4.
やっぱり、細長い。
トランクルーム兼ワークスペース。トイレ完備。
確かに、そうなのだろう。
一見すれば、依杏の現在の住まい。
シェアハウスで、九十九社で一緒に働いている八重嶌郁伽と、同居中。
そこだって、細長い。
寝る部屋は6畳。はしご付きベッドの、上と下。
無理矢理置いているが、今居るスペースは更に狭く感じる。
で、ここは私物だらけ。
全て、樅ノ木の物だろうか?
名義は、そうだろうけれど。
防犯カメラが、一切ない。
「あんたみたいな人は、いずれ使うことになるかもしれないな。人を追う側なんだろう?」
と、樅ノ木。
鼻が高い。
スラリとした姿勢と、細い手首に首筋に。
数登さんよりは、背丈は低めかな?
やっぱり私の周り、背の高い人、多いな……。
それにしても。
彼に、立って話される。
威圧感満載。まして、私は彼にとってみれば、怪しい奴である。
葬儀屋なんで。
と、依杏は思いに思い。
「えっと」
と、五堂絵卯。
「樅ノ木さんて、探偵だったんですかね」
え?
と眼を剥く依杏と、頷く樅ノ木。
伝えていないというニュアンス。
絵卯は彼の事務所? へ行っていながら、探偵であることも、探偵事務所関連であることも、知らなかったらしい。
「じゃあ、ええと。絵卯さん、どういう要件であの事務所へ?」
と思わず、依杏は言っていた。
「五堂さんの会社単位で、こちらへ頼みごとがあったから。事務所に出向いてくれたまでだ。絵卯さん側がね」
と樅ノ木。
「なら、なおのこと。こんな場所……」
と絵卯。
樅ノ木。
「いいんだよ。こっちの方が、見られる心配ないだろう? 倉庫業法で言われているようなことは、ここでやるつもりないしね。様子から見るに、あんたに事務所へ来られるほうが迷惑だ。話、2~3時間掛かると見た」
「あの時。庭園には、本当に会社関連でいらしたんですか?」
と、絵卯が尋ねる。
樅ノ木。
「そうよ。最も、さっきの話、伏せる前提でいてほしいかな。誰にもバラすつもりはないし。表向きにはしていない。事務所だって」
多少、依杏を睨んで言う。
「職業は様々で、思われてどうぞ。というところかな。護衛ですから、絵卯さんには。ところで」
と、樅ノ木。
2人に少々詰め寄る。
「グラフィックの人間、見たことある? 現実で」
話題に出た、いわゆる「アカリ」の件か。
と、依杏は思いつつ。
「だから」
と、絵卯。
「見てないんですって。私。アカリなんて。でも。いまの時点では犯人、アカリなんでしょう?」
「残念ながら、事件捜査はやりませんので」
と、樅ノ木。
「個人単位で、こうして尋ねているんですがね」
なかなか落ち着けない。
絵卯はそわそわ。
依杏だって同じだが、薄いスーツの彼女にとって、絵卯の容姿のほうがまだ、映えて見える。
絢月咲から貰った人相書きは、多少は合っている。
切れ長でぱっちりした瞳、樅ノ木とは対照的に、主張の少ない口の形と鼻の先。
厚化粧ではない。薄化粧でもない。
帽子を被っている。
それは、このトランクルームでも同じ。脱がない。
「賀籠六さんから、かくかくしかじか……」
と、絵卯は、依杏に。
どうやら、T-Garmeと絢月咲は、絵卯の中では一致している様子。
「なんですが、まあ。一応。空中庭園の件で、話を聞かせてもらったのが最初でして……。あと、あなたの困っていることとか」
言っていて、かなり自分が怪しい。
と思う依杏。
絵卯。
「困っていること、ですか……。遺品整理じゃなく?」
「あ、大丈夫です! 必要以上に、あなたの情報とか、樅ノ木さんのこととか、突っ込んでどうとか、ないですから!」
取り繕いたい依杏。
「顔バレですか。そんなに、困ることです?」
取り繕ったあとに、絵卯の話から出た「顔バレ」というワード。
依杏は、尋ねる。
絵卯。
「ええと。んー。今、一番はやっぱり、庭園で起きたことのほうなんで……。あんまり顔バレは、困ってないですかね」
と苦笑。
「なんか、私の小説中心で、いろいろ起こっちゃっていることの方が、怖いですね。決めつけかもしれませんが。アカリの件が、一番怖いですかね。今は。分かります? 全身白いキャラクターなんです。小説から出た、だの。あっち、そもそも私あんまり関与していないので。派生の箱庭系なんで……」
依杏。こわごわと。
「現実に出て来たって、意味、ですよね?」
絵卯。
「それもあるし。あと、よく悪戯されるんですよね……私」
「いたずら」
「です。父、五堂忍が、私たちを招いて、というか……」
と、樅ノ木を見つつ、続ける。
「空中庭園って呼ばれてるんですけれど、そこへ招かれる少し前あたりから、って言ったらいいかな。嫌がらせ? みたいなのが続いていて」
絵卯。肩をちょっとすくめた。
「護衛って言いますけれど。樅ノ木さんは割と、身を守るに関してでは、私に何もしてくれない感じです」
と、苦笑。
「あの。知っておいて欲しいんですが。ていうかわざとらしいけれど。父の死と、私の小説とは、何の関連もありません。まず! 一応、父はいろいろ事業をやっていた人ってだけで。たまたま私は。小説で頑張れたけれど、その後の周りのサポートは手薄なんで、樅ノ木さんに手伝ってもらっている感じです」
「それで護衛?」
と依杏。
絵卯は肯く。
「変に、私が。空中庭園を。小説のモデルとか舞台にしちゃったんで……。いろいろ、絡めちゃってる感じかな。自分で。この前の嫌がらせ、駐輪禁止を巻かれるんですけれど。よく。それだって、樅ノ木さんにやられた、とか思っちゃったくらいです」
「駐輪禁止?」
と、依杏はポカン。
絵卯。
「嫌がらせっていうか。それメインですかね。困ってるっていうのは……。あー言っちゃった」
依杏。
「駐輪の、嫌がらせ?」
「いや、だからさ」
という樅ノ木を、絵卯は遮った。
「葬儀屋さんって、そういう嫌がらせ、対応してくれたりします?」
依杏は少々考える。
顔バレって言っても、「駐輪禁止」まで嫌がらせ、とすれば。
要するに「自転車バレ」しているってことだよな……。
「じゃあ、なおのこと。樅ノ木さんが探偵って、今は伏せた方がいいってことですかね。下手に、刺激剤みたいなの、ないほうがいいのでは」
「それ、対応ですかね」
と、絵卯。
依杏。
「対応っていうか。立ち回ることは出来ないですが……。その駐輪禁止を巻かれるって現象。自転車に直接、駐輪場で料金を払っても、っていう意味でしょうか?」
「そうです」
「何か、心当たりは」
絵卯は、かぶりを振る。
「思いつくのは……。ですね。ネットでなんかなった、小説家だってバレて、それの妬みとかかなあ。とか。一応、小説以外でも、コンビニでシフト貰っている感じなんで。前の系列店から、今の店に移って来ました」
「えっと。じゃあ、住所は?」
と訊いて、依杏はやめた。
「セキュリティのこと、心配なら。壁とかも一応、対策してあるんだよね。ここ」
と、樅ノ木。
「管理はご存知、義明さんですよ。絵卯さん」
「そうですか」
と絵卯。そっけなく。
樅ノ木。
「防犯カメラ以外だと、室内全体で質量を計って、管理するっていう仕組みらしい。部屋に物を預ける以外で、2~3人が増えようが、2~3時間居ようが、業法だの規則だのを破らなければ。何も、今は話している映像は、管理している側には取られないし。預ける物の中身についても、いちいち聞いてこない。住めはしないが、セキュリティもプライバシーにも事欠いてないだろ?」
事欠いてないのはいいが……。
と、依杏は思う。
以前、絢月咲は絵卯の「困ったこと」を飛ばした上で、空中庭園の話のあと、去った。
それを、本人から直接、問題点を聞いたので。
依杏は頭がこんぐらがって来た。
顔バレの、レベルが。ネット上だけではない。
「すみません」
と依杏。
「駐輪禁止以外に、嫌がらせって何か。ありませんでしたか」
絵卯。
「たぶん、信じてもらえないとは、思います。顔バレの範疇じゃないんですが……」
ヤバいなあ……。やっぱり。
と依杏は思う。
あの、絵卯の後ろ? に居たかもしれない。
顔の見えないフード服。たぶん男。
思い出しつつ。
「つけねらい、とかでしょうか」
「尾行……みたいな、ですかね。それこそ」
と絵卯。
皮肉なものである。
自分も、今日。
樅ノ木を尾行し。
とか、依杏は思いつつ。
「この辺。黒敷周辺の情報なんだけれど」
と、樅ノ木。
「割と、〔空中庭園〕に関わった人が多いんだ。絵卯さんにとっては、割と安全な地区な気がするね。俺は」
絵卯は、かぶりを振る。




