第71話:優雅な殺意
ジュッ! ジュワァァァ……!
「熱ッ!? くそ、こいつら正確すぎるぞ!」
俺は黒い霧で身体を覆いながら、石造りのベンチの陰に滑り込んだ。
ベンチが瞬く間に赤熱し、溶けた飴のように崩れていく。
親衛隊の連携は完璧だった。俺が動けば即座に3方向から射線が通り、レンが反撃しようとすればシールドで防ぐ。まるで一つの生き物のような統率だ。
「カケルくん! 奴らのシールド、『偏光プリズム』を使ってる! 光学兵器も実弾も、表面で滑って逸らされちゃうよ!」
瓦礫の陰で、白石が焦った声を上げる。
「しかも、全員の脳波がリンクしてる! 誰かが見た映像を全員で共有してるから、死角がないの!」
「視界共有に、鉄壁の守りか。……ゲームならクソゲー認定だな」
俺は舌打ちした。
だが、どんなに完璧なシステムにも穴はあるはずだ。
「おいレン。……さっきの音波攻撃、もう一回撃てるか?」
「あぁ? 効かねぇって分かっただろ。跳ね返されて終わりだぜ」
「いや、ぶつける場所を変える。……シールドじゃなくて、『足元の地面』だ」
俺がニヤリと笑うと、レンも瞬時に意図を理解して口角を上げた。
「なるほど。……お行儀の良い庭園を荒らしちまおうってか」
「行くぞ! 3、2、1……!」
俺が霧の盾を解除して飛び出すと同時に、親衛隊が一斉に銃口を向けてきた。
そこへ、レンが地面に掌を叩きつける。
「踊りな! 【アース・シェイク(地盤振動)】!!」
ゴゴゴゴゴゴッ!!
強力な低周波振動が、庭園の大理石を波打たせる。
どれだけシールドが硬くても、立っている足場が崩れれば意味がない。
整然と並んでいた親衛隊の陣形が乱れ、数人がバランスを崩してよろめいた。
「今だッ!!」
俺はその一瞬の隙を見逃さない。
黒い霧を槍のように鋭く尖らせ、体勢を崩した兵士の懐へ飛び込む。
「シールドの内側なら、関係ねぇよな!」
ズドンッ!!
【虚無・貫通】。
俺の拳が、白いボディスーツの胸部を突き抜けた。
装甲も肉体も、俺の「虚無」に触れれば等しく消滅する。
「ターゲット……沈黙……」
兵士は悲鳴も上げず、糸が切れたように崩れ落ちた。
衝撃でヘルメットが外れ、その素顔が露わになる。
俺は息を呑んだ。
「……こいつ」
現れたのは、整った顔立ちの青年だった。
だが、その目には白石が言っていた通り、光がない。
いや、それ以上に――表情筋が死んでいる。
脳をいじられているのか、それとも薬漬けなのか。
「……こいつらも、下の連中と同じ『人形』ってわけか」
美しい服を着せられ、綺麗な庭で戦わされているだけの、高級な操り人形。
ガランドウの野郎、趣味が悪すぎる。
「1体減ったよ! リンクにラグが出てる!」
白石が叫ぶ。
共有ネットワークの一角が崩れたことで、残りの兵士たちの動きが一瞬鈍ったのだ。
「畳み掛けるぞ! アリス、敵の位置を教えてくれ!」
「右から2人、お花の影! 左の噴水の上、1人!」
アリスの正確なナビゲート。
俺とレンはアイコンタクトを取り、左右に散開した。
「ヒャッハー! 泥遊びの時間だぜぇ!」
「掃除の時間だ。……片っ端からゴミ箱へ送ってやる!」
俺たちの猛攻が始まった。
一度リズムを崩された親衛隊は、もはや野良犬以下の烏合の衆だった。
美しい庭園が、黒い霧と衝撃波によって更地へと変わっていく。




