第38話:蜘蛛の糸
「……ねえ、みんな。ちょっといいかな」
仮眠から目覚めた俺たちを、白石が神妙な顔で呼び止めた。
彼女はここ数時間、一睡もせずにキーボードを叩き続けていたらしい。目の下に隈ができているが、その瞳はギラギラと冴え渡っている。
「どうした? 追手か?」
「ううん、違う。……『全人類覚醒計画』の正体が分かったの」
白石がエンターキーを叩くと、空中にホログラム映像が展開された。
映し出されたのは、帝都の中心にそびえ立つ、巨大な塔のような建造物の設計図だ。
「これは……帝都庁舎か?」
「その地下にある、巨大な増幅施設。……表向きは地熱発電所になってるけど、嘘だよ。これは巨大な『精神感応アンテナ』だ」
白石の説明によると、組織の計画はこうだ。
このアンテナから特殊な波長の精神干渉波を世界中に放射する。
その波長に適合できる人間は強制的に能力が覚醒し、適合できない人間は――
「……脳が焼き切れて死ぬ、か。あるいは廃人になる」
レンが忌々しそうに吐き捨てた。
「俺やアリスみたいな敏感な奴は真っ先に狂うだろうな。……選定どころか、ただの虐殺じゃねぇか」
「放射のタイムリミットは?」
俺が尋ねると、白石は画面の隅にあるカウントダウンを指差した。
「あと48時間。明後日の正午、『完全起動』する予定になってる」
48時間。
短いようで長い。だが、迷っている暇はない数字だ。
「場所は分かってるんだな?」
「うん。この『セントラルタワー』の最上階に制御ユニットがある。そこを物理的に破壊すれば、計画は止まるはず」
白石が赤いマーカーで一点を指し示す。
高さ1000メートルを超える、帝都の頂点。
そこは最も警備が厳重で、最も近づくのが困難な場所だ。
「……無理ゲーだな」
俺は苦笑した。
地上は戒厳令が敷かれ、空にはドローン、地下には殺人鬼のような追手がひしめいている。
そこを突破して、雲の上まで登れというのだ。
「でも、行くんだろ?」
レンがニヤリと笑い、拳を鳴らす。
「俺たちの喧嘩相手としちゃあ、不足はねぇ。あの高慢ちきな塔をへし折ってやろうぜ」
「私も……ルートを探す。セキュリティホールを見つけて、必ず道を作る」
白石も覚悟を決めた顔をしている。
アリスが心配そうに俺を見上げ、俺の手をギュッと握った。
「カケル……死なないで」
「ああ。約束する」
俺はアリスの頭を撫で、立ち上がった。
ここにいる避難民たちを守るためにも、元凶を絶つしかない。
「作戦会議だ。……この蜘蛛の糸みたいに細いルートを辿って、地獄の底から天辺まで駆け上がるぞ」
廃駅の薄暗い灯りの下、俺たちは最後の戦いに向けた地図を広げた。




