんだよ "ジンリキシャ" って。

すごく聞いたことある気がするけど、触れないぞ。


「どうなるんですか…?」


俺が聞きたかったことを城菜が代弁してくれた。


『XiONの世界線に飛ばしてあげるよ?』


「XiONの世界線って… なんだ?もともと存在してるみたいな言い方だな?」


『人間がこれまでに考えた全ての物語、全てのお話に登場する世界線は存在しているよ?』


全く意味がわからない。

そんな顔をしていたのだろう、聞かずともアテナは続ける。


『ゲームや物語が完成するとそれはあくまでも舞台にすぎないんだけど、その舞台を壇上に登場人物たちはずっと生活しているの』


「さっきアテナのいない世界は正世界線ではなくなって時間が止まるって… そもそもアテナはこれまではどこに居たんだ?」


質問攻めになってしまうが仕方がないだろう。


『ほうぼう駆けずり回ってたよ、願い事の仕事が入った世界に旅行がてら行ってたかな? 来駕くんと友達になったから今はお願いごとの職務は休止してるけどね!』


なんて安易な休止なんだ。


「いまはこの世界線に居る、ということはゲームの中での登場人物たちは時が止まってるんじゃ?」


『そういうことになるね、といっても誰も時が止まって気づく人なんて居ないからね』


なるほど、確かに時が止まって気づかないんじゃ "生活している" の現在進行形の言い回しも頷ける。

ようするにセーブして放置された状態のゲームみたいなものか。


「完成された物語であればその中に入り込めると… だけどそこに俺たちが登場人物として入り込むと物語は大きく変わるんじゃないか?」


『んーまあそうなるけど、神の思し召しって言えばいいのかな? ボクの力でねじ曲がった運命には誰も違和感を抱かないし "こんな内容だったっけ?" なんてことも起こらないよ』


そうか、こいつは神様だった。



- - -



城菜は一旦帰って、身なりを整えてきた。

いつまでも俺のパジャマを着ているのは落ち着かない様子だった。

二十三時に転送を決行する。


「あと二分か、俺緊張してきた」


「…………」


城菜は緊張しすぎて話せないみたいだ。

すでに横になって神力者を二人で握っている。

いつでも転送できる状態にある。


『二十三時になったよ、転送するねー!』


そう聞こえてから、どれくらい経ったのだろうか。


「君たちはヒューティかな?」


ん…?聞き覚えのある声。

この声ってもしかして…!


「君たちはヒューティかな?」


やっぱりそうだ、XiONの最初に出会うNPCの "リグー" だ。

転送は成功したんだ。

隣で城菜もぽかーんと神力者を見つめているが、転送の成功に安堵しているのは同じようだった。


XiONをプレイしたのはもう二年も前だが、この世界のことをまだしっかり覚えている。

種族は "ヒューティ" "ビーティ" "トリッティー" の三種類存在した。

職業は "刀騎士" "魔法使い" の二種類だ。

確かヒューティは人間そのもので、刀の物理攻撃にも杖などの魔法攻撃にも対応できる種族。

ビーティは人型のビーストで、脳筋馬鹿なため、魔法攻撃は1しかでない。

トリッティーは魔法に特化していて、物理攻撃はそもそも出来ない種族だ。


「君たちはヒューティかな?」


キャラクリエイト直後にリグーとは出会うんだよな。

リグーの対話可能距離にずっと俺たちがいるからずっと繰り返してるんだな。

こいつは "君たちは○○かな?" なんて言い回しをするけど、作ったキャラの種族の特性を説明するNPCでシステム上外すことはない。

つまり俺達はヒューティ、人間なんだ。


『終わったぁー、ちょっと疲れるんだよねこれ』


「君たちは君た君たち君ききき…」


「リグーが怖いよぉ…!」


俺も怖い、声の出る人形が壊れてしまっている動画を思い出す。


『ああシステム上それもそうだよね、ボクの存在は認識できても識別はできないもんね』



なるほど、アテナはどの種族にも属さないからエラーしてたのか。


『ならボクはこーしよっと』


アテナの頭上の簡易ステータスにXiONプレイ時代まれに見た、あるマークがついた。


[GM]アテナ Lv.999


いやいや、待ってくださいよ。

この世界のカウンターストップは、知ってる限りでも99だったはずだ。

10倍って、待ってくださいよ。

それを見て俺は自分たちの頭上に表示されているマークを確認した。


[Hty]来駕 Lv.1

[Hty]城菜 Lv.1


そうそう、これこれ。

ヒューティなら [Hty] ビーティなら[Bty] トリッティーなら[Tty] そしてXiONの管理人、ゲームマスターなら赤色で[GM]ってなるんだよな。

GMの固有スキルのほうがプレイヤーのスキルよりかっこいいエフェクトでちょっと問題になったのを思い出した。


「アテナ、ちょっとGMの固有スキル発動してくれないか?」


『ボクの力なしで? ボクの力を含めればでもっとド派手にできるけど』


俺と城菜は首を大きく横に振って両手を突き出す。

いわゆるノーセンキューだ。


『仕方がないなあ、素のGM固有スキルいくよー?』



- - -


なにが怒ったのか覚えていない。

"カッ!" と光って "ドカッ!" となって "ドッカーン!" となって…

起きたらここにいる。

神殿みたいだな、たぶんアテナのスキルで死んだんだ。

そういえばGMは全域プレイヤーキル可能だったな。


『「あ、起きた」』


城菜は先に気がついたようだった。

ゲームの中とはいえ、死ぬとちょっと疲れるな。

それに、こっちへ来てから恐らくニ時間は経過していた。


「明日から攻略するぞー!! アテナ、元の世界線にそろそろ戻るぞー!」


ん? 二人の顔色が悪い。

どうしたんだ?


「来駕、落ち着いてこれを見てほしいんだけど…」


城菜の手には炭のようなものが乗っている。

なんだこれ。


「なんか汚えなそれ…なんだよそれ…」


『神力者…だったものだね』


あーあの人形ね。

と思ったが俺の顔色も二人の顔色からスポイトで抽出してバケツで塗りつぶしたように同じ色になったであろうことが自分でもわかった。


「それが無いと帰れないのかよ!?」


『そういうことだねー、他にも帰る方法は無くはないんだけど』


俺と城菜はアテナをただ見つめていた。


『えっとね…』


ごくり


「「…………」」


『物語を完結させればいいんだよー!』


「完結している世界にしかこれないんじゃなかったのか? 完結はしてるはずだぞ?」


『そうだね、完結はしてるね』

『けど、だれもラスボスを倒していないよね』



なるほど、と思ったのと同時に思った。

かつてプレイヤーとして普通にXiONをプレイしていた時のことだ。

350人でパーティを組んで 「こんだけいたらさすがにラスボスが気の毒だよなー」 なんて言っておいて負けたことがある。

風の噂だが1000人単位でも倒せなかったと聞いたことがある。

いわゆる "負け演出" なんじゃないか、ってことになってラスボスへの思いは収束したんだっけか。


「倒せるのか?」


『実際あれは負け演出みたいだね、ラスボスのHPが9割を切ると防御力50倍って…うーん、そうだね…GMの固有スキルを使って、尚且つレベルのカウンターストップも引き上げて張り合えるかどうか…くらいのステータスだね』


GMウィンドウでなにか見ている。

あれを見るとチートや不正行為者のBANを執行しているようにしか見えない。

俺らプレイヤーの前で見せしめみたいにBANしてたな。

そのせいかあれは "閻魔窓" なんて呼ばれてたな、閻魔帳から来ているんだろう。

まさかボスのステータスなんかが見れたとは。


「それにしてもアテナは適応が早いよな」


「私もそれは思ってた」


『 "こうしたい!" って強く願うといいよ、ゲーム側が対応するから』

『それとボクは隠れゲーマーだからね』


うーん、なんだそりゃ。

とりあえず…インベントリが見たいな。


インベントリが見たい…

インベントリが見たい…

インベントリが見たい…!




持ち物

はじめての刀

ライフ回復ポーション(小)x2




出た! インベントリウィンドウ!

ウィンドウは出してからは手で操作できるみたいだな。


「来駕!見て見てー!」


ヒュンヒュンと刀を振り回している。

ゲーム時代と効果音は同じだ。


『そういうこと、ボクもボスのステータスを知りたいー! って思ったらこれが出ただけの話だよ』


「最低条件がGM固有スキルを使えて倒せるかもしれないボスなんだろ? 俺らじゃ不可能だろ」


『ならこうすればいいかな?』


[GMy]来駕 Lv.999

[GMy]城菜 Lv.999


なんだこれは。

表示がちょっとおかしいが転生システムもないのに種族を変更なんて、チートレベルの行為だからバグっても仕方ないか。

ステータスもHPもカウンターストップまでの伸びしろから計算すると、そうなるであろうくらいのHPだ。

本来のカンストがLv.99でレベルが1上がるごとにHPは12増える。 初期HPは100でLv.99に到達すると1,376になる。

それがLv.999になると12,076になると。


元の世界線に戻れなくて焦るべきなんだろうが…。


「なんか楽しくなってきたね! 来駕!」


「そうだな!」


『それはよかったね…』





これならあいつを…。








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