表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

85/100

第85話:座標の彼方



『バイソン』は夕暮れの荒野をひた走っていた。

背後を見るが、追っ手の気配はない。

あの研究所から這い出た「失敗作」の群れは、俺が放った「虚無」の波動に畏怖し、ただ立ち尽くして俺たちを見送っていた。


「……追ってこないね」

白石がサイドミラーを確認して呟く。


「ああ。あいつらは本能で悟ったんだろ。俺は餌じゃなくて、自分たちを消し去る天敵だってな」


俺はシートに深く体を沈めた。

心地よいエンジンの振動と、タイヤが砂利を噛む音だけが響く。


「それにしても……カケル、お前大丈夫か?」


ハンドルを握るゲンゾウが、バックミラー越しに俺を気遣う。

「100年前の因縁に、母親の真実だ。……いきなり詰め込まれて、参っちまうぞ普通は」


「……平気だと言えば嘘になるけどな」


俺は自分の手のひらを見つめた。

母さんが組織に囚われ、機械にされた理由。それが俺たちの血に流れる「因子」のせいだったとは。

だが、不思議と絶望はなかった。


「むしろスッキリしたよ。なんで俺だけが『虚無』なんて力を持ってるのか、その理由が分かったからな。……それに、母さんが最期に俺に託した意味も、やっと腑に落ちた」


バケモノになる前に、人間として終わらせてほしい。

それは単なる懇願じゃなく、適合者としての誇りを守るための、母なりの抵抗だったんだ。


「強いね、カケル」


アリスが隣で膝を抱えて言った。

「……悲しい匂いはするけど、もう迷子の匂いはしない」


「迷ってる暇なんてねぇよ。……システムは言ってた。『東へ行け』ってな」


俺は白石の方を見た。

彼女は膝の上でタブレットを展開し、研究所から持ち出したデータの解析を続けている。


「どうだ白石。その『東』ってのは、具体的にどこなんだ?」


「……出たよ。座標特定完了」


白石がタブレットをダッシュボードに固定し、地図を投影した。

現在地(大峡谷)から、さらに東へ。

かつて海があった場所、今は干上がった大陸棚の先。


「ここ。……旧時代の地名で『ロスト・トウキョウ』」


「トウキョウ……? 帝都のさらに東にか?」


「うん。100年前の大崩壊で沈んだと言われてた旧首都。……その地下深くに、巨大なエネルギー反応がある」


地図上の赤い点滅。

そこには『原初の井戸オリジン・ウェル』という名称が付記されていた。


「原初の井戸、か。……名前からして、お前のその『泥』が湧き出してる場所っぽくねぇか?」


レンが地図を覗き込んで鼻を鳴らす。


「可能性は高いわ。……そこに行けば、全ての始まりと、この崩壊した世界をどうにかする方法が見つかるかもしれない」


白石の声には、確信めいた響きがあった。


「決まりだな」


ゲンゾウがニヤリと笑い、アクセルを踏み込んだ。

「ロスト・トウキョウまで、ノンストップで行くぞ。……長いドライブになりそうだ」


夜が来る。

満天の星の下、6輪の装甲車は一本道を突き進む。

母の因縁を越え、己の起源を知った今、俺たちの旅は新たなステージへと向かおうとしていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ