第33話:虚飾の都
「……うわ。眩しすぎて吐きそうだ」
助手席でレンが顔をしかめ、バイザーを目深に下ろした。
フロントガラスの向こう、荒野の地平線に、その巨大な街は浮かび上がっていた。
『帝都』。
この国の中枢であり、組織が支配する総本山。
崩壊しかけた地方都市とは違い、そこだけが別世界のように光り輝いている。
巨大な防壁に囲まれ、摩天楼からはサーチライトが天を突き刺し、極彩色のホログラム広告が夜空を埋め尽くしていた。
「あの中で『全人類覚醒計画』が進んでるのか。……見た目はただの繁栄した大都市だけどな」
俺はハンドルを握り直す。
俺たちが乗っているのは、敵から奪い、レンが改造を施した大型装甲車(移動要塞)だ。
見た目はボロボロだが、中身は化け物じみている。
「検問、来るよ。……相馬くん、速度落とさないで」
後部座席から、白石が声を張った。
彼女は今、車内の補助席でパソコンを開き、帝都の防衛システムに侵入している。
「了解。……頼んだぞ、幽霊」
「任せて。……私たちがここにいることなんて、誰も気づかせない」
白石の瞳が青白く光る。
【絶対不可視・広域展開】。
俺たちの乗る巨大な装甲車が、世界からその輪郭を失う。
カメラにも、レーダーにも、そして検問所に立つ武装兵たちの網膜にも、俺たちは「映らない」。
俺はアクセルを踏み込んだ。
検問所のゲートバーが迫る。通常なら激突する距離だ。
「レン!」
「分かってるよ! ……チッ、エンジン音がうるせえんだよ!」
レンが指を鳴らす。
【静寂の断絶】。
爆音を上げていたエンジンの駆動音が、一瞬で「無音」になる。
ヒュンッ。
風を切る音だけを残し、俺たちは閉ざされたゲートをすり抜けた。
正確には、白石がゲートのセンサーを誤認させ、衝突の瞬間にバーを跳ね上げさせたのだ。
「……通過」
バックミラーの中で、警備兵たちが首をかしげているのが見えた。彼らは風が吹いたとしか思っていないだろう。
「ふぅ……。心臓に悪いよ、毎回」
白石が大きく息を吐き、椅子の背もたれに沈み込む。
隣で寝ていたアリスが、その振動で目を覚まし、目をこすりながら起き上がった。
「……ここ、嫌な匂い」
アリスが窓の外を見て呟く。
防壁の内側に入った途端、彼女の表情が曇った。
「匂い? 排気ガスか?」
「ううん。……嘘の匂い。みんな、笑ってるけど、心が泣いてる」
アリスの言葉に、俺は窓の外を見た。
整備された道路。煌びやかなショーウィンドウ。楽しそうに歩く着飾った人々。
一見すれば平和そのものだ。
だが、その街の至る所にある大型ビジョンには、組織のロゴと共に『適性検査を受けましょう』『才能は幸福へのパスポート』というスローガンが流され続けている。
「……表面だけ綺麗に塗り固めて、中身は腐ってるってわけか」
俺は呟く。
今の俺には分かる。この街全体を覆う、薄気味悪い「執念」のような膜が。
「行くぞ。ここが終着点だ」
俺はアクセルを緩めず、光と影が交錯する帝都の深部へと車を走らせた。




