勇者のために、出来る事
In wine there is truth
カランコロンカラン、カランコロンカラン
― いらっしゃい。
「おっ、よーやく来たな。遅かったじゃないか。まぁ座れよ」
「ああ… すまない」
「注文はどうする? ん? ってか、どうしたんだ、元気が無いじゃないか?」
「あ、あぁ。実はそろそろ… この冒険を終わりにしようと思っているんだ」
「おい! おいおいおい。一体全体どうしちまったんだよ! お前らしくないぜ」
「疲れたんだよ。周りにどうもて囃されようが、いかに称賛されようが、私だって所詮はただの人間だ。疲れもするさ」
「ちょ、待ってくれ! まずは話し合おう。ようやくこんな場所まで辿りついたんだ。だろ?」
…。
白状しよう。
僕が二人のそんな会話を耳にしたのは、たまたま偶然ってわけじゃ無かった。
つまり。
こっそりと聞き耳を立てていたんだ。
最近、二人が良くこの酒場を利用する事を知っていた僕は、ずっとずっと待ち構えていたんだ。
だからこそ僕は。
静かに静かに聞き耳を立て続ける。
「皆には何て話すつもりだよ? 納得すると思ってるのか? お前の肩に、どれだけの人間の命運が掛かっていると思っているんだ! あぁ!?」
「私だって本当にすまないと思っているさ。思ってはいるが… こればかりは仕方がないじゃないか」
「仕方がない? 仕方がないだと!? それが、皆が憧れ、子供達に夢を与えるべき職業に就く者のセリフか?」
「言っただろ。私だって、所詮はただの人間なんだ。等身大の、何の変哲もない、一人の人間」
会話の雲行きが怪しい事は、僕の様な一般人、素人でも良く分かった。
………… 嫌だ。
こんなのは、嫌だ。
絶対に、絶対に駄目だ。これは、僕の望む展開じゃない。
僕は、こんな悲しい会話を聞くために、わざわざ待ち構えていたわけじゃない!
「一先ず、言いたい事は分かった。戻ったら、お前の意向も連中にきちんと伝える」
「ああ。すまない。思えば… 皆には、最初からずっと、苦労ばかり掛けてしまった」
「本当だよ。全く。本当にその通りだ… 良し! 一先ずは乾杯しよう。我らの希望であらせらる勇者様の、これまでの、そしてこれからの冒険に乾杯だ! マスター! 注文いいか? えーっと、まずは」
… 信じない。
僕は、こんな話、断じて信じない!
終わらせない。終わらせるもんか!
勇者は、勇者はいつも言っていた!
冒険にリスクは付き物だと。リスクを冒せない者に、為せる事など何も無いと!
勇者のために、出来る事。
僕が、
勇者のために、出来る事は、一体なんだろうか?
僕は。
僕が。
僕が、救済してみせる。他でもない、僕の憧れる、勇者を。
Ω ◆ ◆ ◆ Ω
《作者急病のため、T先生の「勇者デュークの冒険!」は暫くの間休載致します。尚、再開の予定は未定です。ご了承ください》
その日。
確かに僕は逮捕された。
酒場のマスターだった僕は、作者先生と編集の注文した料理に毒を盛ったんだ。
けど、それがどうした?
だってそうだろ。僕は、僕の望む展開を手に入れたんだ。
これ以上の幸せは無い。
勇者デュークはいつも言っていた。冒険にはリスクが付き物だと。冒険には終わりが無いと。
だからこそ、この冒険は… 本当の意味で、永遠に終わりのない僕だけのものになったんだから。
勇者のために、出来る事。僕だからこそ、出来た事。
END