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今回は貴斗視線です!
てなワケで副題にホクロがついております。
昔っから俺と優貴歩はホンマの姉弟やと思われてた。
いつもくっついてる。顔が似てる。優貴歩の俺に対する面倒見がいい。
保育園のお迎えだって毎日のように優貴歩のお父さんが二人まとめて連れて帰っていた。
そんな要素が幾つも絡まって、俺と優貴歩に会った人はほぼ100%俺らを姉弟やと判断する。
今思えば、姉弟じゃないと言ったときの相手の反応がおもしろくて、わざと優貴歩を姉ちゃんって呼んでたかも知れへん。
「初めまして、宮永貴斗です。これからよろしくお願いします」
教室がちょっとざわめいた。
第一印象が大事やから少し明るめに元気よく挨拶した。別に変やなかったよな。
そして今、
俺は宮永姓を名乗ってる。
別に養子になった訳じゃないし、ましてケッコンできる年齢でもない。
単に両親が離婚して母ちゃんが旧姓に戻っただけの話だ。優貴歩と同じ姓になったんは嬉しかった。けど、離婚して引っ越すことになるってのは、その頃考えてなかった。
母ちゃんと文ちゃんは高校時代からの親友で、どっちも旧姓が『宮永』やった。当然名前順で並んだら前後だし、選択科目も全部同じやって、直ぐに仲良くなったらしい。
結婚してからもお互いに相談しあってたそうや。
休み時間になるとクラスメイトのほぼ全員が俺の周りに集まってきた。
「宮永君ってユキ先輩の弟?」
「いや、俺一人っ子やし」
ユキ先輩って誰やねん。
「関西弁だし雰囲気似てると思ったのになー」
「そうそう、名字も一緒じゃん?」
もしかして、
「宮永優貴歩?」
「なんだ知ってるじゃんか」
「さっき廊下で聞いた名前やから」
嘘やけど。俺が廊下歩いてるときに誰も優貴歩のことなんか話してなかったし。
「超美人だし」
「頭いいし」
「運動神経抜群!」
「あそこまで完璧な人っていないよねー」
みんなから見た優貴歩は、完璧超人らしい。男子も女子も優貴歩を崇拝してるってカンジ。こっちがどんなだよって思うぐらいに。
一度優貴歩の話題が終わると、俺への質問で盛り上がった。
チャイムが鳴ると、みんな自分の席に戻っていった。
「はぁ」
人が散ると安心して、無意識にため息が出た。
「うそつき」
ボソッと隣の席から声が聞こえた。そいつは見た目暗そうな女子。急に嘘つき呼ばわりされて、俺はイラついた。
「何がやねん」
「宮永先輩」
「先輩がどうしてん」
「朝一緒に来てた」
「見てたんや。それが何で嘘つきになんねん?」
「知ってたのに言わなかった」
俺はホンマにこの一言ずつしか喋らん奴にムカついてきた。
「俺は知ってるって言わんかったけど、知らんとも言ってない。それともお前はあの時俺が知り合いですって言えば良かったと思ってるんか?」
転校初日から嫌な気分。だいたいあんな崇拝者がうじゃうじゃおる中で優貴歩の家に住んでるとか言うたら、どんな目に合うかよう見えてるわ。
しばらく隣の奴から返事はなかった。けど、
「……そういうことではなかったと思う。だから、ごめんなさい」
俺はそいつの考えてることが分からんかった。でもそいつを完全に嫌いになることもできやんかった。
「お前名前は?」
「春野明日香」
「ふーん、ハルノアスカか。これからよろしくな。何かあったらお前に相談するわ」
「えっ、何で?」
「何かお前の思考回路がおもろいから」
ちょっとからかってみた。それだけやのに春野の顔はあっという間に赤くなった。
「そ、そんなことないもん」
しかし、予想外なことに春野の声はデカく、いつの間にか始まってた国語の担当に「そこ、うるさい」と注意された。
こうして俺は転校初日の一限目から教師に目を付けられることとなった。