第24話:最適化された悪意
廃墟の入り口。
鉄の扉が、爆発音と共に内側へ弾け飛んだ。
「――こんばんは、ネズミさんたち」
土煙の中から現れたのは、揃いの黒いタクティカルベストを着た3人組。
年齢は20代後半。若いが、その立ち居振る舞いには一切の隙がない。
先頭に立つ男が、ゴーグルの位置を調整しながら、無機質な声で告げる。
「組織より通達。『検体A-08(白石)』および『受信機』の回収。抵抗する場合は四肢の破壊を許可する」
「……随分と上から目線じゃねぇか」
レンが前に出る。
ヘッドホンを外し、首を鳴らす。
「ここが誰のナワバリか分かってんのか? ……不法侵入だぜ、三下ァ!!」
レンが右足を大きく踏み鳴らす。
ドンッ!!
床のコンクリートが波打ち、指向性の衝撃波が3人組に襲いかかる。
並の人間なら内臓が破裂する威力だ。
だが。
「『衝撃』――予測範囲内」
3人組の巨漢の男が、一歩前に出た。
彼は避けない。防御姿勢すら取らない。
衝撃波を真正面からその身で受け止めた。
バァァンッ!!
轟音が響く。だが、巨漢は一歩も下がっていなかった。
いや、それどころか――彼の筋肉が、赤黒く脈動し、一回り膨れ上がっている。
「な……!?」
「痛み(ペイン)……良好。出力変換開始」
巨漢がニタニタと笑う。
彼のコンプレックスは「被虐嗜好」。
受けたダメージや痛みを、そのまま筋力と身体能力に変換する【因果応報】の能力者だ。
高火力なレンにとって、最悪の相性。
「次はこっちの番だ」
巨漢が床を蹴る。
速い。その巨体からはあり得ない速度で、レンの目の前に現れる。
「ガハッ……!?」
拳がレンの鳩尾に突き刺さる。
レンがくの字に折れ、部屋の奥まで吹き飛ばされた。
壁に激突し、瓦礫が崩れ落ちる。
「レンくん!!」
「チッ……!」
白石が即座に反応する。
彼女は自分の姿を消し、敵の死角へと回り込む。
狙うはリーダーの首元。
(見えてないはず……このまま、不意打ちで……!)
彼女がナイフを振り上げようとした、その瞬間。
「――そこだね、お嬢さん」
3人目の細身の男が、白石の方を指差した。
彼の両目は閉じられている。だが、その額には、タトゥーのような「第三の目」が開いていた。
「『不可視』……視覚情報の遮断か。だが、熱源と空気抵抗までは消せていない」
細身の男の能力は【全方位監視】。
強烈な「猜疑心」から生まれた、全てを見通す目。
白石のステルスが、あっさりと看破された。
「嘘……きゃあっ!?」
細身の男が投げたワイヤーが、見えないはずの白石の足を正確に絡め取る。
彼女は床に引きずり倒され、姿が強制的に露わになった。
「白石ッ!!」
俺は叫んだ。
強い。今までの暴走した生徒や、個人のエゴで動く蔵木とは違う。
こいつらは、チームとしての連携と、能力の相性が完成されている。
「残るは……君か」
リーダーが俺を見る。
そのゴーグルの奥の瞳が、冷徹に俺をスキャンしている。
「『相馬カケル』。……データにない能力者。君の処理が、今回の最大の不確定要素だ」
リーダーが腰のホルスターから、特殊な警棒を抜いた。
「だが、問題ない。全ての行動は予測可能だ」




