8.光の神鎧と武器
電球から発する青と黄色の光が、周囲の全ての物質を一瞬で染め上げる。ぼろぼろの服は溶け、電球から紡ぐ数多の光芒の縒糸が少年の身体を勇ましく包み込む。迸る熱が、身体と精神を変貌させてゆく。
脚がみるみる伸び、少年の胴や胸板、腕の筋肉はたくましく成長し、雄たる姿に変容する。胸と腕の筋肉が増え、太ももと脹脛も太くなり、握り拳に入る力が凄まじく上がる。
成長した身を包む光がオーロラのマントとして翻ったかと思うと、瞬きながら颯爽たる鎧を形作り、背中にはターコイズ色の翼が広がる。
このエネルギーは人智を超えたものなのか。身体中を透明な霊脈が走ったかのような、不思議な力に満たされるのを感じた。
未知の力に促されるまま、クセソーティアソは己の胸から何を受け入れるように手をかざす。すると、その手の間から滑るように、輝く長い金属の杖が精製された。変貌したオンソロージーは杖の先端にある窪みに宝石のように嵌め込まれる。
どこからか重々しい声が響いた。
『神の力たる光源を扱う者、ライターズよ、熾烈のプラチナの鎧、日神衣とParthenona Fosを継承するのだ、君はネオンライトの戦士だ』
己を知り、己の負の感情を向き合えるいまこそ、望んでいた盾と武器を与えられた。名実ともにライターズの戦士となったのだ。
周囲に砂の嵐がドーム状に広がっている。無音と無限の空間に亀裂が入り、粉々のピースに砕け散る繊維獣は脱皮をしているようだ。
(この空間の中に水の概念が欠けている。水がなくても生命体が生きられる。ここは、海だったのかもしれない。きっとそうだ、だけど引き留めないとこいつは水を奪い続けるんだ。砂漠は概念の侵食フィールドだ。早く止めないと地球全体に水の概念の喪失が広まる。光に続き、水が実存しなくなるなんて、これこそ人類の滅亡じゃないか……!)
見失っていた獲物をようやく見つけた繊維獣は高く咆哮する。
稲妻のようなスピードで黒い触手を伸ばしてくる。しかし、どうすればいいか自然とわかった。クセソーティアソは流れるように杖をかざす。
「閃光流動柱!!」
電球から冠の形をした真珠色の光線が放出される。高エネルギーの凄まじい衝突。
戦士は、敵の攻撃を押し返しながら、敵の懐まで疾駆する。巨体の下を猛烈な速さで潜り抜けると、身を切り返し、そのまま一気に先程の背部まで駆け上る。
ビームエネルギーを吸収し、燃える溶岩の色となった巨獣の繊維は、その縺れを四方へと分散させる。いったいどれほどの繊維からなっているのか想像すらできない、未知で高度な文明のカラクリ。しかし、クセソーティアソはこのワイヤーの中に混在しているのは有機化合物だと悟っていた。
(地球外生命体だろうが、有機化合物が混ざっている限りコイツ自身も水分が必要なのに違いない)
その、生命体の機能を保持するための水を逆に奪うのだ。
猛り狂う繊維を躱しながら、さっき見つけた弱点を探す。ここだ。怪物の繊維一本の上に足の磁力で危うく立つと、ネオンライトの戦士は武器を構える。知るはずのない詠唱を口にする。
「閃光流動柱、いけええ!」
金属の機械体に爛れの穴がぽつぽつと開いた。その中から黒い粘着性の液体が化膿した傷のように噴流する。
「キいいいいいいいいいいいいいいい」
怪物は金属を切り裂くような絶叫をあげる。
光の戦士はアブレイズクロックの磁石の操作力を利用すると、自身を攻撃していたフィラメントを、傷穴へ向かうよう誘導する。
「自分自身の水分を奪い取ってお前も干からびろ!」
同時に右手で握るパルテノナ・フォスから攻撃の光線を作りだす。
「閃光流動柱!」
光芒は繊維を焼き払いながら、その内部へと容赦なく侵入していく。
巨躯はびくびくと痙攣し、感電したように跳ねまわった。苦悶の絶叫は鼓膜を破りそうなほど木霊し響き渡る。反撃できない今がチャンスだ。
「回復させるもんか!」
残りのフィラメントも本体にできた穴に通すように誘導する。水分という生命力を、自分では制御できない力で搾り出された怪物は、鼓膜を貫く断末魔の叫びをあげると、乾燥した果実のように干からびてしまった。地を揺るがす爆音と共に地面に落下し、砂埃を巻き上げる。