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第66話:鋼鉄の階層



ガゴォォォォン……!


重厚な金属音が響き、海賊船(偽)が搬入ドックに固定される。

そこは、腐った魚とオイルの臭いが充満する薄暗い港だった。

頭上には遥か高くに天井があり、そこから眩しい人工太陽の光が「上の世界」だけを照らしているのが隙間から見える。


「ようこそ、アクア・ポリス『第7汚物処理区画』へ」


出迎えたのは、防護服を着た警備兵たちだった。

彼らは手にスタンロッド(電撃棒)を持ち、ゴミを見るような目で俺たちを見下ろしている。


「ブラック・フィンの連中か。……今回の『荷物』はこれだけか?」


警備兵の一人が、後ろ手に縛られた(フリをしている)白石たちの顎をロッドでしゃくり上げる。


「ああ。上玉だろ? 特にこっちの嬢ちゃんは頭がいい。高く売れるぜ」


俺は海賊になりきって、下卑た笑い声を上げた。

内心では、そのロッドをへし折ってやりたい衝動を必死に抑え込む。


「ふん、査定するのは上層の人間だ。……おい、こいつらを『選別場』へ連れて行け。不合格ならミンチにして魚の餌だ」


警備兵の合図で、数人の部下が白石たちを引きずっていく。

俺とレンは顔を見合わせた。

……ここまでは予定通り。

中枢に入り込むには、一度捕まったフリをしてセキュリティの内側へ入るのが手っ取り早い。


「さて、報酬の支払いだが……」


俺が警備兵に歩み寄ろうとした時、ドックの奥から巨大なエレベーターが降りてきた。

そこから現れたのは、全身を白いパワードスーツに包んだ一団だった。

胸には『治安維持局ピースキーパー』のエンブレム。


「……海賊風情が、神聖なドックを汚すな」


先頭に立つ隊長らしき男が、ヘルメット越しに冷たく言い放つ。

そして、部下たちに銃口を向けさせた。


「え?」


「貴様らとの契約は破棄された。……最近、海賊による不祥事が多すぎるのでな。総督閣下からの『浄化命令』だ」


「はぁ? 冗談だろ、俺たちは――」


「処理せよ」


ズダダダダダッ!!


いきなりの銃撃。

こいつら、下請けの海賊すら用済みになったら切り捨てる気か!


「カケル! バレたバレてないの話じゃねぇぞ!」

「ああ、交渉決裂だ! 全員、伏せろッ!!」


俺は海賊の変装コートを脱ぎ捨て、黒い霧を展開した。

【虚無・弾道消失】。

迫り来る弾丸の嵐が、俺の目前で黒い穴に吸い込まれて消える。


「なっ……能力者!?」


「アリス、白石、爺さん! 今だ!」


俺の合図と共に、連行されていた三人が拘束具(あらかじめ緩めてあった)を弾き飛ばした。

ゲンゾウが隠し持っていた発煙筒を焚く。


「煙幕だ! 走れぇぇ!!」


ドック内が白い煙に包まれる。

視界を奪われた警備兵たちが狼狽する中、俺たちはその混乱に乗じてエレベーターへダッシュした。


「逃がすな! 追えッ!」


「遅ぇよ、ブリキ野郎!」


レンがエレベーターの制御盤に音波を叩き込み、強制的に上昇起動させる。

扉が閉まる直前、俺は唖然とする隊長に向かって中指を立てた。


「報酬はいらねぇよ。代わりにこの街ごといただくからな」


エレベーターが急上昇する。

下層の汚いドックが遠ざかり、ガラス張りのチューブ越しに、アクア・ポリスの全貌が見えてきた。


下層はスラム。中層は工場。そして上層は、緑溢れる美しい未来都市。

完全な階級社会ヒエラルキーが、物理的な高さで可視化されている。


「……ひでぇ格差だな」


眼下に広がるスラム街を見下ろし、レンが呟く。

「ナギが言ってた通りだ。ここは楽園じゃねぇ。ただの巨大な牢獄だ」


「でも、入っちゃえばこっちのものだよ」


白石がタブレットを取り出し、ニヤリと笑う。

「このエレベーターのIDをハッキングした。……とりあえず、身を隠せる中層エリアの廃棄プラントへ向かうよ」


俺たちは息をついた。

潜入成功。

だが、同時に「指名手配犯」として追われる身となった。

楽園での逃走劇の始まりだ。


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