第65話:偽りの招待状
「ひ、ひぃぃ……! 全部喋る! 全部喋るから消さないでくれぇ!」
甲板の上で、海賊のリーダーが土下座をして泣き叫んでいる。
俺が指先から少しだけ黒い霧を出し、彼の自慢のモヒカンを数センチ削り取ったからだ。
尋問には、少しの恐怖とユーモアが必要だ(と、レンが言っていた)。
「分かった分かった。で、この電子キーはどう使うんだ?」
俺が奪い取ったカード型のデバイスをヒラヒラさせる。
リーダーは震えながら答えた。
「そ、それは『搬入ゲート』のパスキーだ……! 明日の朝、アクア・ポリスから定期物資の回収船が出る。俺たちはそこで、捕まえた人間を『労働力』として引き渡す手筈だったんだ……」
「なるほど。人間を売って、物資を得ていたわけか」
ナギが冷たい目で見下ろし、リーダーの横っ面をブーツで蹴り飛ばした。
「……最低な連中だ」
「つまり、このキーとボートがあれば、正規のルートで中に入れるってことか」
俺は白石を見た。彼女はすでにデバイスの解析を始めている。
「うん、コードは生きてる。船の識別信号さえ偽装すれば、『ブラック・フィン』の輸送船として堂々と入港できるよ。……エンジンも、ゲンゾウさんと私で直せそう」
「よし。方針は決まりだな」
俺は立ち上がり、海賊たちをナギの部下たちに引き渡した。彼らは今後、この「墓場」で労働力として罪を償うことになるだろう。
夜。
出航の準備が進む中、俺はナギに呼び止められた。
「……これを持っていけ」
ナギが渡してくれたのは、手書きの地図だった。
「アクア・ポリスの下層区画の地図だ。私が住んでいた場所でもある。……迷路みたいになってるから、これがないと一生出られないぞ」
「助かるよ。……あんたは、戻らないのか?」
俺が聞くと、ナギは少し寂しそうな笑みを浮かべて首を振った。
「私はここで、あの子たちを守るよ。……それに、一度捨てられた場所には戻りたくないしな」
ナギは俺の拳に、自分の拳を軽く合わせた。
「カケル。……あそこの支配者『総督』は、人間を人間とも思わない冷徹な怪物だ。……役に立たない者は容赦なく海へ捨てられる。気をつけろよ」
「……ああ。そういう手合いには見覚えがある。肝に銘じとくよ」
(神宮寺みたいな野郎ってことか……。どこにでもいるんだな、そういう支配者は)
翌朝。
霧の立ち込める海上に、修理された海賊船のエンジン音が響く。
船体には『ブラック・フィン』のマーク。
乗っているのは、海賊に変装した俺とレン、そして「捕虜」役(という設定の演技)のアリス、白石、ゲンゾウだ。
「おい、この衣装なんか臭くねぇか?」
海賊の服を着たレンが顔をしかめる。
「我慢しろ。……見えてきたぞ」
霧が晴れた先。
海の上に、巨大な影が浮かび上がった。
それは、いくつもの高層ビルと工場プラントが連結された、鋼鉄の浮遊大陸。
朝日を反射して輝く上層部と、錆と藻に覆われた下層部。
天国と地獄が同居する場所。
『こちら、アクア・ポリス第4搬入ゲート。識別信号を確認。……ようこそ、ドブネズミ共』
スピーカーから、蔑むような管制官の声が聞こえる。
ゲートがゆっくりと開き、巨大な口を開けた。
「口の悪いお出迎えだこと」
俺は帽子のツバを下げ、ニヤリと笑った。
「行くぞ。……楽園への殴り込みだ」




