第一話:愛は戦い
あの子を見ていると、いつも笑っていて、悲しいことなんかないようで、幸せなんだろうな、と思う。彼女は自由に生きていて、たまにあたしの前で、涙ぐみながら、お酒を飲んでみたり、怒ったりする。だけど、基本的には幸せなんだと思う。
彼女は、それなりに美しく、それなりの仕事を持ち、異性にもチヤホヤされていた。
あたしはそんな彼女をうらやましく思っていた。
誰にでも、人には言えない過去があるのだろうか?
少なくとも、あたしにはない。平凡な家庭で育ち、中学のとき少しのいじめを経験したくらいで、友達もいたし、まあまあの高校に行き、大学で彼氏もできた。ひとに言えないことなんてない。でも、彼女の話すことや生き方を見ているともしかして、彼女は普通の子と違うんじゃないかと思う。初めは変わり者なのかと思った。
これは彼女と恋愛と人生の話。あたしが彼女から学んだこと。人に優しく、しなやかに生きるため、強くなる方法。でも、彼女の話すことや生き方を見ているともしかして、彼女は普通の子と違うんじゃないかと思う。初めは変わり者なのかと思った。
これは彼女と恋愛と人生の話。あたしが彼女から学んだこと。人に優しく、しなやかに生きるため、強くなる方法。高校3年の夏、ユウは恋をした。眩しく輝く野球部の男の子。
初めて人を好きになったのは、大学一年のとき。それまでは好きな人がいたり、エッチもしたけど、両想いじゃなかった。彼はマサヤスという名前で初めてユウの事を好きになってくれたひと。親や友達に安心する居場所を見つけられなかったユウにとってマサヤスはかけがえのない理解者になってくれた。
一緒に眠り、一緒に起き、一緒に食べて、一緒に歩いた。片時も離れることなく一緒にいた。この人が好き!まるで風船でふわふわと幸せの雲の上を歩いているような気分。大好きで彼の全てになりたいと思った。あたしがアナタを想うくらい、アナタもあたしを想って。苦しくなった。相手がどれくらい好きなのか確めるための別れ話。別れるつもりなんかないのに、追いかけてきてくれることに愛を感じたんだ。
--(恋愛はゲームじゃないのよ,あなたは相手の気持ちに敏感で、相手のしてほしいことを、してほしくないことを考える余裕がありますか?)
マサヤスは急に別れを告げた。ユウには分からなかった。なんで?なんで?そればかりが頭を巡る。昨日まであたしを抱いていた腕がもうあたしを憎むようになるなんて、悪夢としか思えない。あたしがあなたにしたように、試してる?理由が分からず、泣いてすがり、足に絡みつき無理やりキスをし、泣きながら抱かれた。昨日同じ時間に穏やかに抱かれた同じ場所で。でも彼は戻らなかった。すでに、ユウの気づかないうちに心は遠くに行ってしまってた。諦めきれず、ユウは別れた男の部屋に行く。恋愛は二人でするモノよ。あたしは、まだ納得してないし、勝手に別れるなんて、許されないんだから!
季節は9月。空気は澄んでいて、夏の名残がまだある季節。半袖のTシャツが朝は肌寒い。彼女は自転車をこいでいた。呼び鈴に応答がなく、慣れた合鍵でドアをあけた。内側からチェーンがかかっていたけど(これは彼のユウを拒絶する気持ちだったんだろうな)、それも開けて、ベッドで眠る彼に近づく。
「ねぇ。」
マサヤスはビックリし、次に呆れた顔になる。
「お前警察呼ぶぞ」
さっき考えついた屁理屈を喚き、泣くユウをマサヤスまた抱いた。これが二人の最後。マサヤスはユウに別れの意味を言わなかった。恋愛は二人でするものだけど、離れた心が元に戻ることは難しい。まして、お互いに納得のいく別れなんて。愛すれば愛するほどそんな綺麗な別れなんて存在しないのかもしれない。ユウにとって、燃えるように愛した最初で最後のひと。
恋愛は駆引きじゃないこと。
愛は押し付けてはいけないこと。
そして大好きな人の気持ちををもっと大切にすること。
失ったものは戻らないこと。
大きな喪失感が消えないまま、時は過ぎ、彼女の旅は続く。三年後、ユウは年下の男の子に出逢った。