第28話:強奪、あるいはリサイクル
夜明け前。
戦いの跡が残る廃墟の前で、俺たちは「戦利品」を前にしていた。
「……へぇ。組織の連中は、いい車に乗ってんじゃねぇか」
レンが感心したように口笛を吹く。
そこにあったのは、倒した掃除屋たちが乗ってきた大型のワンボックスカーだ。
ただの車じゃない。装甲は防弾仕様、タイヤは軍用。リアハッチを開ければ、簡易的な医療キットや通信機器が満載されていた。
「これなら、アリスを寝かせるスペースも十分にあるな」
俺は運転席に乗り込み、エンジンキーを回した。
ドゥルンッ……!
重低音が響く。
だが、その音を聞いたレンが眉をひそめた。
「……気に食わねぇ」
「あ?」
「エンジンの回転数が不揃いだ。……これじゃあノイズがうるさくて眠れねぇよ」
レンはボンネットを乱暴に開けると、エンジンルームに手を突っ込んだ。
「『調整』してやる」
彼が指先から微細な振動を送る。
金属疲労を起こしかけていたピストン、タイミングのズレたベルト。それらが強制的に「最適解」へと振動させられ、噛み合っていく。
シュォォォォ……
騒々しかったエンジン音が、まるで高級車のような滑らかな静寂音に変わった。
恐るべき整備スキルだ。
「よし、これでマシになった。……あと、この座席も気に入らねぇ」
「はいはい、好きにしな」
次に白石が車内に入り込んだ。
彼女はダッシュボードやシートに残る「前の持ち主(掃除屋たち)」の痕跡を、生理的に嫌がっていた。
「相馬くん、ちょっと『掃除』して」
「人使いが荒いな……」
俺は車内全体に「虚無」を薄く展開した。
ハンドルやシートに染み付いた、男たちの汗や殺気、そして「組織への忠誠心」といった残留思念を吸い上げる。
ついでに埃やダニも消滅させる。
「……ふぅ。これで新品同様だ」
「ありがとう。これなら座れる」
白石は満足げに、後部座席にクッションを持ち込み始めた。
アリスも「……悪い音がしなくなった」と安心したように乗り込んでくる。
俺たちは、敵の移動手段を奪い、自分たちの「城」へとリフォームしたのだ。
「行くぞ。……ここにはもういられない」
俺はアクセルを踏み込んだ。
短かった廃墟暮らしに別れを告げ、漆黒の装甲車が走り出す。
目指す場所は一つ。
リーダー(アルファ)が持っていた端末に残されていた座標。
『第0(ゼロ)実験区画・跡地』
俺が生まれた場所であり、廃棄された場所だ。




