プロローグ 「一度やってみたかった」
俺はなんの変哲もないただの大学生…だった。
"だった"なんて言い方をするのも認めたくはないが、留年して嫌になって辞めてしまった。
周りに友達なんてほとんどいない。
趣味も…ないことはないがいわゆるソシャゲやネトゲをまったりやっていた…が、今はそんな気分ではなかった。
そんなこんなで学校を辞めて二日目、退屈すぎて散歩をしていた。
「おっ、大学辞めて社会の頂点、ミートに君臨したニトくんじゃないですか!」
認めたくはないが、俺の友達は傷口に塩を擦りこんでくるコイツ、城菜だけだ。
俺と脳みその作りは小学校から高校までは同じだったはずなのだが、どこで差がついたのかコイツは大学で五本の指に入るらしい。
「……あのな、一応突っ込んでおくが俺はニトじゃない水戸だ、それにミートじゃなくてニートだ」
言い終えるのと同時かその前か、俺はニートと言ってしまったことに失敗を感じた。
「ニートって認めた! 来駕はニートです! この人はニートです!」
これは非常にまずい、視線が集まってきているのが馬鹿な俺でもわかる。
腕を掴み、走ってその場から離れる、離れる、離れる。
「もう走れないよ!止まってぇええ」
誰のせいだ誰の…。
コイツは脳みその作りこそ、なにがあったのか疑ったほどに勉強は急に出来るようになったが体育は完全に乙ってた。
「ほんとにお前は昔から運動は出来ねえな、まあ昔は勉強も出来なかった事を俺は知ってるけどな」
なにげなく言ったのだが、何かを言いたそうな表情をしている。
「お、おっぱいが大きすぎて走りにくいんだよ…!」
そんなことかと肩を落とした。
ちなみにおっぱいソムリエ1級の俺が目測するが、こいつはBカップもない。
それに……
「お前なーんかごまかしただろ」
「…………」
「おい」
明らかに "はいはい分かりましたよー話しますよー" という顔をしたのが、ちょっと腹立つが黙って聞くのが得策と思い黙って聞く。
「来駕は、神様って本当に居ると思う?」
なんだなんだ?新手の宗教の勧誘か?
そんな器用なやつではないと思い率直に答えた。
「居ねえだろ、んなもん」
間髪入れずに城菜が応える。
「居るんだとしたら会いたい?」
なにを言いたいのか意味がわからない。
やっぱり新手の宗教の勧誘か?
だとしたら俺は会いたくない。
俺の思考回路をあえて麻痺させる、百歩譲って本物の神様なら…?
宗教の勧誘だったら怒鳴ってやる、そう思って答えることにする。
「会いたいかもな、なんで俺はこんなパラメーターのキャラなんだって怒鳴ってやるよ」
やりとりをしている間に息が整った城菜は立ち上がり、俺の手をつかむ。
なにか握っていたようで俺の掌にそれを託すと手をすっと離す。
俺の手は大きい方だと思うが木の棒のようなものが、はみ出て見える。
「それ、今日寝るまで見ちゃダメだからね」
無理があるだろう、ずっとこれを握っていろということか?
俺がなんのために。
「なんでだよ、これを握ってるとどうなるんだよ」
そう尋ねたときだった。
顔が切り裂かれてしまうのではないか心配になるほどの寒風が吹いた。
「会えるかもよ?」
にわかには信じがたい。
それに恐らくこれを握ったままは風呂にも入れまい、耐水性なかったら怖いしな。
そういうイタズラなのか? まあ大方そんなところだろう。
なにか条件を提示して否定したらコイツはクロだ。
「会えなかったらお前が俺の願いをなんでも叶えろよ? それが条件だ」
そう言うと、城菜はこくんと頷いた。
- - -
大学が家から遠かったから、一人暮らしをしていたのが功を奏した。
こんなもの握って不自由そうに飯なんて食ってたら、突っ込まれまくること請け合いだ。
どうせイタズラなんだろうが律儀に守っている自分をちょっと可愛いと思った。
まだあんまり眠くないが、これじゃ不便だし、ソシャゲもやれねえし寝るかな。
そう思いベッドに入る。
「…………」
「これ虫入ってたりしねえよな…」
などとしばらく中身を見たく、うずうずしたが不思議なもので眠くなるとどうでもよくなる。
まあいい、明日城菜を適当にイジメてやる。
『……――すかー!』
え?
『無視ですかー!』
待って聞こえてるし、なんなんだ?
月並みな言い方だが "直接脳内に!?" といった感覚だ。
『聞こえてるですか!』
妙に若々しい声、だけどとても安心するような。
『えっと、ボクは神様ですよー! 願いをなんでも1つどうぞ!』
ここ最近病んでるからな、変な夢でも見ているのだろう。
どこまでもずっと真っ暗闇の世界だった、まるでなにも見えない。
その世界観と違い、この神… フランクすぎる。
どうせ夢だ、この展開をアニメで見る度に一度やってみたかったことを…!
「俺のたったひとつの願い、何回でもいつでも願いを叶えるという願いを叶えたまえ!」
しばらくの静寂の末、すーっと神は息を吸って吐いた。
『…普通ここに来る人はね、結構現実的な願いを、空気呼んで一つ叶えていくんだよ?』
創業以来初めての珍客に驚いたといった様子。
無理もない、俺だって訳のわからない願いだと思ってる。
『ええっと…その願いは厳密には一つの願いの範疇を大きく上回っている…というかもはや一つになってないのは判ってるよね?』
うーん、やっぱりこの願いはタブーでしたか。
新しく違う願い事を考えるか、どうしようか。
そう考えていた時だった。
『ボクはここで人間の願いを叶えることを職務として過ごしててね? 無論、非番がないから友達も居ないの』
なんの話だ? 急に自分語りか?
……というか神様でも友達居ないんだな、俺に友達が出来ないのが頷ける。
『そこで提案。 あなたに今日からボクの友達になってほしいの』
なにを言っているのか意味がわからない。
提案ってなんだ? 俺が願いを聞いてねえか?
「俺が願いを聞いてもらえるの側ではなかったのですか?」
情報が足りなすぎる、ここは思い切って聞いてみることにした。
ったく、なんで夢で頭使ってんだ俺は。
『ボクとお友達になってくれれば…』
『「…………」』
沈黙から刹那、世界に閃光が走る。
調子に乗りすぎたか? 神を怒らせたか?
体に重圧がかかっている気がする、胸が苦しい。
このまま死んだら俺は自殺扱いされちまうだろうな、こんなことならソシャゲもう少しやっておけばよかった。
一秒にも、一時間にも思える時間が過ぎた。
『いや、そろそろ目を開けてよ』
はっとして目を開けるとそこには、見覚えもない女が俺の上に乗ってこちらを見つめている。
顔が近く息遣いを感じるほどだ。
どうやらさっきまでの神様とやらの声の主のようで、電気をつけたのが閃光のように感じただけのようだ。
眠っていたわけじゃなくて俺は目をつむっていただけだったのか……?
いや、ていうか!
「うわぁあああ!」
思わず俺は体の上から、ベッドの上から払いのける。
驚いたとはいえ、知らない女性相手に力を出しすぎた事に後悔した。
来たるであろう悲鳴、地響きに備え目をぎゅっと閉じる。
『また目を閉じてるけど、眠いの?』
目を開けると見知らぬ女は浮いていた。
そればかりか着ている服も到底 "服" に分類はされないであろう面積しかない。
これって、古代ローマとかそっち系の衣類じゃないか?
「あなたは一体…」
『だから、神様だってば』
「…………」
『むむっ、信じてないなぁ!』
「このご時世に私は神様ですー! なんて人が居て、おおーそれはそれは! なんてこともありませんよ」
『それもそうだね、なにかすごいことして信用してもらわなきゃだね、でもボクすでに浮いてるんだけどなぁ』
『えっとそれじゃあ…君の名前は、水戸来駕くん!』
名前を言い当てるパフォーマンス…? なんというか神の証明としては安っぽい。
やっぱり幻覚なのか? 神にしては辿々しい感じが… 神って髭面でシワシワなイメージだぞ。
いやいや容姿の話以前に確かに浮いている。
…願いの話はどうなったんだ?
「それならさ、さっきの願い叶えてよ」
『ボクのお友達になってくれたら考えるよ!』
「具体的に友達とは、なにをすればいいんだ?」
『普通に普通の人間の友達として、一緒に居てくれればそれでいいよ』
なんだ? 特に難しい要求でもないな。
学校もなくてニートになって時間も俺にはありあまるし、特に問題はないな。
「構いませんよ」
『はーい! 契約完了ですっ!』
俺の手にはヒト型の木が握られていた。
- - -
僕の生活に神が割り込んできて三日が経った。
いくつかわかった。
なんでもできるというわけではないようだ。
例えば "既成品のもの、どこかの商品をポンと出す" なんてことはできないみたいだ。
といっても『どこかで作られたものをこっちへ引っ張ってくることは泥棒みたいで…』と言っていた、おそらく可能ではあるのだろう。
要するに、なにかをコピーするわけではなくてあくまでも呼び出しているみたいだ。
その他にも、自分の他に女の子がいると少し遠くへとばしてしまうといったこともあった。
気をつけないと危ないな。
城菜には神様に会えたとメッセージを送った。
当然、何をお願いしたのか聞かれたが事情が事情なので会って話したいと伝えておいた。
それが今日の予定で、夕方にこっちへ顔を出すように言ってある。
「今日、このヒト型の木を俺に渡してくれた俺の友達が来る」
『そうなの? ということはボクも会ったことがある子だね』
このヒト型の木を人間が持って寝ると神様に会えることくらいしか神様ご本人も知らないみたいだ。
『来たみたいだね』
俺は城菜を迎えいれると、城菜はぎょっとした。
「ちょっと、来駕! ちょっとこっち!」
俺は引っ張られる。
「待ってよ、なんで居るの?! なにをお願いしたらこうなるの?!」
無理もないだろう、逆の立場でも同じ対応をしただろう。
「落ち着けよ、とりあえず座れよ」
「こいつは、戌井城菜ってやつで腐れ縁だ。」
『ぬぬぬぬぬ…』
だめだこの神様、もうどっかに飛ばそうとしておられる。
「いやいや待て待て待て待て! そいつにだけは事情を説明したいんだ! だから飛ばすな!」
「飛ばすっ!?」
『ぷしゅー…』
「「…………」」
俺の発言で叶うことはすべて叶えてくれているようだった、だから飛ばすのをやめてくれたのであろう。
俺はあの日なにがあったか、何を願ったか、なぜこうなったのかの全てを城菜に伝えた。
当然驚いていた。
その手があったかという顔をしていたのは見逃さなかったぞ。
「いやでも来駕は、神様のこと、外でも神様って呼んでるの?」
「あぁ、神様は神様だしな」
「でもそれって…」
これは誤算だった、城菜に突っ込まれるまで気づかなかった。
俺が外で神様と歩いてると痛い目で見られているような気はしていたが、こんな俺が女の子と歩いてるからだろうと思っていたが。
外で知らない奴が「神様は今日~~」なんて話してたら痛い、すごく痛い。
「確かに…神様は名前はないのか?」
『一応、ボクにだって名前はありますよ、もう一人で過ごして長くてこの名で呼ばれたことはないけど… アテナって言います』
「リセマラしたような、覚醒させたくなるような名前だな!」
「…馬っ鹿じゃないの…」
「馬鹿で思い出したが、お前がなにを願ったか聞いたけど…」
「頭を良くして下さいって願ったよ!高校卒業してすぐくらいだったかな!」
願った結果がどうあれ、かつてこれほどに頭の悪そうな願いがあったのだろうかと思った。
「まあともかく、アテナって呼ぶわけにもいかないんじゃないか?」
「どうだろう? いまの日本にアテナって子はずいぶんいるんじゃない?」
確かにそうだ、その通りだと思った。
俗にいうキラキラネームで全然通りそうだ。
「そうしたらこれからはアテナって呼んでいいか?」
『良いのだけれど…その…』
わかりやすくもじもじしている。
なにか言いたいのだろう。
「どうした?」
『私も水戸くんのこと来駕って呼びたい!』
この人はどうやらホントに神様みたいです。




