27話
それから、お互い人脈が広い方とは言えないけれども、
僕たちはとりあえず知り合いの出店を様々に見て回った。
安積香のところの女バスがやっている縁日店で遊んだり、
百山の服飾部の展示を見たり、蓼久保の弓道部で弓道体験をしたり……。
隣のC組の人達がやっているお化け屋敷には、涙川が入ろうと言ってきたけど、全力で話を逸らして回避した。
前にも言ったが、お化け屋敷はやるのは好きだが、
客として入るのは大の苦手だ。
僕は一際臆病だから、大きい音やジャンプスケアはかなり苦手な口である。
「―そうそう、この袋竹刀をこう持って…。あ、夏草。…涙川さんも。」
「……よっ。」
「どうもー。」
体育館のある施設(体育館やトレーニング室、シャワー室などが総合してある。)の地下にある剣道場では、剣道部が子供向けのチャンバラのレクリエーションをしていた。
防具をつけた身体のあちこちに紙風船をつけて、時折防御もしながら(勿論高校生が持っているのはプラスチックの柔いチャンバラ刀である。)子供達に割らせるというものらしい。
(文化祭でまで体を張らなけらればならないとは運動部もなかなか大変だなぁ。)
いや……バレー部はクレープやってたっけ。
僕は考えるのをやめた。
「夏草もやる?」
「いやいや……僕は貧弱だから。」
「そんなことないと思うけど…、じゃあ涙川さんはどう?」
「えぇ私?…いや…ちょっと遠慮しとこうかな。」
あはは、と誤魔化すように笑いながら涙川は断った。
正直僕も涙川まで誘うとは思わなかった。
面で暗くなっていて見え辛かったが、よくよく見ると仙龍の目が普段よりもまっすぐ物を捉えているというか…簡単に言えばキマっていた。
やはり剣道場だと少し気が締まるんだろうか。
仙龍が子供五人に3分間追い回されてめった打ちにされたのを見届けた後、僕らは剣道場を後にして体育館のステージに向かった。
お目当ては、前々から興味のあった雅歌の演奏である。
体育館に入ると、丁度前の組のバンドの演奏がクライマックスに差し掛かっていて、誰かがザ・ブルーハーツの歌を歌っているところだった。
高校の文化祭にしてはなかなか渋い選択だが、僕自身かなり好きな曲たちなので、頭から聞いておけばよかったと後悔した。
「……涙川さんは…。」
「ん?」
「普段、曲とか聴いたりするの?」
「うーん…私はあんまり聴かない方かなあ…。学校の子達がなんか最近の曲がどうとか全然わからないし。」
「そ、そう。」
「なつくさ君は?よく聴くの?」
「そう…だね。登下校中とかは、ずっと聴いてるし、割と…最近の曲も聴いてるかも…。」
「へぇー、じゃあクラスのみんなとも話したりするの?」
「……いや、僕は…日本でも韓国でもアイドルの曲とか、全くわからないからなあ。」
「確かに、聴かなそう。」
「……ちょっと失礼じゃない?」
「あはは、ごめんて。」
「なんかニュースで見ても皆んな同じ顔に見える……。」
「なんかめっちゃ怒られそうだね、それ。」
…確かに怒られそうだ。それこそ、恵田君なんかにこんな事言ったら「お前人間じゃない」とか言われそうだなぁ。
彼、何かしらのアイドルの写真付きクリアファイルの裏地にでかでかと「命」って書いて持ってくるからな。
……だってしょうがないじゃないか。
わからないものはわからないのだ。
興味が薄いからなのかもしれないが、僕は大体、周りの男子が言うような「可愛い!」やら「付き合いたい!」やらに疎いのだ。
何となくわかるような気はしないでもないが、心が動いたようには感じられない。
そんなやりとりをしているうちに次の舞台のセッティングが済んだようだ。
開会式の影響も大きいのか、体育館内にはそれなりの人が集まってきた。僕たちは中盤くらいの位置に座っている。
「えー、続きましては2年D組、霜村雅歌君による、『俺の趣味で選ぶJポップ&サブカル&クラシックメドレー』です。霜村君、お願いします。」
「―あ、あー、どうもー!ご紹介に預かりましたァ、霜村です!よろしくお願いしまぁす!」
場内から歓声が上がる。
「まあ、今日はこの場で気持ちよく弾かせてもらうために、何曲か準備してきたんで、まー知らないのもあるかもしれないですけどぉ、よかったらぁ聴いてってください〜。」
それだけ言ってマイクを預け、雅歌は演奏を始めた。
彼の選曲は宣言通り本当にてんでばらばらで、
最初はポケットモンスターのゲームに出てくる
シロナ戦のBGMだったと思ったら、途中で米津玄師に
行ったり、最後は幻想即興曲だったり。
そしてピアノを弾いてる時の彼は、やはり有無を言わせぬ圧倒的な輝きを持っていた。
楽しそうに。
お前らも楽しいだろ?と語りかけるように。
溢れる感情を両の手で包んで押し付けられるように、
僕達はその魅力から逃れられないのだ。
知らない筈の曲なのに、拍子を合わせたくなるような。
とても綺麗な時間だった。
彼一人だけが線香花火のように瞬いて、そして消えた。
(そういやあいつポケモン愛好会にも入ってるって言ってたっけ。)
「本当に……多趣味な奴。」
僕は割れんばかりの拍手の中で、誰にも聞こえないように、誰に対してでもなくぶっきらぼうに呟いた。…だけだと思っていた。
「……なつくさ君ってさ。」
「え。」
「あんまり……雅歌君のこと、好きじゃない?」
「な……。」
突然、思っていたことを見透かされたような気がして、心臓の辺りが掴まれる思いがした。
「なつくさ君、睨んでたよ。ずっと。雅歌君のこと。」
「……そんな、ことは…。」
三秒ほど、涙川と目が合う。
この人が何を考えているのかさっぱりわからない。
輪郭のはっきりした彼女の直線的な瞳が、僕の何かを見ている。
「なんて、冗談だよ。」
「え……。」
「いや、ちょっと表情が暗かったのは本当だからさ。疲れちゃった?」
「あ、あぁ…まあ、ちょっとね……。」
(なんだったんだろう…。)
本当に冗談だったとは思われないほどの胸騒ぎがしたが、
本人が冗談だと言うのだから、それ以上追求はしなかった。
それから、残りわずかになった時間を、学校中をだらだらと二人で歩き回りながら過ごした。
僕は場を温めるのが得意ではないから、会話自体はそれほど多いものではなかったけど、色々な話をした。
一年の頃の思い出や、その前僕が群馬にいた時の話。
涙川の中学生の時の話。
勉強の話。
今の友達の話。
休みの日は何をするのか。
どんな食べ物が好きか。
そして、一番印象に残っているのは、僕が、
僕に兄がいることを言って、涙川に兄弟姉妹について
尋ねた時の彼女の表情である。
「涙川さんは……兄とか、妹とか、いる?」
(ひとりっ子っぽいな。)
僕は勝手にそう予想していた。
「あ、あー私は……んー……おね……いや、一人だよ。
……今は。」
「あ、ごめん……。」
「ううん。大丈夫。」
いるのかいないのか曖昧な回答だったが、何か複雑な事情がそこにあるのを即座に察した僕はしまった、と思って謝った。
「嫌なこととか思い出させてたりしたら、本当に申し訳ない。」
「大丈夫だって。……うん、そう。だから今は大宮で二人暮らしなんだ。」
二人、と言うことは母親とだろうか。まあ父親かもしれないが、彼女が定期的にお弁当を作ってもらっているのを見ると母親の可能性の方が高い気がする。
先程言いかけたのが「お姉ちゃん」だとしたら、両親が離婚して姉の方はもう片方の親について行った、ということなのだろうか。
(………悲しい…だろうな…。)
僕でさえ、親が離れ離れになる時は心の中で何かが引き裂かれるように痛かった。苦しかった。
それを、姉妹まで引き離されるとは、僕の想像も及ばない苦悩であったことだろう。
「本当に、ごめん…。何か、僕にできることがあれば……、いや、それはちょっとキモいか…。」
「ふ、ふふ。だから大丈夫だって。……優しいね。」
「優しくなんかないよ。僕が勝手に痛いだけだ。」
「それを優しいっていうんだよ。…ありがとね、気遣ってくれて。……でも、あんまり他の人には言わないでね。変に心配させたくないし。」
「あたりまえです。」
誰が言い触らすものか。
「あっ、やば。もうこんな時間だよ、なつくさ君。校庭に行かなくちゃ。」
「ああ、本当だ。」
時刻は気づけば午後五時を回っていた。
五時半から後夜祭とキャンパスファイヤー……そして花火がある。らしい。
閉会式というものはなく、
これらが代わりのような機能をしている。
なので五時二十分までには校庭に集合しなければならないのだが、このままでは遅れてしまう。
「早く行かなきゃ。とりあえず走ろう!」
「あ、う、うん。」
複雑な情報が絡み合ってうまく働かない頭より先に、
涙川を追いかける足が動いた。
文化祭編がようやく終わりそう、、、
テンポ上げてかないと話が進まないなあああ




