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第76話:重力を喰らう者



ヒュオオオオオオッ!!


猛烈な風圧が顔を叩く。

俺は夜の闇の中、落下していた。

眼下には、切り離されつつある中層・下層ブロックの巨大な屋根が見える。

その境界線では、直径数メートルはある巨大な爆砕ボルトが次々と弾け飛び、火花を散らしている。


「……デカすぎんだろ、これ」


上空の「楽園」と、下の「ゴミ捨て場」。

その間には既に数メートルの隙間が空き始めていた。

このまま完全に離れれば、下のブロックは海面へ激突し、レオもナギも全員死ぬ。


「だが……重量おもさなんて、俺の前じゃ無意味だ!」


俺は落下の勢いのまま、今まさに外れようとしている巨大な連結ジョイントの真上へ着地した。

足元から伝わる振動は凄まじい。数万トンの鉄塊が悲鳴を上げている。


「うおおおおッ!! 全部置いてけぇぇッ!!」


俺は両手を広げ、足元の連結部に全力で黒い霧を流し込んだ。

破壊するためじゃない。

この下層ブロックにかかる「引力」そのものを喰らい尽くすために。


【虚無・広域質量消失ゼロ・グラビティ


ズゥゥン……!!


黒い霧が下層ブロック全体を繭のように包み込んでいく。

物理的な重さが消え、数万トンの都市が、まるで発泡スチロールのように軽くなる。


「ぐっ……ぅぅぅ……!!」


鼻から血が吹き出す。

いくら重さを消すと言っても、都市一つ分の質量干渉だ。脳が焼き切れそうな負荷がかかる。


「……軽いもんだぜ。……あいつらの命に比べりゃな!」


俺は歯を食いしばり、霧の出力を維持する。

落下が止まった。

中空で、巨大な廃墟がフワリと浮遊する。


一方、上層タワー内。


「オラオラオラァッ!! くっつけぇぇぇッ!!」


レンがメインシャフトに抱きつき、渾身の音波を流し込んでいた。

超高周波溶接ソニック・ウェルディング】。

金属の分子を振動させ、熱を発生させて、切断された箇所を無理やり溶かして繋ぎ合わせる荒技だ。


「熱っ……! 手が焼ける……!」


シャフトは赤熱し、レンの掌を焦がす。

だが、彼は離さない。

下でカケルが支えているのだ。ここで自分が手を離せば、全てが終わる。


「カケルが頑張ってんだ……! 俺が……離すかよぉぉッ!!」


ジュワァァァッ!!


金属が溶け合い、再び一つの柱へと融合していく。


『警告。パージ・シークエンス失敗。……連結部の再結合を確認』

『重力制御エラー。下層ブロックの重量が検知できません』


システムが混乱を起こす中、白石が叫んだ。


「いける! ロックが外れた! 今なら制御を奪い返せる!」


彼女はコンソールを叩き、システムの最深部へ侵入する。

狙うは都市の高度維持プロトコル。


「落ちるのは……あんたたちのプライドだけで十分だよ! 浮上しろぉぉッ!!」


エンターキーを叩き込む。


ズズズズズ……!


再結合された都市全体が、不協和音を上げながらも、ゆっくりと上昇を始めた。

カケルの「虚無」による軽量化、レンの「音波」による溶接、白石の「ハッキング」による制御。

3つの力が噛み合い、物理法則をねじ伏せた奇跡の瞬間だった。


屋外。

連結部で膝をついていた俺は、隙間が埋まり、都市が安定したのを感じて、大きく息を吐いた。


「……へっ。ざまぁみろ」


視界が霞む。

体力の限界だ。

俺は霧を解除すると同時に、意識を手放した。


だが、冷たい海へ落ちることはなかった。

完全に繋がった足場が、気絶した俺の体をしっかりと受け止めてくれたからだ。


空には、まだ星が輝いていた。

偽りの楽園は落ちず、地上のゴミ捨て場も沈まなかった。

無理やり繋ぎ止められた歪な巨塔が、夜明け前の空に浮かんでいた。


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