2!
結局昨日はご飯の後、少しだけ話してからすぐ寝た。多分引っ越し作業で疲れたんやろうな。
で、今は朝の7:40。
父さんは母さんに同窓会へ行く服を選んでもらってる。ウチは朝ご飯を食べ終わって、準備も済んでテレビを見てる。ほんで貴斗はと言えば―――急いで朝ご飯をがっついてる。
「何時まで寝てるつもりやったん?」「ひょうひゃっほあふんひゃふへへは」何語やこれは。多分今日学校あるん忘れてた、やと思う。復唱したらウンウンと頷いた。前は公立やったから土曜日は休みやってんな。食べ終わって超高速早着替えと超高速歯磨きをしたらもう家を出る時間や。
「行ってきます」そう言って靴を履き、自転車を押して玄関を出る。後ろから貴斗も出てくる。こっちではウチと同じ学校に通うらしく聖泉学園中等部の制服を着てる。「姉ちゃんチャリなん?」自転車を押してるのに気づいたらしい。「うん」なんか嫌な予感が・・・。
「俺もチャリで行きたい!」やっぱ言うと思った。
「家に自転車これしかないねんけど」
「えーでも今からバス乗ってったら間に合わへんし」まぁ確かに。道が空いてても軽く30分はかかるからなぁ。
「それってウチに遅刻しろって言ってんのと一緒やんなぁ?」
「ちゃうって!俺が漕ぐから姉ちゃん後ろに乗んねやん」
「ウソやん!無理やって」
「大丈夫やし。これでも鍛えてるから、姉ちゃんぐらいやったら軽いもんや」ぬ、そこまで言われたら断られへん。時間も時間やし自転車の後ろに横向きで座った。さすがにスカートで荷台に跨がるのはちょっと。
自転車の滑り出しは順調やった。普通やったらよろめくのにそんなそぶりも全く無かった。
ウチの道案内が終わったら(なんせ後は真っ直ぐなもんで)貴斗が口を開いた。「何で起こしてくれんかったん?」
あぁそれか。「だってたか、土曜に授業ある学校に行くって一言も言ってないやん」そう、どこの学校に行くか聞いてなかったから、てっきり地元の公立に行くんやと思ってた。聖泉に行くってのも制服を見て知った。「うっ・・・」反応からすると「ウチにサプライズしようと思って内緒にしてたけど、寝坊したってとこ?」「うん、まぁそんなとこ」「そっか。てか何で今日から学校なん?」別に月曜からで良くね?引越しして次の日から学校って大変やん。「なんか校長が『初日から七限は大変でしょう』って」ナルホド、ソーユーカンガエモアルネ。
「部活は?なんかやんの?」「サッカー続けるか迷ってるとこ」「続けたらええやん。ウチも試合見に行きたいし。見るだけでも見てきたら?」貴斗は小学校に入ったときからクラブの少年サッカーに通い出して、試合がある度に理恵子さんと見に行ったのは今でも覚えてる。懐かしいわ。「・・・。放課後見学してくる」「ん。その後買い物行こっか」「あっ、チャリとか?」「せやな、他にも色々いるもんあるやろ」一人暮らしするわけやないからそんな買うもん無いと思うけど。
「終わったら文化部の部室棟おいで。何時でもいいから」「わかった」
校門の前で降ろしてもらって、自転車を受け取る―――前に肩を掴まれた。
「ちょっと優貴歩、これ誰?」
振り向くと由美がウチの肩をがっしりと掴んでる。隣には珍しく一緒に来たらしい亮太もおる。
「友達?」貴斗が聞いてきた。「うん」と頷くと二人に言った。
「初めまして、宮永貴斗です。姉ちゃんがいつも世話になってます」
多分二人以外には聞こえてない自己紹介をぶっ放った。
「「はぁ?」」
うん、何か色々誤解を生んでるよね。
「あんた弟いたの?」
「いや、違うけど・・・教室で、な?」
正直視線がイタい。好奇心とか嫉妬とか羨望の眼差し?とか。ちょうど生徒が多い時間でもあるしな。
「たかも教室行きや」「うん。でもアレやって」「はいはい」
昔やってように手を貴斗の上に置き、ポンポンする。そして「行ってらっしゃい」。
満足したみたいで中学校のほうへ向かって行った。
犬なら尻尾をブンブン振ってそう。
この一連のやりとりを見ていた由美が「何なの・・・」と唖然してた。
◇ ◇ ◇ ◇
「で、結局アレは誰?」昼休みになるとすぐ由美が来た。「弟?親戚?彼氏?」最後のは絶対無いわっ!
「幼馴染なんかな。保育園のときから隣に住んでた」
「それだけ?」
なんかすっげー睨んでくるんやけど。
「どうしてただの幼馴染があんたと同じ苗字なのよぉ」
あー、それか。気になるよな、やっぱり。
「それは・・・たかのプライバシーがあるからまた今度」
教室中が傍耳を立ててる中で、ウチが話す訳ないやろ。
「放課後」
「へっ?」
「今日の放課後なら時間あるでしょ。昼で終わるんだし」
「ウチ部活―――」
「知らない」
由美は一方的に話を終わらせると、ウチの席から離れてった。由美と入れ違いで周りで盗み聞きをしていた女子がやってくる。
「優貴歩っ、今朝の子誰?」「いくつ?」「あの子どこに住んでるの?」
わらわらと寄ってきて口々に喋る。そんないっぺんに喋んなや。ウチは聖徳太子かっつーの。
「あいつは弟!13歳!!ウチん家やっ!!!」
質問攻めにしてきた女子が一瞬で黙った。
あれ?何かちゃうこと言ったような。正しくは「あいつは弟分!13歳!!ウチん家に居候中やっ!!!」です。はい。
けどウチが訂正する前に彼女らは、「なーんだ弟か」「つまんないなー」とか言って解散してく。
誤解やねんけど。はぁ。
もう面倒くさいから貴斗は弟ってことにしとこ。