第73話:悪食の晩餐
「遅かったじゃないか。スープが冷めてしまったよ」
総督ガランドウは、部屋の中央にある長いテーブルの端で、ナイフとフォークを動かしていた。
皿に乗っているのは、おそらく下層の人間が一生かかっても食べられないような極上の肉料理だ。
「……随分と余裕だな。俺たちが何をしに来たか分かってんだろ?」
俺はテーブルの反対側に立ち、黒い霧を揺らめかせる。
しかし、ガランドウは手を止めず、肉を口に運びながら微笑んだ。
「殺しに来たのだろう? 野蛮で結構。……だが、私は君たちを憎んではいない。むしろ感謝しているのだよ」
「あぁ?」
「平和すぎる楽園は、味がしないガムのようなものだ。君たちのようなスパイス(異物)がいてこそ、私の『ペット』も食欲が湧くというものだ」
ガランドウがパチンと指を鳴らす。
瞬間、彼の背後の闇から、ズシン……ズシン……という重い足音が響いた。
「紹介しよう。アクア・ポリスの廃棄処理システムが生み出した最高傑作……『捕食者』だ」
現れたのは、身長4メートルはある異形の巨人だった。
ただし、その体は歪だ。
右腕は建設重機のショベル、左腕は有機的な筋肉の塊、胴体には焼却炉のハッチが埋め込まれ、頭部には無数のカメラアイと、巨大な粉砕機のような顎がついている。
「うわ……なにあれ。ツギハギだらけ……」
アリスが青ざめて後ずさる。
「下層で処理された『ゴミ』――鉄屑や、使えなくなった人間のパーツを合成して作ったのだよ。彼は何でも食べる。鉄も、肉も、エネルギーさえもね」
ガランドウがワイングラスを傾ける。
「さあ、食事の時間だ。……食べなさい」
グオオオオオッ!!
巨人が咆哮を上げ、俺たちに向かって突進してきた。
巨体に似合わないスピードだ。
「デカブツが! 的になりに来たかよ!」
レンが即座に音波砲を放つ。
ドォォン!!
衝撃波が巨人の腹部を直撃した。……はずだった。
「なっ……吸い込まれた!?」
巨人の腹にある焼却炉のハッチが開き、レンの衝撃波を掃除機のように吸い込んでしまったのだ。
そして、背中の排気口から「プシューッ」と白い蒸気を吐き出す。
「エネルギー変換効率99%。君たちの攻撃は、彼の燃料になるだけだ」
「だったら、物理攻撃で潰すまでだ!」
俺は床を蹴り、巨人の頭上へ躍り出た。
黒い霧を巨大なハンマーに変え、脳天めがけて振り下ろす。
【虚無・鉄槌】
ガギィィィン!!
硬い。
霧のハンマーが弾かれた。こいつの装甲、ただの鉄じゃない。何層にも圧縮された超合金か?
「グルァッ!!」
巨人が左腕の筋肉を膨張させ、空中の俺を裏拳で薙ぎ払う。
「ぐっ……!?」
俺はガードしたが、凄まじい馬力で壁まで吹き飛ばされた。
壁の大理石が蜘蛛の巣状にひび割れる。
「カケルくん!」
「……いってぇな。パワー馬鹿かよ」
俺は口の中の血を吐き捨てて立ち上がった。
攻撃を吸収し、装甲は硬く、パワーも桁外れ。
まさに「暴食」の権化だ。
「素晴らしい耐久性だろう? 彼は無限に再生し、無限に強くなる。……さあ、メインディッシュだ。君たちのその希少な能力、骨まで味わわせたまえ」
ガランドウが高笑いする。
俺はニヤリと笑い、ポキポキと首を鳴らした。
「……上等だ。どっちが先に腹一杯になるか、大食い競争と行こうぜ」
俺の両手に、今まで以上の濃度の黒い霧が集束する。
何でも食うだと?
なら、テメェの胃袋じゃ消化しきれない劇薬を食わせてやるよ。




