第47話:夜明けのダイブ
「おい、感傷に浸ってる場合じゃねぇぞ! 床が抜ける!」
レンの叫びで我に返る。
神宮寺という中枢を失ったことで、このタワーの制御システムが暴走しているらしい。
足元から不気味な地響きが伝わり、天井の照明が次々と破裂していく。
「エレベーターは全滅。階段も瓦礫で埋まってる。……どうする、リーダー?」
白石が涙を拭い、ニカっと笑って俺を見た。
リーダー、か。
悪くない響きだ。
「決まってるだろ。……一番手っ取り早い方法で降りる」
俺は壁に開いた大穴――神宮寺との戦いで消し飛ばされた外壁の裂け目へ歩み寄った。
眼下1000メートル。
地上の車が米粒のように見える高さだ。
「マジかよ。正気か?」
「俺たちはここまで『常識』と戦ってきたんだ。最後も派手に行こうぜ」
俺はアリスを抱き上げ、レンと白石に背中を向けた。
「捕まってろ。舌噛むなよ!」
「もう! 最低で最高だよ、あんたは!」
「へっ、地獄まで付き合うって言ったろ!」
二人が俺の背中と肩にしがみつく。
俺は深呼吸を一つし、黒い霧を全身に纏った。
もはや暴走の恐怖はない。今の俺には、制御してくれる仲間がいる。
「行くぞッ!!」
俺たちは空へ向かって飛び出した。
ヒュォォォォォ……!!
猛烈な風切り音が耳をつんざく。
落下速度は数秒で極限に達する。
内臓が浮き上がるような浮遊感。
アリスが「きゃああっ!」と楽しそうに叫び、白石は「死ぬ死ぬ死ぬ!」と騒ぎ、レンは「ヒャッハー!」と狂ったように笑っている。
「……気持ちいいな」
俺は落下しながら、帝都を見下ろした。
あちこちから黒煙が上がっているが、それは破壊の煙ではない。圧政からの解放の狼煙だ。
地下の発電所が停止し、街を覆っていたドーム状の監視シールドが薄れて消えていくのが見える。
「地面が近いぞ!!」
「任せろ!」
激突の直前、俺は【虚無・広域緩衝】を展開した。
地面のアスファルトを瞬時に「スポンジ状の空洞」へと変質させ、着地の衝撃を柔らかく受け止める。
ズズズンッ……!
巨大なクッションに着地したような感覚。
俺たちは勢いで数回バウンドし、大通りのど真ん中に転がった。
「っ痛てて……。着地判定、Cマイナスだな」
「生きてるだけでSランクでしょ……」
ふらつきながら立ち上がると、周囲には騒ぎを聞きつけた市民や、解放された能力者たちが集まってきていた。
彼らは畏怖と、そして希望の混じった眼差しで俺たちを見ている。
「……おい、あれ見ろよ」
レンが東の空を指差す。
ビルの隙間から、朝日が昇ろうとしていた。
人工太陽の無機質な光ではない。本物の、眩しい太陽だ。
「夜が、明けたね」
アリスが俺の手を握る。
その光は、崩れかけたセントラルタワーを照らし、この街の新しい始まりを告げていた。
俺たちは顔を見合わせ、泥だらけの顔で笑い合った。
帝都崩壊。
そして、俺たちの新しい日常の幕開けだ。




