王様の王国
僕等の王国に、ある日突然、王様がやって来た。
「ほら、帰ったぞ。さっさと俺を出迎えろ! どーしたどーした、ほらほら!」
王は、我が物顔で君臨し。
「ほら、俺はお腹が空いたぞ! どーしたどーした、ご飯を食わせろ!」
王は、我が物顔で言いたい放題。
「ほら、俺の目が覚めたぞ! どーしたどーした、お前らも目を覚ませ!」
王は、我が物顔で横柄で。
「ほら、俺は退屈なんだ! どーしたどーした、俺をもてなせ!」
王は、我が物顔でやりたい事だけをして。
僕等の前に、ある日、突然ふらりと現れた王。
どうしようもなく我儘で、気まぐれで、とことんやりたい放題。
いつだって傷だらけで。いつだって孤独。いつだって機嫌が悪くて、立派な髭を生やし、その両目だけをぎらつかせながら。
この世界は彼の王国で、彼はきっと、世界の支配者にでもなったつもりだったのだろう。
現に、王の望むものは何でも手に入ったし、王の要求は僕等にとって絶対だった。
王が現れる前の王国と、王が治める今の王国。一体どっちがまともであったか?
けれど。僕等にとっては、それが総てであり。今思うとそれこそが、僕等が王に求めていた事だったんだと思う。きっと。
王は、やっぱり王で。
その手腕で瞬く間に世界を治めていく。僕等でさえ驚くようなスピードで。世界を、塗り替えていった。
王が一声発すれば、僕等はいつでもたちどころに集まったし。実際は、王に関する政で王国は火の車だった。
けど、そんな事は全く意に介さず、王は、いつでも僕等の王だった。
そして、そんな絶対王政の日々が十数年続いたある日。
―― 突如として、王は、その姿を消した ――
王は、これまで弱みを見せたことが無かった。
確かに、最近ではとんと老け込み。足腰や視力も弱くなってしまった王。
それでも王は弱さなど一切見せず、これまで通り、僕等の前では最後の最後まで独裁的で我儘な王だった。
正しく、僕等の王国の、僕等の王だった。
何者にも縛られず、とことん自由で、自分勝手で、着の身着のまま。
それでいて実は寂しがり屋で、気難しく、とにかく手が掛かって、放っておけない。
だからこそ、僕は思う。王は、きっと満足したんだと。
勿論、王様であることに対して、じゃない。王に仕える臣下、王の王国の国民たる僕等に対して、である。
「今のお前らなら、もう、俺が居なくても大丈夫だろうよ。つーわけで、じゃーな、達者で暮らしな」
王は、その役割を見事に果たしてくれたんだ。
最後の最後まで、王は王で。弱みも見せず、自分勝手。風の様にやって来て、風の様に去ってしまう。
そんな僕達の愛した、そして、僕達を見事なまでに一つの家族にまとめ上げ、治めてくれた《三毛》の王様は…… もう、この世界のどこにも居ない。
けれど。
僕等は王の遺してくれた爪痕、そして足跡を胸に。きっと。これからも生きていく。
王様が生き、王様が創ったこの王国で。
END