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14話

ガタンガタン……

土曜日。

午前10時過ぎの、安穏とした空気の宇都宮線。

その下電車に揺られて、ぼーっと窓の外を見つめながら

車内の広告を一つ一つ、目に留めていく。


(……長いなあ。)


地元までは、熊谷から電車で約2時間半くらい。

遠すぎるということもないが、普段東京まで登校しているからか、心なしかずいぶんと、離れてしまった気がする。

一応、荷物には一通りの勉強道具と―どうせ大してやらないだろうが―あと、昨日言われていたお土産は、急で考える時間がなかったので帰りに何となく東京ばな奈を買って置いた。なぜバナナなのかは甚だ疑問だが、地元の人間にとっては東京感が出て丁度いいし、究極に都合のいいお土産だ。

明日、久しぶりに。本当に、久しぶりに祖母を訪ねる。


僕はどちらかと言えばおばあちゃんっ子?だったんだと思う。そもそも誰かに心から甘える、という気持ちが何となく

わからなかったので、明確に懐いていたとは断言できないが。

もちろん、母は優しかったが、何か常に僕を見定めるような、勘繰るような視線を持っていて、それがどうしても僕は居心地が悪かった。

親だから、子供が何をしているのか、何を考えているのか

把握するのは当然の権利だと、そんな目が。

親の心子知らず、とは、逆も然りな気もするのだ。


逆に祖母、長良川刻子(ながらがわ ときこ)は僕が孫だからか、あまり自分から干渉はせず、僕が遊んだり、

本を読んでいる時によく同じ空間にいて、

僕が話しかけたら、どんな些細なことでも

少し考えて返答してくれる、そんな人だった。

今、僕が料理や身の回りのことができるのも、祖母に教わったり、その老練というか、細やかな美しさの一つ一つを

真似しようとしてきたからだ。




「まもなく、高崎。高崎です。お忘れ物なさいませんよう、

ご注意ください。we will soon be arriving at…….。」


いつのまに時間が過ぎていた。

ここで上越線に乗り換えて、1時間と少し揺られてゆく。




(おばあちゃん…僕のこと覚えてるかな……。)

アルツハイマーを発症したのは大体一年前、とはいっていたものの、、正式に診断されたのがそのくらいで、実際には

僕が家を出る前、中学にいた頃からその兆候はあった。

当時はまだ自力で歩けたり、物を運んだりはできたが、

会話をしている最中にふと、目の色が変わるのだ。


「あれ、そういえば夏…高校はどうするの。」

「ん?東京。父さんと母さんに何とか頼み込んで、ちょっと手前の熊谷で一人暮らしさせてもらうんだって、この前も言ったじゃない。もう五回目くらいだよ?」

「ああ、そうだったそうだった。わかってるよ。」


いつもこんな調子で、自分がぼけ始めたと思われたくないのか、必死で取り繕おうとしていた。

家事も、最後に包丁を落として足の指を切ってしまうまで、

頑として続けようとしていた。

今思えば、祖母なりの、自分の体と運命への必死の抵抗だったんだと思う。


僕が東京へ行く日。


「夏……もう行くの。」


その頃に祖母は既に下半身が痺れるというので車椅子に乗っていた。


「うん。明日始業式だからね。荷物はもう向こうにまとめてあるし。」

「……そう。」

「入学してしばらくは、忙しくなるから、帰ってこられなくなるかも知れないけど。げ…。」


元気でね。そう言おうとしたのに、なぜか言葉に詰まってしまった。車椅子の上の、在りし日の姿からはもう信じられないほど細くなった四肢を見て、自然な「元気でね。」

が、どうにも出てこなかった。それでも振り絞って、


「元気でね。」


そう言った。


「夏も、体には気をつけるんだよ。ああ、そうだ。これを

渡しておこうと思ったんだよ。」

「?」


そう言った祖母がポケットから取り出したのは、見覚えのある、手のひらサイズの猫の信楽焼きだった。

祖母は猫が大好きで、僕も自然と好きになったのだが、

自分は歳をとって猫を飼う年齢ではないからと、

いつもこの信楽焼きをポケットに入れて持ち歩いていた。

そんな大切なものが、今僕に手渡されようと、小さな祖母の

手のひらにちょこんと、乗っていた。


「どうしてさ、これいつも大事にしてるじゃない。」

「いいのよ。あんたも小さい頃からこれ好きだったでしょう。」

「でも……。」

「私はお金がなくてこんなものしかあげられないけど、せめてもの入学祝い。これからは、これを見ておばあちゃんを

思い出してぇな。」

「そんな…まだお迎えが来たわけでもあるまいに……。」

「そうだねぇ。でもいいのよ。夏が持っててくれた方が。」

「……わかった。ありがと、おばあちゃん。」

「ああ、行ってらっしゃいねえ。」

「うん。行ってきます。」


あの時僕を見送っていた祖母の表情を、僕はまだ鮮明に

覚えている。

片時のの陽だまりのように徒らで、何だか寂しく、でもどこか満足げな、そんな表情を。


それから、祖母の症状は一気に進行を早め、次に僕が帰った一年生の夏休みには、日常会話にも支障をきたし始めていた。

話しかけても、答えは帰ってくるのに、会話にならない。

目が合わない。

まるで祖母の皮を被った何かが、そこに居座っているようだった。


もしかしたら、祖母はわかっていたのかも知れない。

あまり時間が残されていないことが。

祖母が祖母でいられる期限が、迫っていたことが。

だから、僕にあの猫の信楽焼きを渡したのかも知れない。

あの子がひとりぼっちにならないように。


そして件の猫は、今僕の部屋の目覚ましの横で、

毎朝僕を見守ってくれている。

まるで祖母との思い出の日々を、僕が忘れないよう語りかけるように。






「まもなくー、湯檜曽ー。湯檜曽です。……。」


また電車でうとうとしていたら、すっかり眠ってしまっていたようだ。乗り過ごさなくて良かった。


少し肌寒い気さえする。東京ではまだ残暑に苦しむ人が多いというのに。そう感じながら、遠くの山々を望める狭いホームに1人降りる。


(久しぶりだ……。)


感慨とも憂鬱とも行かない複雑な心境を抱えながら、

小さな無機質の駅舎を当たり抜けて駅を出る。



よく晴れた山あいの秋晴れに心を寄せていると、後ろから不意にひゅうひゅうと爽籟(そうらい)が頬をなでていった。


(やっぱりちょっと寒いかも。)


それもまた、東京にも地元にも居付かないぼくのこころを

天地の精達がからかっているような気がした。





思い立ったので主要キャラの外見的特徴をまとめます。

あくまで僕の中でも彼らの印象なので、もし読んでいただける方は、容姿はご自由に想像していただいてお楽しみください。

・籠夏草

身長:174 体重:62

髪の毛はちょっと長いくらい。帰宅部だけど鈍るのが好きじゃないので運動はしてる。顔は、、、まあ人並みには。

・涙川となり

身長 163 体重:51

髪の毛が何とびっくり真っ白。それにメッシュ?的な感じで薄桃色が入ってる。イメージは染井吉野の花弁。

まあ可愛い。もともと顔はいいけど、色々あった今は

不気味なほど人を引き込む感じがする。

・荒幡仙龍

身長178 体重76

めっちゃごつい(太ってはない)。剣道の時の風格は超高校級。そして坊主。何と言っても坊主。これ大事。顔は悪くないのに坊主ゆえモテない。残念。

・霜村雅歌

身長159 体重53

小柄。小さい。童顔。でも声は大きい。運動神経は異常によく、何でもできちゃうタイプの子。

・安積香杏来

身長167 体重56

女子の割にさらっと高い感じ。髪は長く後ろに流していて茶髪。ちょっとギャルっぽさもある。実はツンデ、、、おっと誰か来たようだ。

・百山纚世

身長154 体重47

仙龍の対偶かってくらいちっちゃい。目がくりくりしてるタイプの顔。小動物みたい。でも気が小さく声も小さい。


他にも色々いますが今はこんなところにしておきます。

是非これからもよろしくお願いいたします。



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