胃がさらに強化された
◇
「おい、ところでここは一体何の店なんだ?」
「何って、入ってきたんだからわかるでしょ?店の前の看板を見てなかったの?」
「よく見てなかったぜ……」
「おスイーツのお上品なお店だよ!」
「いちいちおをつけんな、おを」
「推せる……」
おスイーツ……。確かにおをつけんな、おを。
「そうだよ、この店は王都に務めていた有名なパティシエが開いたという推せるお店なんだよ」
「それはずいぶんとまあ、推せる店ね」
「私、ずっとここに来てみたかったの!これからは毎日ここに来れると思うと……はぁ……」
「本当にそんなに有名な人が作ってるのか?まあ実際に食べてみればわかることか」
「食べなくてもわかる」
それは食べたい。
「そうだよね!わかるよね?お店を見ただけで、ここは絶対おいしいってわかるもん」
「……そんなもんなのか?」
「では、この一番有名なパンケーキを頂きましょうか」
「お腹は膨れている、だが食べたい」
でも空腹を維持できなくなるから、いらない。
「そうだよねー!ロアル様はいっつもそう言って一緒に食べてくれるから大好き!」
「大変だな、ロアルも……」
「ん?何か言った?」
「いや何も……?さあ、俺もいただくとするかなぁ?」
◇
「噂に恥じない本当に美味しいお店だったわね、私また来たいわ」
「でしょでしょ?この町に来て嬉しい事がまた一つ増えたね!」
「ま、まあ確かに味は美味かったが……」
「もう、ルクスはいっつも素直じゃないんだから。ロアル様はどうだった?」
「お腹は膨れていたが、美味しいもので胃がさらに強化された」
空腹で食べたくないのに、たくさん食わされて味わかんなくなって、ちょっと腹痛い。
「ふふっ、また胃が強化されちゃったんだあ」
「おいおい……」
「ロアル……」
「さあて、たくさん食べたから、次は腹ごしらえしないといけないね」
「これから、またどこかに行くのか?」
「今日は付き合ってくれるって約束したでしょ?」
「まぁそうは言ったが……」
「四人で町を回るなんて……。もうこれから先できないかもしれないんだよ……?」
「そんな泣きそうな声で演技をするな、分かったから。でもみんなの都合が合えばまた出来るだろ?」
「新しい町の感動を四人で共有できるのは、今!だけなんだよ」
「……それを言われると、まぁ確かになあ?」
◇
「それで、今度は武器屋かよ。アイラにしてはちゃんとしているじゃないか」
「あの、ここに来るのを決めたのは私よ」
「ああ、そう……」
「さーて、この町の武器屋の品ぞろえはどうかな?」
「……なあ、この剣なんてロアルさんにピッタリじゃないか?」
「……駄作だ」
いいかも。
「おぅ……。そうか」
「……ねえ、このロッドはアイラに良いんじゃない?今使っている武器もそろそろ変え時じゃない?」
「うーん、でもね。私にはもうちょっと可愛いロッドがいいかな」
「そ、そうよね……」
何だか場の雰囲気が悪くなってるな。
ここで俺が、何か場を和ませる一声でも言えたらな。
「ナイフ、ナクス、ルクス」
このナイフなんて、盗賊のルクスにちょうどいいんじゃないだろうか。
「……」
「……」
「ちょっと、私たちにはまだ必要なかったみたいね。さあ次のお店に行きましょうか?」