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第62話:錆びついた番人



タタタタッ!!


俺は垂直にそびえる船の側面を駆け上がる。

上からは正確な銃撃が降り注ぐが、弾丸は俺の体に触れる直前で【虚無・小規模消失】によって消滅する。


「なっ……弾が消えた!?」


甲板に飛び降りた俺の前で、スナイパーの女が驚愕の声を上げた。

年齢は俺と同じくらいか。

潮風で傷んだ茶色の髪。ボロボロのポンチョ。

だが、その青い瞳だけはギラギラとした敵意で燃えている。


「化け物め……!」


女はライフルを背負い、腰から二丁のサブマシンガンを抜いた。

接近戦への切り替えが速い。ただの素人じゃない。


「おい、待てって! 話を聞けよ!」


「問答無用! 『聖域』を荒らす奴は海へ還れ!」


ダダダダダッ!!


至近距離からの連射。

俺はとっさに黒い霧を刃の形に変え、弾丸を切り払いながら距離を詰めた。

殺す気はない。武器を無力化して話を聞く。


「そこだッ!」


俺は彼女の懐に入り込み、サブマシンガンの銃身を掴んだ。

【虚無・局所腐食】。

鋼鉄の銃身が、瞬時に赤錆びてボロボロと崩れ落ちる。


「ッ!? 私の銃が……!」


武器を失った女は、それでも怯まなかった。

隠し持っていたサバイバルナイフを逆手で抜き、俺の首筋を狙ってくる。

気迫は凄いが、動きが直線的すぎる。


「悪いな、寝ててくれ」


俺はナイフを持つ手首を掴み、足を払って甲板に制圧した。


「ぐっ……! 放せ! 殺せ! 仲間には指一本触れさせないぞ!」


女は甲板に押さえつけられながらも、俺を睨みつけて叫ぶ。

その必死な様子に、俺は力を緩めた。

こいつ、自分のために戦ってるんじゃない。「仲間」を守ろうとしてるのか。


「……殺さねぇよ。だから話を聞け」


俺が手を離して立ち上がると、女は警戒しながらも身を起こした。

そこへ、下から『バイソン』のクラクションが聞こえた。


「おーい! カケルくーん! 大丈夫ー?」


拡声器越しに、白石の間の抜けた声が響く。

……あいつ、本当に「カケルくん」って呼び始めたな。なんかムズ痒いけど、悪くない。


「……仲間が呼んでるぞ。カケルくん」


女が怪訝な顔で俺を見る。

「……あんた、名前は?」


「相馬カケル。下のが白石、レン、アリス。あと爺さんのゲンゾウだ。……お前は?」


女は少し迷った後、ライフルを下ろして答えた。


「……ナギ。この『船の墓場』自警団のリーダーだ」


「自警団?」


「ああ。ここには、あんたたちみたいな『外敵』から逃げてきた子供や老人が住んでる。……さっきは悪かった。てっきり『マッド・ドッグス』の残党かと思ったんだ」


ナギはバツが悪そうに視線を逸らした。

どうやら誤解は解けたらしい。


「で、あんたたちの目的は? ここには金目のものなんて、この鉄屑くらいしかないぞ」


「南にあるっていう『水上都市』を探してるんだ。何か知ってるか?」


「水上都市……『アクア・ポリス』のことか」


ナギの表情が曇った。

彼女は沖の方角――水平線の彼方を指差した。


「知ってるも何も……私たちは、そこから『追放』されたんだ」


「追放?」


「ああ。あそこは楽園なんかじゃない。……選ばれた人間以外を切り捨てる、海上の要塞だ」


思わぬ情報に、俺は眉をひそめた。

どうやら俺たちが目指していた楽園は、一筋縄ではいかない場所らしい。


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