第19話:それぞれの朝焼け
目が覚めると、見知らぬ天井があった。
いや、車の天井だ。
俺はワンボックスカーの後部座席に寝かされていた。
「……っつ」
体を起こそうとすると、全身に激痛が走る。
だが、生きてる。あの量の毒を飲んで、まだ俺の形を保ってる。
「あ、起きた! 相馬くん!」
助手席から白石が身を乗り出してくる。
運転席にはレンが座っていた。無免許だろうが、この際どうでもいい。
「よぉ、お目覚めかよ、怪物」
「……アリスは?」
俺が尋ねると、レンは後部座席のもう一方を顎でしゃくった。
そこには、毛布にくるまって眠る銀髪の少女の姿があった。
顔色はいい。あの機械じみたケーブルも外され、ただの少女に戻っている。
「まだ目は覚ましてねぇが、脳波は安定してる。……ただの眠り姫だ」
レンの声は、ぶっきらぼうだが隠しきれない安堵に満ちていた。
「研究所は壊滅。蔵木の生死は不明だが……あの爆発だ、無傷じゃ済まないだろう」
「そうか……」
俺は窓の外を見た。
車は海岸沿いの道路を走っている。
水平線から、朝日が昇ろうとしていた。
「……俺たち、これからどうするんだ?」
指名手配犯に変わりはない。
組織もまだ残っているだろう。
帰る場所なんてどこにもない。
「決まってんだろ」
レンがハンドルを握り直す。
「逃げるんじゃねぇ。……アリスが目を覚ますまで、そして俺たちが胸を張って『表の世界』に戻れるまで、戦い続けるんだよ」
「私たちの『居場所』を、自分たちで作るの」
白石が俺の手を握る。
「私たちが集まれば、きっと最強のチームになれる。……でしょ? リーダー」
俺は二人を見て、それから眠るアリスを見た。
何もない俺。隠れたい白石。うるさいのが嫌いなレン。
社会不適合者の集まり。
コンプレックスだらけの欠陥品たち。
だが、朝日の中で見る彼らの顔は、どんな「普通」の人間よりも輝いて見えた。
「……ああ、そうだな」
俺は握り返した手に力を込めた。
「行こうぜ。……俺たちの、リベンジはここからだ」
車は朝焼けの中を走り抜ける。
その先には、まだ見ぬ敵と、まだ見ぬ未来が待っている。
けれど俺の心は、もう「空っぽ」ではなかった。
確かな熱と、仲間の重みが、そこにあったから。




