6話
「おはよー。」
「おはよっすー。」
「それで昨日親がさぁ…。」
「一限なんだっけ?」
「やべ、弁当忘れたぁ。」
「ロン!」
「今日6時起きなのに寝癖治んなくて遅刻しかけたわ!」
(今誰か放銃してなかったか…?)
朝から麻雀するな。ていうか学校でやるな!
訳はないが何となくちらりと涙川の方に目をやると、
やはり昨日と同じ様子で座っていて、頬杖をつきながら目の前で会話をする級友たちを、どこか愛おしげな目で眺めているのだった。
そう言った余裕のある、というか達観したような表情が
また、これまでの彼女からは感じられない情緒があり
少なくとも僕の心にはどことなく違和感だった。
夏休み明け2日目とはいえ、学校という空間は
不思議なもので、すぐに「日常」を取り戻す。
揃えられた学生服。居眠りには少し窮屈な机。
短調で主張のない一面の壁。それに対して
まるで言い訳でもするようなエントランスの草花。
中途半端な構造の昇降口から廊下にかけて。
通り抜ける声、足音、視線。
その一つ一つが、僕たちに「一部」であることを求め、
僕たちもまた、惰性のように学校生活というアルゴリズム
を無意識のうちに求め、縛られることに満足する。
まあよくできたものだな。と思う。
「今日も百山さん休みなんだね。」
「ん?うん、そうみたい。」
不意に、仙龍が問いかけてくる。
「仙龍は百山さんと何か関わりあったんだっけ?」
「いや、特にはないけど……ほら、百山さんって一番
涙川さんと一緒にいた印象があるから…。」
「あー、言われてみれば。」
たしかに百山纚世はよく
涙川と一緒に居た。
二人とも物静かなタイプだから気があったのかもしれない。夏休み前に一度グループワークで関わった時は
声が小さいものだから、よく聞かないと聞き取れなかった。
それでいて背丈もかなり小さいものだから、もしかしたら
前世は蝦夷リスかなんかだったんじゃないかと思う。
それはそれで一部の男子生徒からは陰ながら人気を
博しているとか何とか。
詳しくは知らないけど。
「何か体調でも崩したんじゃない?
悪くいうわけではないけど丈夫ではなさそうだし。」
「まぁ、そうだろうね。」
そう仙龍が返答して間も無く前の扉が開いて担任が入ってきた。
「はいおはよう。」
「おはようございまーす」
「はい、じゃあ登校2日目ということでね…おーい霜村ぁ、麻雀するなー。親御さんにバラすぞー。」
「えっっちょっまってくださいよ先生〜。今いいとこなんすよ!ほらみて!ここ!三萬ツモったら三倍満なんすよ!」
「じゃあお前それ上がれなかったらスマホ没収な。」
「え。」
「まぁそんなことは置いといて、差し当たりの予定確認だけど、今月末には中間考査があって来月には文化祭が控えているという感じなわけだが、準備は進んでる感じか?」
酒井は視線を送って話を振る。相手は学級委員長の
蓼久保朝凛だ。
あさりという中性的な名前だがれっきとした男子である。
「とりあえず夏休み中にクラスラインの方で話し合いを進めて、内容は実行委員会の要項に抵触しない程度の簡単な飲食物を提供し、かつ我々一人ひとりがそれぞれに合わせた
趣向を表現し、無理のない範囲で来場者と接することを目 的とした企画となります。」
「長いなおい…もっとわかりやすく言ったら何をやるんだい?」
不意に蓼久保の顔が固まり、次第に苦虫を噛み潰したような、悔しそうな表情になる。
この言葉は使いたくない、とでもいうように。
「…………コン…。」
「コン?」
「…コン……カフェ…………です…。」
実は蓼久保は最後まで反対していたのだが、男子の勢いを御しきれなかったのと、女子もなんだかんだで否定しなかったので、多数決で決まってしまった。
恐るべし、民主主義。
ちなみに僕は最終投票までお化け屋敷に投票していた。
お化け屋敷って入るのは怖いけどやるのは楽しいよね。
……楽しいよね?
「コンカフェ…?何か聞いたことあるけど良く知らんな。まぁお前らで決めたことならいいだろ。準備しっかりな。中間の勉強もしとけよー。以上。」
そこでホームルームは終わり、一限に向けてみんな準備を始める。
僕も机の横のリュックを探って一限の物理の教科書を出そうとしたその時、勢いよくドアの開く音がして
みんなザ・ワールドか何かを発動されたかのように固まる。
「ハァ…ッハァ…と……となりちゃん?…!!、となりちゃん!居た!……居た…居た………。」
雪崩れ込むようにして入ってきたその少女は、
涙川を見るなり駆け寄って、まるで生き別れの片割れにしがみつくように縋って、声をあげて泣き始めるのだった。
これから日曜は定期更新すると思います(頑張ります、、、
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