龍去りてその後
がら、と廃材が動いた。
中から虎瞬が頭を抱えながら這い出てきた。頭から血を流しながらうすぼんやりとする視界を拭う。
「てて・・・」
痛みで呻きながら辺りを見回す。そこで、目を見張った。
雀景が血溜りの中で倒れてぴくりとも動かず、玄清は服が黒こげになって倒れている。
「雀景・・・玄清!」
頭の痛みもどこかに吹っ飛んだ。慌てて二人に駆け寄る。
「雀景!」
背が日本刀で斬られたように抉られている。
しかし、致命傷になるような傷ではなかった。
とりあえず、自分の服を脱いで雀景の体に回し、止血帯の代わりとした。
その痛みに雀景が目覚める。
「うっ・・・つ・・・」
「雀景!?」
ほっとして声をかけると、雀景は青い顔をしながら笑った。
「ああ・・・無事か、虎瞬。」
「雀景のほうが重傷だよ。」
それだけ言うと、今度は玄清のところに走った。
焦げ臭い匂いが立ち込めている。が、本人はさほど焦げているようには見えなかった。火傷はあちこちにあるがそんなに酷いものではなさそうだ。
「玄清? 大丈夫?」
ゆさゆさと揺さぶると、玄清が不機嫌そうに目を開いた。
「・・・虎瞬か?」
何故起こすとでも言いたげな声。
「相変わらず寝起きが悪いなあ・・・痛いところはない?」
その問いで目が覚めたようで、身を起こして自分の体を眺めた。
「・・・無事だ。」
「よかった、焼蛇亀なんてまずそうだもんね。」
いつもならここで皮肉の一つでも返してくるのだが、玄清は唖然として黙っている。
「誰にやられたの? ブラッド?」
火炎放射器で燃やされたの? と言おうとしたが、真剣な表情を見て口をつぐんだ。
「何故・・・無事なんだ?」
「え?」
「あいつは殺せと命令されたはずだ・・・だが、火傷程度で済んでいる・・・」
「あいつって・・・龍風?」
頷く玄清を見て、雀景が言った。
「俺もだ。アイツ、加減してた。」
「そういえば・・・俺も、ふっとんだけどそんなに痛くなかったな。」
三人は黙り込んだ。それぞれが考え込んでいる。
その沈黙を破ったのは、雀景だった。
「とりあえずさー・・・病院行っていい?」
さきほどから止血したところから血が滲み出ているのだ。顔色も青から白に変わりそうである。
「あっ、ごめんね。」
あはは、と笑う虎瞬に、恨みがましそうな視線を寄越した。
「忘れてたな。」
「いえいえ、とんでもない。」
玄清が立ち上がる。ぼろぼろの服をなんとか形にして身なりを整えた。
「いいから、さっさと行くぞ。龍風のことは後だ。」
二人も立ち上がった。よろよろと出て行く玄清の後を追う。
朝日が昇るには、まだ早い時間のことだった。