MMORPG。
私はパソコンを持っていなかった。いや、持ってはいたが、インターネットに繋いでいない状態だった。契約すれば良いのだが、ある日携帯電話を通じてパソコンからインターネットにアクセスする方法を発見した。
二時間で十万円弱がかかった。わあ……。
父親から叱られ、授業料として払うからこれで学べと言われた。そんな高校一年生の冬。
その時はネットサーフィンをしただけだったが、もしネットゲームに手を出していたらと思うと恐ろしい。
いつだかMMORPGをやっていた時期がある。やり込んだりする時間もなかったし、交流が苦手なので基本的に一人でプレイしていた。だが、MMORPGとは、Massively Multiplayer Online Role-Playing Gameの略で「大規模多人数同時参加型オンラインRPG」を指す。
多人数で、するものなのだ。淡々と一人でレベル上げをするのが楽しいわけもなく、もちろん効率も悪い。いくつかやるのだが、すぐに飽きた。好みのキャラメイクではソロに向かないというのもあった。中堅クラスの入口までが、当時の私の限界でもあった。子供であったことから、パソコンを使える時間が限られていたのだ。それ以上はめぼしい進展がなかなかうかがえず、根気が続かずにやめてしまうのだった。
小説におけるMMORPGは根気がいらない。読むだけでレベルは勝手に上がり、努力や我慢なしに話が進む。さらにVR(Virtual Realityの略、仮装現実)と来れば、暗い部屋で液晶画面に向かって背中を丸めるイメージはなくなり、強くなる爽快感だけを楽しめる。つまらない作業はいらない。たった一行で、一言で、時間のかかる作業は消え去るのだ。「主人公はそれからたくさん狩りをして、レベルが10上がった」と。これは、なんて楽だろう。
ゲーム特有の、時間をかけ努力しないと得られないあの達成感、自分が強くなっていくあの充足感。それは、RPGによくある「レベル」という指標のもとで強化される。「スキル」を突然覚えるという設定がそれに並び、「ギルド」に入り「パーティ」を組めば仲間が簡単に手に入る。世界は既に「プレイヤー」を受け入れる体制を整え、雑魚でも安心のイージーモード。現実の厳しさはなりをひそめ、MMO、「『大規模多人数』同時参加型オンライン」は、『たった一人の個人』のために動き出す。
これは作者の楽であり読者の楽だ。なんと、羨ましい。