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第45話:喰らい尽くす闇



「おおおおおおっ!!」


俺は咆哮と共に、床を蹴った。

思考は捨てた。痛みも忘れた。ただ目の前の「神」を殺すためだけの刃となる。


俺の体から噴き出す黒い霧が、巨大な槍となって神宮寺へ殺到する。

だが、神宮寺は指揮者がタクトを振るうように、優雅に指を動かすだけだ。


「【空間断絶】」


俺の放った槍が、神宮寺の鼻先で「何もない空間」にぶつかり、消失した。

防御壁ではない。空間そのものが切り取られ、あちら側とこちら側が物理的に繋がっていないのだ。


「届かないよ。君と私の間には、無限の距離がある」


「距離なんざ……関係ねぇ!」


俺は止まらない。

右腕を犠牲にする覚悟で、霧の出力を限界まで上げる。

空間が繋がっていないなら、その「断絶」ごと喰らい尽くすまでだ。


ズズズズズ……!


「ほう?」


神宮寺の眉がピクリと動く。

俺の黒い霧が、断絶された空間の境界線を侵食し始めたのだ。

『虚無』とは、有るものを無にする力。空間という概念さえも、俺の前では餌に過ぎない。


「空間を食い破るか。……野蛮だが、評価に値する執念だ」


神宮寺の目が冷たく細められた。

「だが、純粋なエネルギー量で勝てると思っているのかね?」


彼が両手を掲げると、天井のさらに上、タワーの先端から莫大な光が降り注いだ。

司令室が白一色に染まる。


「ぐアアアアアッ!!」


全身を焼かれる激痛。

俺の黒い霧が、圧倒的な光の奔流に押し負けていく。

質量が違う。濃度が違う。

俺ひとりの生命力と、このタワー全体から供給されるエネルギーでは、勝負にならない。


「相馬くん!!」

「やめろ……! カケルが消えちまう!」


白石とレンの絶叫が遠くに聞こえる。

俺の意識が飛びかける。体が炭になって崩れ落ちるイメージが脳裏をよぎる。


その時だ。


「……痛い!!」


アリスが耳を押さえ、裂くような悲鳴を上げた。


「やめて! ……みんなの命を吸わないで!!」


その言葉に、白石がハッとして端末を操作する。


「……嘘でしょ。エネルギー源は地熱発電じゃない……!」


白石が震える声で叫んだ。


「相馬くん! 奴の力は、このタワーに接続された地下の市民たちから吸い上げてるの! 『選定の儀』で捕まった人たちや、隔離された能力者たちの生体エネルギーを強制的に変換してるんだよ!」


なんだと?

俺は霞む視界で神宮寺を睨みつけた。


「……テメェ。人の命を、ただの電池扱いかよ」


「効率的だろう? 愚民たちの無意味な生が、私の手によって世界を書き換える神の力となる。彼らにとっても本望はずだ」


神宮寺は悪びれる様子もなく、光をさらに強めた。


「さあ、消えなさい。君も私のいしずえの一部となるのだ」


光の圧力が倍加する。

俺の『虚無』が剥がされ、生身の皮膚がジリジリと焦げ付く。

絶対的な敗北。

だが、その絶望的な状況の中で、俺の心臓は奇妙なほど熱く脈打っていた。


人の命を吸って、神気取りか。

そんなふざけた理屈、俺が一番嫌いなやつだ。


「……上等だ」


俺はギリギリと奥歯を噛み締め、光の中で一歩、前へ踏み出した。


「な……?」


神宮寺の表情が凍る。


「お前が『全て』を使って俺を潰すなら……俺は何倍もの『無』で対抗するだけだ」


俺は自分の内側にあるスイッチを入れた。

今まで無意識にかけていたリミッター。

自我を保つための安全装置。それを、自らの意思でへし折る。


「暴れろ、『虚無』。……俺ごと全部、くれてやる」


ドクンッ。


俺の体から色が消えた。

黒い霧ではない。もっと根源的な、光さえも存在できない「空白」が、俺を中心に爆発的に広がった。


「馬鹿な……! 自我を捨てて暴走する気か!?」


神宮寺の光が、俺の周囲で次々と消失していく。

飲み込まれるのではない。最初から「なかったこと」にされている。


俺の意識が薄れていく。

視界がモノクロームに変わる。

ただ一つ、目の前の傲慢な老害を消し去るという殺意だけを残して。


「喰らい尽くせ……!!」


俺は人間であることを辞め、世界を穿つ「穴」となって神宮寺へ突っ込んだ。


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