第50話:鉄屑の街
「へえ……こりゃまた、趣味の悪い積み木細工だな」
『バイソン』の助手席で、俺は呆れた声を漏らした。
砂漠を半日走り続けて見えてきたのは、巨大な廃材の山――いや、街だった。
錆びたコンテナ、飛行機の翼、旧時代のビルの残骸などを無理やり溶接して積み上げた、歪な要塞都市だ。
「地図データと一致。『ジャンク・ヘイブン』。このエリア最大の交易拠点だよ」
白石が補足する。
街の周囲には堀が掘られ、武装した歩哨が鋭い視線をこちらに向けている。
「止まれ! 帝都の車両だな? 所属と目的を言え!」
ゲートの男が拡声器で叫び、重機関銃の銃口を向けてきた。
レンが窓から顔を出し、人を食ったような態度で手を振る。
「所属はフリーだ! 拾った車で観光に来ただけだぜ!」
「ふざけるな。通行料を持ってない奴はハチの巣だ」
殺気立つ歩哨たち。
俺はため息をつき、ドアを開けて外に出た。
そして、車の後部に牽引していた「戦利品」を指差した。
「チップならある。……こいつでどうだ?」
俺が示したのは、さっき仕留めた『砂漠の鮫』の巨大な死骸だ。
特にレアメタルを含んだ発電器官は、この荒野では金より価値がある。
「なっ……『砂漠の鮫』だと!? しかも、こんな綺麗に……」
歩哨たちがどよめき、目を見開く。
彼らにとって、この怪物は恐怖の対象であり、それを無傷(に見える形)で狩れる人間は規格外だ。
「……通せ! 上客だ!」
ゲートが重々しい音を立てて開く。
俺たちは堂々と、鉄と油の臭いが充満する街の中へと車を進めた。
街の中は、想像以上の活気に満ちていた。
露店には怪しげな機械部品や、正体不明の肉が並び、義手や義足をつけた男たちが怒号を飛ばして値段交渉をしている。
「うわぁ……ごちゃごちゃしてる」
アリスが俺の服の裾を強く握る。
帝都の整然とした街並みとは真逆の、生々しい熱気。
「カケル、まずは換金だ。このサメを売り払って、水と情報を買うぞ」
レンが手慣れた様子で、解体屋らしき店に目星をつける。
俺たちは鮫を引き渡し、大量の「旧紙幣」と「バッテリー」を手に入れた。この世界では電力が通貨代わりらしい。
「よし、次は情報収集だ。『第0支部』について知ってる奴を探す」
俺たちが酒場(と言ってもドラム缶をテーブルにしただけの場所だが)に入ろうとした時、背後から声をかけられた。
「おい、アンタら。さっきデカいサメを持ち込んだのはアンタらか?」
振り返ると、眼帯をした初老の男が立っていた。
身なりはボロボロだが、腰には見覚えのある紋章が入った短剣を下げている。
「……だったらどうする?」
俺が警戒すると、男はニヤリと笑い、声を潜めた。
「腕を見込んで頼みがある。……俺を『西』まで連れて行ってくれねぇか? 帝都の追手から逃げてるんだ」
男が懐からチラリと見せたのは、帝都の極秘データが入った記録媒体だった。
どうやら、この荒野にも帝都の因縁は転がっているらしい。
「……話だけは聞いてやるよ」
俺は男に顎で席を促した。
偶然か、必然か。
俺たちの旅は、早速新しいトラブルを拾い上げたようだ。




