第12話:解析と朝食
翌朝。
俺を目覚めさせたのは、隣からの「視線」だった。
「……なんだよ、人の顔をジロジロと」
「あ、起きた? おはよう」
白石が至近距離で俺を覗き込んでいた。
彼女の手にはスマホがある。画面には、昨夜の俺たちのニュースが表示されていた。
『昨夜、○○高校付近で爆発事故。ガス漏れの可能性――』
「事故扱いか。さすが仕事が早いな」
「うん。私たちの名前も出てない。……でも、学校にはもう行けないよね」
「ああ。蔵木のテリトリーには近づけない」
俺は体を起こし、伸びをした。
昨日の倦怠感はいくらかマシになっている。
「空っぽ」の体質は回復も早いらしい。良くも悪くも、何も残さない体だ。
「で、どうする? これから」
「まずは、このカプセルの正体を突き止める」
俺は小さなケースをテーブルに置いた。
「これを作った奴、あるいは流通ルートが分かれば、蔵木たちの組織の尻尾を掴めるかもしれない。……心当たりはあるか?」
「うーん……」
白石が唇に指を当てて考える。
その仕草が妙に様になっていて、昨日の「レンズ消し」の機転を思い出す。こいつ、意外と頭が回るんだよな。
「……そうだ。ネットの裏掲示板」
「裏掲示板?」
「うん。『能力の悩み相談』を装った、ドラッグの取引場所があるって噂を聞いたことがあるの。もしかしたら、そこで似たようなものが売買されてるかも」
灯台下暗し。
ネットカフェのPCが目の前にある。
「よし、検索してみよう。キーワードは?」
「『赤いキャンディ』とか『ブースト』とかかな……あ、待って。私がやる」
白石がキーボードを引き寄せ、慣れた手つきでタイピングを始める。
普段から「透明人間」として様々な情報を盗み見てきた彼女にとって、ネットの海から情報を拾うのはお手の物らしい。
カチャカチャッ、タン!
「……あった」
画面に表示されたのは、黒背景に赤い文字が並ぶ不気味なスレッド。
そこには、隠語と共に『奇跡のサプリ』『覚醒剤(文字通りの意味)』といった単語が並んでいた。
そして、一枚の画像。
画質は粗いが、間違いなくあの「赤いカプセル」だ。
『受け渡し場所:D地区 第3倉庫街』
『日時:今夜 22:00』
「……ビンゴだ」
俺はニヤリと笑った。
偶然にしては出来すぎているが、罠だとしても食らいつくしかない。
「今夜、取引現場を押さえる」
「えっ、また行くの!?」
「取引相手を締め上げて情報を吐かせれば、製造元に辿り着ける。……それに」
俺は白石を見た。
「お前も、いつまでも『逃げ隠れするだけの生活』は嫌だろ?」
「……うん」
「だったら、攻めるしかない。俺たちの居場所を取り戻すために」
俺の言葉に、白石は力強く頷いた。
その瞳には、もう昨日のような怯えはない。
「分かった。……私も、もっと役に立ちたい。相馬くんの『器』になれるように」
「言い方が危ないな。……ま、頼りにしてるよ」
こうして、逃亡者たちの反撃が始まった。
まずは今夜、裏取引の現場へ「カチコミ」だ。




