操り人形
まだ月がわずかに光っているものの、もう夜明けは近い。
その微弱な月光は、龍風の横顔を照らしている。
テレビに出てきそうな男性物の中国服に身を包んだ龍風は、まるで大きな人形のようであった。
いや、人形そのものである。
瞬きもせずどこかを見たままぴくりとも動かない。
その姿を、じっと遼は見つめていた。
「ほんと、人形みたいだな。」
ふう、と息をついた。自分の言葉に苦笑する。
「いや、もうドクターのお人形だもんな、君は。」
ベッドの上で糸が切れたように座り込んでいる龍風に声をかけた。
「・・・壊すなって言ったのにね。」
椅子に腰掛けながらコーヒーを口にした。
ブラッドに言われ、遼は龍風のお世話係になった。というより、自ら引き受けた。
だが、お世話しようにも人形のような龍風から世話をかけられることもないので、所在無げにコーヒーを飲むしかなかったのだ。
肉体である『吉川春海』は自由にしていいとは言われた。が、抜け殻のようになった龍風をどうこうしようとは到底考えられなかった。
「俺は元気な龍風ちゃんに興味があったんだけどなあ。」
それにも答えず、龍風はただどこかを見つめているだけである。
「ねえ、覚えてない? きみ、自分の手で仲間を殺しちゃったんだよ?」
「・・・」
何の反応も無い。はあ、と再びため息をついた。
「つまんないな。」
コーヒーカップを掴んで立つと、部屋の扉を開けた。
「俺、隣にいるからさ。何かあったら呼んでよ。」
半分冗談半分願いを込めて、遼は苦笑して出て行った。