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第49話:鉄と砂の海



ゴォォォォォ……ッ!!


6輪の重装甲車が、乾いた砂塵を巻き上げて爆走する。

帝都の軍用輸送車を、白石とレンが改造した特製車両――通称『バイソン』だ。

分厚い装甲に、屋根には音波砲と観測機器。俺たちの新しい「足」であり「家」だ。


「ヒャッハー! 乗り心地はどうだ、相棒!」


運転席でハンドルを握るレンが、エンジン音に負けない大声で叫ぶ。

窓の外には、見渡す限りの赤茶けた大地と、朽ち果てたビルの残骸が広がっていた。


「最悪だ。尻が痛い」


俺は助手席で顔をしかめた。サスペンションが硬すぎて、小石を踏むたびに振動が直撃する。

だが、文句は言っていられない。帝都の外は、俺たちの想像以上に過酷な環境だった。


「……大気汚染濃度、レベル4。防護フィルターがないと肺が焼けるよ」


後部座席でモニターを監視する白石が、酸素マスクを調整しながら言う。

かつての世界を滅ぼした化学物質と、異常進化した微生物が蔓延する死の世界。それがこの「荒野」の正体だ。


「ねえ、見て。……お魚さんが泳いでる」


アリスが窓に張り付いて指差した。

魚? こんな砂漠にか?


「……おい、レン。止めろ」


俺が声をかけるのと同時だった。

砂の海が爆発したように隆起し、巨大な影が飛び出した。


「ギョエエエエエエッ!!」


それは確かに「魚」の形をしていたが、サイズが狂っている。

全長20メートル近い、砂中を泳ぐサメのような怪物。しかも、その皮膚は金属片や岩石を取り込んで硬質化している。


「出やがったな、『砂漠の鮫サンド・シャーク』! 歓迎会にしては派手だぜ!」


レンが急ハンドルを切る。

『バイソン』が横滑りし、怪物の巨大なあぎとが数センチ横を噛み砕いた。

ガキンッ!! という金属音が響く。


「逃げるの!?」

「いや、食う!」


俺はシートベルトを外し、サンルーフを開けて屋根に登った。

食料も燃料も心もとない。向こうから来た肉(と資源)を見逃す手はない。


「白石、レン! 奴を左に誘導しろ! 俺が鼻先を叩く!」


「了解! ……食らえ、超音波機雷!」


レンが車体から小型の円盤を射出する。

空中で炸裂した高周波が、聴覚の鋭い怪物を刺激した。

怪物は悲鳴を上げてのたうち回り、怒り狂ってこちらへ突っ込んでくる。


「来たよ、相馬くん! 正面!」


「ああ……いいカモだ」


俺は屋根の上で身を低くし、右手に黒い霧を集中させた。

相手は金属を取り込んだ怪物。普通の打撃じゃ爪が折れる。

だが、俺の「虚無」なら――。


怪物が口を大きく開け、装甲車ごと丸呑みにしようと飛びかかってきた瞬間。


「……邪魔だ」


俺は黒い霧を巨大な刃に変え、無造作に腕を振るった。

怪物の強固な金属皮膚も、筋肉も、骨も、すべてが「無」に触れて消滅する。


ズンッ……!


怪物の巨体は、鼻先から胴体までを綺麗にくり抜かれ、勢いのまま俺たちの頭上を飛び越えて背後の砂漠に激突した。

ドサァァァン!! と砂柱が上がる。


「……ふぅ。大味だが、食えなくはないか」


俺は屋根を叩いて合図を送った。

レンがニヤリと笑って車を止める。


「へっ、瞬殺かよ。これなら荒野でも退屈しなさそうだな」


「分析完了。……可食部は少ないけど、体内の発電器官に使えそうなレアメタル反応あり。回収しよう!」


白石がタブレット片手に飛び出してくる。

アリスも恐る恐る近づき、動かなくなった怪物をツンツンと突っついた。


「……カケル、強い。お魚さん、かわいそう」


「食わなきゃこっちが死ぬんだ。……今夜はサメのステーキだぞ」


「食べる!」


アリスが即答して目を輝かせた。

切り替えが早いのはいいことだ。


俺たちは巨大な獲物を前に、ナイフを取り出した。

帝都では「敵」を倒すだけだったが、ここでは「獲物」を狩って生き延びる。

俺たちのサバイバル生活が始まった。


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