12「一方、ベルモンド王国」
「オルフィー様、いつになったら正式に婚約できるんですか!?」
「またその話か、カミーユ! 今はそれどころではないんだ!!」
聖女アルティアが隣国にわたってから数日。
オルフィーとカミーユの間には亀裂が生まれだしていた。
「いつもはぐらかしてばかり……。アルティア様がいなくなったら、正式に婚約すると約束したではないですか!?」
「魔王討伐後の後処理でそれどころではないんだ! いつか必ずするんだから、少しぐらい我慢できないのか!?」
「そう言って3年経ったんですよ!? 私がどれだけ待っているか……」
「俺はアルティアを10年待ったんだぞ! たった3年がなんだと言うんだ!」
互いが互いのヒステリーを上書きするように声を荒らげる。
いつしか怒鳴り合いに発展した両親を、エルは泣きそうな目で見ていた。
慌てたメイドがエルを避難させるが、そのことにすら二人は気づいていない。
「聖女がいなくなったことで、瘴気が蔓延して魔物が大量発生している。早急に解決せねばならないのだ」
「どういうことです!? 魔王が討伐されたら瘴気はなくなるのでは……?」
「瘴気は自然発生するんだ! そんなことも知らないのか! 魔王はそれを操っていただけ。これまでは聖女が結界で守っていたんだ!」
ベルモンド王国が聖女を失った影響は、日を増すごとに深刻になっていった。
良くも悪くも瘴気を操っていた魔王がいなくなり、瘴気はもはや手の付けられない状態になっている。
勝利の喚起に沸いていた国民たちも、じわじわと圧迫される自分たちの状況にいら立ちを募らせている。
ベルモンド王国の治安がいずれ崩壊するのは、目に見えていた。
「それもこれも……君のせいだ……君がわがままを言うから」
イライラとしながらオルフィーがつぶやけば、カミーユが蜂に刺されたかのように過剰に反応する。
「私が悪いのですか!? 私を孕ませたのはあなたでしょう!」
「女児を、な! そのせいで、宰相たちは男児のいる弟のほうが跡継ぎに相応しいなどとほざいているんだぞ!」
「なんてことを……エルが可愛くないのですか!」
「かわいいさ! だが、女だ!」
再び言い合いはヒートアップする。メイドたちは顔を伏せ、この嵐が過ぎていくのをただ耐え忍んでいた。
「あなたなんて……その女である聖女より力がないくせに!」
「なんだと――!?」
パァン、と乾いた音が響く。
カッとなったオルフィーがカミーユの頬を打ったのだ。
(これはもう、止まらないわ……)
嵐の中に雷が落ちる。メイドたちは金切り声を上げて泣き叫ぶカミーユを想像して、ぎゅっと身を構えた。
「はは……ははは……」
だが、カミーユは泣かなかった。
低く、地を這うような声で、打たれた頬など気にせずに静かにほほ笑んでいる。
覚悟を決めた女の顔だ。メイド達は理解できたが、オルフィーにはそれがわからなかったようだ。
「馬鹿にするな! 何を嗤っている!!」
怒鳴り声をあげてカミーユを威嚇する。
だがもうカミーユは怯えなかった。
「では……戻ってきてもらえばいいではないですか」
呻くような笑い声のまま、ぎろりとオルフィーを睨みつける。
「馬鹿を言うな! いまさら彼女がそんな話を聞くものか! それに、それではエルが継承権を持てないだろうが!」
「体だけ、戻ってくればいいのですよ」
ぞくり。やっとオルフィーはカミーユが本気で物を言っていることに気づく。
「手足を切り落とし、監獄に閉じ込めてしまえばいい。生涯をかけて結界を張り続けるだけの、人柱になっていただきましょう」
何よりも残酷な台詞を小ぶりな唇から放つ様に、オルフィーは怯えた。
「人の役に立てるんですもの。聖女様もきっと、ご満足されるでしょう」
オルフィーは何も言えなかった。震える喉で、従者に命じる。
「……聖女アルティアを捕まえろ」
まるでカミーユに操られているかのように。
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