行方も知らぬ淡い影
初めて投稿した作品です。
まだまだどころか、はるかに拙い文章力ですが、最後まで読んで頂けると嬉しいです。
とある小さな町にとある小さな『影』がいた。彼は、ずっと前からこの町の全ての人を見守ってきた。
時に哀しみにくれ、時に諸手を挙げて喜び、そして閉じて行く淡い命の光。彼の存在を可能にしていたその光がもうすぐ消えようとしていた。
ーー僕は誰なのだろう…
何のための存在なのだろう。僕は生まれた時から疑問だった。
名前も知らない。
どこから来たのかも知らない。
どうやって生まれたのかも知らない。
こんな僕にとって、存在とは何なのだろうか?
一つ意識に残っているのは、目的だけ。
その目的にはタイムリミットがあった。
それが、僕の寿命でもあった。
ーー僕は急がなければならない。
僕はさっそく行動を開始した。
記憶の中と現実を同時に旅する。
町の本屋を訪れる。
卒業したばかりの中学校を訪れる。
部室を訪れる。いつも通りの汗臭さが残っていた。
好きな女の子の家を訪れる。
僕はなぜ、こんな記憶を持っているのだろう。いつからだろうか、記憶が芽生え始めたのは……。
ーー!
思い、出した。
そして、感じた。
僕の主は、命の光を閉じようとしている。
主が完全に現実の住人ではなくなった時、僕は消える。
死後の世界で、主の記憶となる。
『影』は、現世で生きる者の死後の世界での姿だ。故に対を成す存在。
生者の生命力が弱まれば、『影』の意識ははっきりとしてくる。
そして、『影』として行動した記憶も死後の主に与えられる。
彼の主もまた、死を感じているのだろう。
僕が思い出せば思い出す程、主は死に近づいているという事か。
僕の目的……。
死の床に伏す主に思いを馳せる。
ああ。
ああ。
僕の主は、最期の時も優しい。
ーー僕は主の願いを叶える『影』。いいでしょう……叶えて差し上げます。
僕はスピードを上げて高台へ急いだ。
こうしている間にも意識はどんどんはっきりとしてくる。
急げ。
急げ。
間に合わなくなる。
主は求めた。
閉ざされた病室からは見る事の叶わない最高の景色を。
だから、僕が見て死後のあなたに記憶を届けます。
振り返った僕はーー
見た……。
全天に広がる緋のグラデーションを。
影が淡くなる時間帯。
全てがぬくもりの彩光に包まれる。
ああ。最期に見たかったのは、夕陽。
沈みかけの太陽が僕を照らし上げた。
影が濃くなった。
記憶の波が押し寄せてきた。
もう、僕を存在させてくれる現世の光は消えたのか。
僕は、記憶が現世ではない主に向かって行くのを感じながら、最後の感情をきらめかせていた。
ああ。
僕の主は、最期まで無欲だった。
ーー 僕の記憶はしっかり届きましたか?
……。
…………。
記憶の消えた『影』の行方は知れない。
もしかしたらーー
故人に思いを馳せた時に見える影がそうなのかも知れない。
長編の連載を始めました。
現代異能力バトルです。