08「この街は魔王の息子の支配下なんですよ!」
「まあ、大丈夫なんですけど」
バキィン!!!
と金属を腕力で破壊する。
(ヴェルグめ、私を侮ったわね)
そう、私は魔王を剣一本で倒した女。筋力はSSSランク、人類最強に近い存在なのである。
とはいえ、魔王を倒した今となっては世界は平和で、聖女に筋力は求められていない。
(それどころか、聖女そのものがもういらないのかも)
聖女の役目は瘴気の浄化や、町を瘴気から守る結界を張ること。
だけど瘴気を操っていた魔王はもういない。魔王を倒した後何が起きるかまでは教会では教えてもらえなかったから、どうなるかは知らないけど、魔王討伐のための大掛かりな聖女集めはもうしていないだろう。
(このままじゃ無職になっちゃう……!)
ふと、幸せそうに微笑みあうオルフィー殿下とカミーユ、そして娘のエルの顔がちらついた。
彼らと比べて、今の自分の何たる無様なことか。
(しっかりしろ、私!)
パチン、と頬を軽くたたいて気合を入れる。
私の第二の人生はこれから始まる。決して男のベッドの上なんかじゃない。
私はドレッサーからシンプルで動きやすいドレスを選んで着替えると、屋敷から抜け出した。
「聖女様!?」
ダメだった。
ドアを開けた瞬間、メイドさんと鉢合わせる。
黒いドレスの清楚で若々しいメイドさんは、ヴェルグに私を逃がすなと言いつけられているのだろう。
あっさりと鎖を破壊して、堂々と扉から抜け出そうとする私を見つけるなり、悲鳴を上げていた。
(窓から抜け出せばよかったー!)
後悔してももう遅い。
こんなかわいい女の子をワンパンで眠らせることなんてできないので、私はあたふたしながら静かにしてくれるよう頼みこむ。いよいよとなれば土下座をして見逃してもらおうと思っていたが、メイドさんはすぐに我に返って静かにしてくれた。
「出て行かれてしまうのですか?」
「え、ええっと……」
「それは不可能です! この街は魔王の息子・ヴェルグ様の支配下なんですよ!? 聖女様を逃がさぬように、ありとあらゆるところに監視の目が光っています!」
「なんなの、その執着は!?」
でも、とかわいらしいメイドさんは目を伏せる。
「私も、聖女様の大ファンなんです。だから、聖女様が嫌がることはしたくなくて……」
かわいい。抱きしめたい。
筋力SSSのこの腕で抱きしめたら死んでしまいそうなのでできないけれど、いじらしく私を見つめる少女の瞳に私はひるんでしまった。
(こんないい子に、私を逃がしたなんて失態を押し付けるわけには……)
「……夜には戻ってくる。その間だけ、見逃してもらえないかしら?」
「わかりました! それまでこのリズ、ヴェルグ様に何をされても口を割りません!」
「ねえ、あの子はちゃんとみんなに優しくしているの!?」
冗談ですよ、とリズは笑っていたので、ヴェルグが父親と同じように圧政を敷いているのではないと信じたい。
ともかく、周りはリズの様にヴェルグの手がかかった人間だらけ。私は夜までには戻ってこないといけない。
(……今日中に仕事を探して、ひとりで生きられるようになってからヴェルグと交渉しよう)
のんびり外の空気でも吸おうと思っていたのが、とんでもなく忙しくなりそうだ。
でも、私には何でもできる自信があった。なにせ魔王を倒しているんだし、10年間鍛え続けた体と魔法は世界最強クラス。多国語や古語も堪能だし、どんな過酷な仕事だって耐えられる根性もある。
「行ってくるわね」
「はい、行ってらっしゃいませ!」
監視の目を逃れるため、変身魔法で外見を変化させた。といっても、今の私と同じ年、同じ性別。髪色、髪型、ついでに目の色を変えただけ。それでも十分別人に見える。
「明日からきっと忙しくなるわ」
どんな仕事があるかしら。
本命は教会でのお仕事。なんせ人生を過ごしてきたんだもの、すぐに第一線で働けるわ。
でも、聖女の身分を隠さないといけないなら工場勤務もいいかも。過酷だろうけど、人手不足だからきっとすぐ雇ってくれる。
それか、今までにしたことのない素敵な仕事ができたら楽しそうね。お花屋さんとか、ケーキ屋さんとか!
期待に胸を膨らませ、足取り軽く街へ向かう。
朝の澄んだ空気が港町を抜ける。まるで私の門出を祝福してくれているようだった。
◇ ◇ ◇
「教会の仕事か……残念だけど今はなくてね。ほら、魔王が討伐されてから組織が大幅縮小されることになって」
「悪いねえ、うちの工場は子供しか雇ってなくてさ。小回りきくし、賃金安いからね」
「夫に養ってもらえばいいじゃないか。そうじゃなけりゃさっさと結婚しな。ここに女の仕事はほとんどないよ」
駄目だった。
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