プロローグ!
「ぼく引っ越してもゆきちゃんのこと、忘れないよ、ぜったいまた会おうね」
そう言って男の子は、泣いている女の子の手をギュッと握った。女の子は男の子よりも盛大に泣きじゃくっている。
「ぜったいに忘れんといてね、ゆきも○○○のこと忘れへんから」
いつの間にか女の子は泣きながらも笑顔になっていた。それを見て、男の子は少し離れた場所にいた母親に駆け寄り、「ぼくここに残る!」と言った。母親は困った顔をして、「ダメよ。もう行かないと」
男の子の手をとり、引っ越しトラックに乗り込む。助手席に母親と座り、大きく手を振る。「―――――っ!」男の子は何か叫んだが、その声は動き出したトラックの音に掻き消された・・・・・・。
◇ ◇ ◇ ◇
朝、「行ってきます!」と言って玄関に置いてある自転車を押して家を出る。家から3つ目の交差点を右に曲がり、ひたすら北上。計20分のサイクリングの後、ウチが通う高校が見えてくる。手前には中学校。どちらも門には『聖泉学院』と掲げられている。県内では有名な中高一貫のミッションスクールや。
校舎の裏にある自転車置き場に自転車を止め、下足室へ向かう。ちらりと時計を見ると8時10分。いつもと同じ時間ってだけでちょっと嬉しい。
「おっはよー、優貴歩」後ろから声を掛けられ振り返ると、親友の由美が走ってきた。「今日も早いね」横に並ぶと息を切らしながら言われた。
「そんなことないし。由美も早いやん」「私はこれがギリギリに着く最終の電車なの~」喋りつつ下足室で靴を履きかえようと靴箱を開けると―――
大量の手紙やらプレゼントやらが溢れ出てきた。
由美はその内の一つを手に取って、しげしげと眺めた。
「全く、なんで優貴歩はそんなにモテるわけ?毎日こんなにラブレターなんか貰って」うん、この愚痴も毎日聞いとる。とりあえず他の生徒の邪魔になるため、予め用意しているトートバッグに無造作に入れてく。増えた荷物を持ちながら階段を上がる間も由美の愚痴は続いてる。「ちょっとはあんたも断ったら?興味ありませんって。好きな人いるんですって」「えー、そうなんかなぁ」
教室に入ると友だちが「優貴歩おはよー」とか「朝から機嫌悪いねー、由美」と口々に挨拶をする。「おはよー」優貴歩がそれぞれに返事を返していく。そこに男子が一人近づいてきた。
「おはよう、由美、優貴歩ちゃん」由美の幼馴染である亮太や。由美と亮太とはこの学校の中学一年で同じクラスになり、それ以来四年連続クラスが同じという奇跡的な(?)縁もあって仲が良いねん。由美によると亮太は以前、優貴歩に気があったらしいんやけど、今はそうではない。由美曰く、「素の優貴歩を見るとね~」。失礼な話や。さらに酷いことに、「黙ってたら美人」。ウチは喋んなってか。
「そうそう、今日英語のノート貸して」「いいよ、授業終わってからでええ?」「うん。ねぇ、放課後暇?亮太と三人で遊ぼうよ」「ゴメン、今日はパス。母さんが早く帰ってきてって」今日は五限で終わるので早く帰れるんや。しかしウチの母さんが「早く帰って来い」と言うのは珍しい。
そう考えてる内にチャイムが鳴り、担任が教室に入ってくる。「今日は教室礼拝ですから、机の上を片付けて礼拝用書だけにして下さい」担任の声を合図にみんな自分たちの席に戻っていく。
席に戻る由美に「楽しんできぃ」と声をかける。由美は少しだけ振り向き、後ろで手をヒラヒラさせた。
◇ ◇ ◇ ◇
五限目の授業が終わり、教科書やノートを鞄に片付けていく。ふと教室を見渡すと、多くの生徒が窓の外を見ている。中には窓から身を乗り出している男子もおる。
「何かあったん?」近くにいた友達に聞くと、「なんか、中等部に転入生だって。多分今日は手続きでしょ」「サッカーやってるらしいよ?明日仮入来るって後輩が騒いでた」「てか、マジイケメンって噂」なるほど、人が集まっているのは、『イケメン君』を見るためやったんか。納得。
担任が教室に入ってきてから生徒を座らせるのに一苦労するには十分な理由や。おかげで終礼が長引き、学校出んのが遅なったのは言うまでもないやろ。
教室を出たら、両手いっぱいに課題ノートを持った学級委員長がおった。彼女の名前、何やったっけ?「大丈夫?」とりあえず声を掛ける。「・・・ゴメン宮永さん、運ぶの手伝って」さすがにこの量は持って行かれへんって思ったんかな。あ、宮永ってウチの名字な。
委員長が持っているノートを半分貰い、職員室まで着いて行く。英語の先生の机に置いてお手伝い終了。「ありがとう!」笑顔でお礼を言われ、ちょっとテンションが上がった。同性から見ても彼女はかわいい。「全然かまわへんで」にわか美人のウチとは比べもんにならんくらいやわ。「ほんじゃぁ、帰るわ」そう言って委員長と別れた。
何事も無く帰路に着き、普段のように自転車を漕いで帰った。
家の鍵を開けて自転車を玄関に置く。ほんで「ただいま~」って叫ぶ。ここまではいつもと一緒。そしたら父さんが「おかえりー」って言うねん。いつもやったら。
今日聞こえてきたんは母さんの声。
は?
この時間いつもおらんやん。
ここでちょっとだけウチの家族構成言っとくな。
父さんと母さんとウチの三人暮らし。ウチの名字の『宮永』は母方の姓。父さんは婿入りしてん。せやから母さんがバリバリのキャリアウーマンで、父さんが専業主夫になってんねん。余所とはなんや違うらしいけど、ウチはこの役割分担で良かったと思う。だって母さん料理とか洗濯とか家事全般できやんもん。これでもし母さんが違う人と結婚してたら、宮永家の食卓は毎日カップ麺やったやろうな。うん、確信を持って言えるわ。
話し逸れたけど、とりあえず母さんは普段この時間まだ働いてるねん。
あー・・・ってか早く帰って来いっていう命令忘れてたわ。それ関係か?疑問符が頭に浮かびながらも靴を脱ごうとしたら、見慣れん靴が置いてあった。お客さんか?そう思ってリビングに行ったら、「おっかえりー」って知らん男の声と一緒に抱きつかれた。
ちょっ、何やねんお前!やんのか!?
早速主人公・優貴歩はキャラ崩壊してしまいました・・・。
関西弁で文章を書くのは難しいですね(汗