02「聖女アルティアに喝采を」
「ついに魔王は滅んだ! 聖女アルティアに喝采を!」
魔王を倒した報告をした後、ベルモンド王国は歓喜に沸いていた。
魔王討伐祝賀パーティで、国王様直々にプラチナのティアラを授けられ、私は少しだけ浮かれていた。
「聖女アルティアよ、長きにわたりよくやってくれた」
「聖女として当然の務めでございます、陛下」
私が旅を始めてから10年の時が経っていた。国王陛下にお会いするのは旅立ちの19歳の時以来。
豊かなひげを蓄えた陛下は威厳に満ちていたが、10年の時を経て少しばかり御歳を召されたように感じる。
「我が息子もそなたの帰りを待っていた。どうか、声をかけてやってくれ」
「私から声をかけるなど、恐れ多いですわ」
「……そう言わず。久々の再会であ奴もきっと緊張しておろう」
「私も長らくお会いできておりませんでしたので、お会いするのを心待ちにしておりました」
かつては雄々しく尊大だった陛下の態度は、年を経て穏やかな慈父のような態度に変わっている。
10年前は怒鳴られた記憶があったので、態度の変わりように驚いてしまった。
隣でほほ笑む王妃様も、10年前はヒステリックに私を糾弾したことがあるほど激情家な方だったが、今は淑やかな微笑みで私を迎え入れてくれる。
長い旅は、私たちを少しずつ変えていた。
「殿下にご挨拶に参ります」
「うむ……その、なんだ……。10年の時が経っている。何があっても驚かぬように」
陛下の言葉尻は歯切れが悪く、何か嫌な予感がした。
長い時間が殿下をも変えてしまったのだろうか。
(確か今は33歳。太ったりはげたりしていてもおかしくないわ。……でも、殿下とは旅の間も何度かお会いしていたし、その時は何の変化もなかったけどなあ)
19歳の時、当時23歳の殿下と婚約をした。
王家の婚約者は聖女候補から選ばれる。たくさんいた仲間たちの中から選ばれたときの喜びはまだ覚えている。
真昼の陽光のような金の髪に、エメラルドの瞳。まるで人形のように美しく、麗しい王子様。
とても優しく、聖女として魔王討伐に行く私のことをいつも思いやってくれた。
(どんな姿になっていたとしても、殿下は殿下。私は心からの愛情と忠誠を捧げるわ!)
そんな彼に何か変化があったとしても、私の心は変わらない。
久々にお会いできることに胸を躍らせながら、私は会場で殿下を探した。
「殿下……!」
きょろきょろとあたりを見回していると、見覚えのある高い身長と金の髪が人垣の向こうに見えた。
間違いない、オルフィー殿下だ。
私ははしたないと思いつつも、大きく手を振って彼のもとへ駆け寄ろうとする。
「アルティア様、よくぞご無事で」
「アルティア様! おかえりなさいませ!」
――だけど、この祝賀会の主役である私はたくさんの人に囲まれてしまった。
貴婦人や紳士に囲まれて、殿下の影はどこかへ行ってしまう。
焦る心はあったけれど、皆私の帰還と勝利を喜んでくれているので無下にはできない。ここにいる人たちはみな、10年前に私が魔王討伐の旅に赴く際に協力してくれた恩人たちだ。
「アメリア令嬢、お久しぶりです」
特にアメリア令嬢は懐かしかった。侯爵令嬢ではあるが、私より3つ下のかわいい妹のような存在。
10年前は自分も聖女候補になって魔王を討伐しに行くんだと息巻いていたおてんば娘。
「嫌だわ、令嬢なんて。もう婦人の年よ。ほら、メリー、聖女様にご挨拶なさい」
「せいじょさま! おかえりなさいませ!」
「お、お子様がいたのね……」
「2年前に生まれたの。お手紙を差し上げたのだけど、そのころ貴女はアシュフォード帝国で戦われていたから……」
そんな彼女はおてんばだった名残はもうなく、しとやかな貴婦人として私の元を訪れてくれていた。
傍らには小さな淑女が、幼い声で私の帰還を祝ってくれる。
ずきり。
言いようのない痛みで、胸が詰まる感覚がする。
10年という時間が、私を社交界から置いていってしまったような――
「そ、そうだ。殿下にご挨拶をしなくちゃ」
「で、殿下……に? あなた、何も――」
「失礼いたします。アメリア様、エミリー令嬢!」
私はその場から逃げるように足早に立ち去った。
人垣をかき分けて、殿下のもとへ向かう。
(大丈夫。私には殿下がいる。殿下のもとに行けば、私は幸せな花嫁になれる……)
心が焦っていた。別に花嫁じゃなくたって、幸せな人はたくさんいる。
だけど私の知っている人たちはみなパートナーを伴って、時にお子様を伴ってこの祝賀会に参加している。
私だけが、10年前に置き去りにされたまま。
「殿下!」
そんな苦しみを癒やしてくれるのは殿下の優しい笑顔だ。
やっと見つけた殿下のもとへ私は大きく手を振って駆け寄る。殿下は何も変わらない、10年前と同じく美しいままの姿で、私の方を振り返ってくれた。
「オルフィーお父様!」
しかし、殿下の胸に飛びついたのは私ではなく小さな令嬢だった。
驚いて固まる私と、殿下の瞳が合う。殿下は苦しそうに床を見つめてしまう。その肩を桃色の髪の女性が優しく抱いていた。
「おとう、さま? 殿下、これはどういう……」
聞きたくない、でも聞かなければいけない。
震える声で殿下に尋ねると、殿下は桃色の髪の女性の手を握って、口を開いた。
「アルティア……すまない。婚約を破棄させてほしい」
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